02 乙女ゲームの世界へ
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「ついに召喚出来たのですね……これで帝国の未来は……」
「聖女様……聖女様……っ!」
誰かに呼ばれているような気がして、ゆっくりと目を開ける。すると、目の前には黒いローブを着た人達がいた。
(ここどこ? さっきまで部屋で乙女ゲームをしていたはずなのに)
私は辺りを見回した。そこは石造りの部屋で、床には魔法陣のようなものが描かれている。
そして、私の周りには黒装束を身に纏い、フードを被った人達が私を取り囲んでいる。まるで、漫画やアニメでよく見る儀式のような光景に私は戸惑う。しかし、私の心は焦りよりも喜びに満ちていた。
(こ、これは……――)
私はもう一度辺りを見渡した。見覚えのある装飾と、黒いローブに施されたラスター帝国の刺繍。
私の期待値は跳ね上がっていた。ここは、私が大好きな乙女ゲームの世界……そして、私はヒロイン!? かもしれない……!
そう一人盛り上がっていると、こちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。
「皇太子殿下」
黒いローブを着た召喚士達は、一斉に膝をつく。
私は、胸が高鳴っていた。飛び出してしまうんじゃないかってぐらい、それはもう……
「お前が、帝国を救う聖女か」
低い声が部屋に響く。私は、ハッと我に返り、その人物を見た。
そこに立っていたのは紛れもない、リース・グリューエンその人だった。
(きた――ッ! 私の最推し――ッ……!)
私は目を輝かせた。今まさに、目の前に私の最推しであるリース・グリューエンが立っているのだ。 私の心臓は早鐘を打つように鼓動を打った。
(死にそう! リースが動いてる息してる、私に喋りかけてる!)
私は興奮気味に、リースを見つめた。もしこの場にスマホがあったら連写して動画におさめて、保存したい。
しかし残念ながら、手元にスマホは無い。
くそぉ、スマホさえあれば写真もムービーも撮り放題だというのに。
そう思っていると、ふと視線を感じた。私は視線を感じる方に顔を向ける。そこには、眉間にシワを寄せた皇太子が私を睨みつけていた。
「おい、貴様」
「は、はい! 何でしょうか!」
私は背筋を伸ばし、返事をした。
明らかに苛立っている様子のリースを見て、私は動揺していた。
確かに、ヒロインと出会ったときもあまり機嫌がよくなかったような……そもそも、女嫌いだったし。と私は自分を納得させリースを見た。
あまりにも眩しすぎる彼から、自然と視線を逸らしてしまう。こんなの直視していたら目が潰れてしまう……!
「名前は」
「えっと……」
「名前は何と言うのかと聞いているんだ」
「ひぃげぇ……ッ!」
ドスのきいた声で名前を聞かれ、私は奇声を発した。
怖すぎて変な汗が出てきた。怖い、マジで怖い。
確かに格好いいけど、好きだけど……オタクにはあまりにも厳しい。
推しの事ならいくらでも喋れるがこう一応初対面の人とは……そもそもコミュ障なのにどうすれば!? というか、推しが目の前にいるだけでキャパオーバーなんですけど!?
それに、名前は? と聞かれても何と答えれば良いのか分からなかった。ヒロインのデフォルト名を答えれば良いのだろうか。それとも自分の……と、悩んでいると口が勝手に開いた。
「エトワール・ヴィアラッテアです」
私は勝手に動いた口を急いで手で覆った。
もう少し考えてから名前を……ん? 待って、エトワール・ヴィアラッテア!?
「エトワールか」
リースが私の事をまじまじと見ていたが、私はそれどころではなかった。
私はすぐさま自分の容姿を確認しようとした。しかし、鏡もなければ自分の姿を映せるものは無い。あるとするなら髪色だろうか。
私は恐る恐る腰まで垂れた髪を触ってみた。
(うわぁああ! サラッサラだ! キューティクル凄い!)
思わずテンションが上がりそうになるのを堪え、私は冷静を装いながら髪の色を確認した。
銀色、間違いない――――
「あ、あの……」
「なんだ?」
「私の髪の毛って銀色ですか!?」
私は食い入るようにリースを見た。
リースは少し驚いた顔をしていたが、すぐに表情を戻した。
「そうだが。それがどうした」
「いえ! なんでもありません!」
リースに明らかに嫌な顔をされさらに私のテンションは地に着いた。
ダイヤモンドを散りばめたような銀髪。そして、エトワール・ヴィアラッテアという名前。
間違いない……私は――――
(あの偽りの聖女、エトワール・ヴィアラッテアに転生しちゃったってこと!?)