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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第八章 攻略キャラ×攻略キャラの共闘

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21 持つべきものは友である




「そりゃあ、災難だったわね」

「ほんとよ、結局リースも皇宮抜け出したのバレるし、ほんと災難だった」




 あはは……お疲れ様。と笑いながら私の部屋を掃除しているリュシオルは言うと、箒でゴミを掃き始めた。相変わらず綺麗好きなようで、床に散らばっていた髪の毛は何処にも落ちていない。彼女が私のメイドで本当に良かったと思う。


 私はベッドの上に寝転び、先日の事を思い出していた。


 あの後、アルベドは転移魔法を使い公爵邸に戻ったと思われ、取り残された私達は、お出かけが失敗に終わって、とぼとぼと皇宮と聖女殿へ戻る最中にルーメンさんに見つかった。彼は私達を見つけると血相を変えてとんできて、何があったのかとリースの肩を揺さぶりながら聞いていた。一応、皇太子と補佐官という立場なのにどうしてこうも友人関係に見えてしまうのだろうと、不思議でたまらなかった。


 それは良いとして、事の経緯を話すと、ルーメンさんは顔を真っ赤にしてリースを怒鳴りつけていた。

 私が思っていたのと同じ、このご時世に何を考えているんだという皇太子が取るべき行動じゃないと怒りを露わにしていた。それを、リースは痛くも痒くもない、そして全く他人事のように聞いていて、私まで呆れてしまった。彼は、自分は悪くないと言っているようで、話を聞く耳を持たなかった。



 そうして、斯く斯く云々で、リースはルーメンさんに連行され、私は聖女殿に戻ることになった。道中でリュシオルに出会い、一人で帰る……と言うことはなかったので、そこの所は心配がなかった。一応聖女という身分で、また誘拐でもされたら大変だからだ。

 私は、ベッドの上で左右に転がりながらリュシオルを見た。てきぱきと動く彼女を見ていると、自分が如何に幼稚で、いい生活をしているか分かる。




「何よ、人のことジロジロと見て」

「別にー、メイドって大変だなあって思って」

「まあ、そうね。大変なこともあるけど、貴方の専属メイドだからっていうのもあって給料はそれなりだし、それに平民よりもいい暮らしをしていると思うわ」




と、リュシオルは答えた。  


 彼女の顔にはやる気の文字が貼り付けられており、生き生きとしていた。私じゃやっていけないだろうなと思いつつ、続きを話す。




「それで、リュシオル聞いてよ。何か、隠しキャラがいるっぽくて」

「隠しキャラ?」




 そう言うと、リュシオルは手を止めてこちらを振向いた。彼女も初耳らしく、その話詳しく教えてと言わんばかりに前のめりになった。

 彼女が知らないと言うことは矢っ張り、ヒロインであるトワイライトのストーリーではでてこなかったと言うことになる。隠しキャラが出てくるのはエトワールストーリーだけ。

 リュシオルは部屋の隅にほうきを置いて私の方に近付いてきた。




「隠しキャラって、その話本当?」

「え、まあ……でも、実際誰がとか、隠しキャラが追加されます。とかじゃなかったんだけど、緊急クエストの内容とか報酬とか見たとき、もしかしたらいるんじゃ無いかなって思って」

「というか、緊急クエストって初めて聞いたわ。詳しく教えなさい」




 リュシオルは椅子をずるずると持ってくると座り、私と向き直った。

 先ほど、メイドの仕事を忙しくしていたのにと、仕事はいいのかと思いつつ私は説明した。


 すると、彼女は少し考えた後に、顎に手を当てた。

 やはり今実際に生きている世界であれど、ゲームの世界でもあるこの世界で、隠しキャラの存在があるということに、リュシオルも興味を持ったようだ。

 それから、二人で話し合ってみた。まずは、攻略サイトには勿論そんな情報は一切なかった。もしかして、まだそこまで誰もたどり着けていないんじゃないかと。だが、エトワールストーリーが配信されて間もなかったため、知っていてもその情報をSNSに流してはいけなかったのではないかとも思う。




「緊急クエストって言うのは、その、この間リースが暴走したじゃん。あの時に、初めて出た赤文字のクエストのことで」

「エトワール様にしか、それは見えていないのよね」

「そう、だと思う。好感度も私しか見えないし、クエストの表示も私にしか見えていない」 




 そういえばリュシオルは「ゲーム感覚が抜けないのもよく分かるわ」といってくれた。

 私がどうしても、ゲーム感覚が抜けないのは、好感度というものが可視化されて、たまにクエストというものが表示されるからだ。此の世界が今生きる私の現実だったとしても、それらがあるせいで、ゲーム感覚が抜けずにいる。それは、いいことではないと思う。


 ゲームであれば、クリア方法があるはずだと思い込んでしまっているからだ。


 でも実際、血は流れるし痛い思いもするしで、現実だ。魔法があるから治るとかそういうのを思っていたらいつか痛い目に遭う。そう思っている、思ってはいるけれど。




「ま、まあ、それでその緊急クエストを今2つクリアして……」



 そこまで言いかけて、1つクエスト失敗と表示されていたことを思い出した。

 ラヴァインのクエスト。大きな文字で、クエスト失敗と書いてあったが、リトライボタンがあったのだ。その時は、忙しくておせなかったが、またいずれ現われるだろうと思っている。だが、ゲーマーとしてクエスト失敗など恥でしかない。絶対にクリアしてやると意気込んでいる。

 これからも緊急クエストが4つほど出てくるだろうし、失敗を重ねて後から挽回しようと思っても難しいだろうから。




「それで、その緊急クエストっていうのが七つの大罪になぞられていると」

「そう!ほら、リースと、その後ルクスも暴走して大変だったんだから」




と、私はリュシオルに説明した。


 彼女はうんうんと相槌を打ちながら聞いてくれていた。そして、私に同情してくれた。

 持つべきものは友だと改めて思う。




「それじゃあ、今後も気が抜けないって事ね。後4つあるって事でしょ」

「多分……でも、分かんない」




 残りの攻略キャラが暴走するのかとか、他の誰かが暴走するのかとか。

 だけど、共通して皆心に闇を抱えている人達ばかりだ。だからこそ、周りに気を遣って少しでもその闇を取り除いてあげられればと思っている。




(トワイライトなら簡単なんだろうな……)




 優しいあの子は、ヒロインで、それこそ皆の心に寄り添ってあげていた。それは、ゲーム内での話だけれど、それでも彼女のその優しさがヒーロー達を救ったのは事実であった。私が来たことによってその優しさというか愛らしさは私が総締めしているような気もするが。

 けれど、彼女が闇に落ちた今、攻略キャラの心を癒やせる人はいない気がする。

 そもそも、私は余計なことを言うし、寄り添うどころか話すことも嫌いなのに。




「どうすればいいかな……」

「どうすればって?」

「だから、その……凄く不安で」




 私はそう零した。


 本当は不安なのだ。リースの時も怖かった。あんな黒い感情を自分にぶつけられて、自分のせいだって自己嫌悪やら何やらが溢れ出して。

 やっていける自信がない。




「大丈夫だって、私もついているし。どーんと頼っちゃって」

「リュシオル……」

「ね、エトワール様」

「え、でもアンタ魔法とか使えないじゃん」




 私が言うとリュシオルは頬を膨らませた。

 彼女はメイドではあるが、魔法の類は全く使えない。その代りといっては何だが武術に長けている。元々リュシオルになる前の蛍がかなり運動能力が高く合気道を習っていた為もある。それが今リュシオルになっても受け継がれており、その身体は衰えていないようだった。




(まあ、メイドがバンバン魔法使えたらあれだけど……)



 そう思いつつ、リュシオルを見ればまだ怒っているようで「何見てるのよ」とさらに頬を膨らませた。




「う、ううん。何でもない!頼りにしてるって、リュシオル」

「そう?ならいいけど」




と、何とか誤魔化して、私はリュシオルと話を続けた。


 頼るといっても、生活面の話なんだけど。とそれは言わずにおいて、これからどうするべきか話すことにした。攻略キャラの攻略よりもバトルがメインになってくるだろうし、そう思うと魔法の特訓をした方がいいのではないかと思った。


 これから先も、攻略キャラの暴走が待ち受けているだろうし、幸いにも攻略キャラには魔法攻撃が通じるみたいだから。殺さない程度に抱けど。

 暴走は厄介だし、こっちの話を聞きもしない自己中になる訳だから、こっちも強い意思を持ってぶつからないととも思っている。


 あと四回、緊急クエストをクリアした先にあるのは混沌とのボス戦だろう。もしかしたら、その間にトワイライトと何かあるかも知れないけれど。

 そう考えて、リュシオルを見れば、どうしたのかと首を傾げていた。




「まあ、私も出来る限りサポートするから、エトワール様も肩の力ほどほどに抜くのよ」

「わ、分かってるって、うー、ちゃんと肩の力抜けるかなあ」




 そんな風に、じゃれ合っていると、突然廊下の方から「キャ――!」とメイドの叫び声が聞え、私達は思わず顔を見合わせ立ち上がった。

 何があったのかと、今すぐに確認しに行かねばとドアの方へ向かえば、リュシオルが私の腕を掴んで首を横に振った。まるで、言っては駄目というように。




「エトワール様、今すぐにこの部屋に防御魔法かけられる?」




 そう言った、リュシオルの顔はとても真剣で、私は固唾を飲み込んだ。




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