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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第八章 攻略キャラ×攻略キャラの共闘

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11 sideリース




「どうもこうも思ってねえよ。ただの弟だ」




 そう言った彼の表情はとても悲しげで、見ていて思わず目をそらしてしまった。

 そんな顔をされたら、此方まで辛くなる。




「ただの弟にしては、仲が悪いんだな」

「見ればわかんだろ」




と、アルベドは嫌そうに答えた。


 その表情から分かるように、本気で弟のことを好いていないようだった。

 だが、やはり兄弟というものは切っても切れない関係にあるもので、それを嫌と言うほど間近で見てきた。

 ルーメン、灯華もまた兄弟がいたから、俺はそれを見て両親が離婚して離ればなれになろうが、兄弟の縁はそう簡単にきれるものではないことを知っている。血は切っても切れない為、どうしようもないのだ。




(まあ、此奴が本気でどう思っているかは知ったことではないが……)



 弟を思っていないにしろ、何度も取り逃がしているところを見ると、アルベドという男は案外甘い男なのかも知れない。

 俺なら、迷わず首を切っているだろう。其れができないのは、兄弟だからか、それとも公爵家に何かがあるのか。どちらにせよ俺突っ込むべき事ではない。これ以上関わるのはやめようと、俺は首を横に振る。

 それを見ていたアルベドは不思議そうにしていたが、ため息をついた後、取っ手に手を掛けた。




「仲が悪ぃよ。少なくとも小さい頃は仲良くしようとは思ったが……」




 柄じゃねえんだよな。

 優しくするのは合わなかったとアルベドは零した。




「そのお前の善意を彼奴は踏みにじったと」

「どうだろうな。初めから、俺の事を兄貴だと思っていなかったのかも知れねえし、俺がいなければとも思っていたかも知れない。まあ、どっちでも今はいい……俺は、兄弟云々の問題よりも、凄え怒っているんだからな」

「自分に変装してエトワールに近付いたことをか?」

「それもあるが、まず、エトワールに危害を加えたことだな。俺の目の前であんなまねを……」




 アルベドは、それ以上何も言わず扉の取っ手に手をかけると一気に開いた。

 中から風が吹いた。それと同時に、俺たちの髪が靡く。

 扉の向こう側は何も見えなかった。広がっているのは、闇だった。




「……やはり魔法か」

「どちらかと言えば、災厄の……ほら、あっただろ前に。負の感情が暴走して怪物になった奴の腹の中見てえな」




と、アルベドは付け加えていった。


 確かに、扉をいざ開いてみると人の魔力以外にも負のオーラが漂ってきていた。それは、かつて災厄の調査にて感じたあの嫌な感じそっくりだった。

 エトワールを助けるために飛び込んだあの肉塊の中のような、あれが口を開いて待っているかのような感覚を覚える。




「入らねえのか?」

「…………何故、あれと同じ気配がする?」

「さあな、まあヘウンデウン教はあの肉塊を作るような実験もしていたわけだし、もしかすると、この建物自体があの肉塊と繋がっているのかも知れない」

「ヘウンデウン教について、やけに詳しいな」




 俺がそういえば、アルベドは自分に向けられた疑いに気がついたのか、ハッと鼻で笑ってきた。

 そして、彼はゆっくりと振り返ると、こう言った。

 先程までの優しい表情とは一変して、冷たい眼差しでこちらを見つめていた。

 俺は、その瞳に思わずゾッとした。まるで、別人のようにも思えたからだ。




「俺を疑ってんのか?」

「いいや、気になっただけだ。他意はない」




 そう言えば、アルベドは少し考えたあとに、また俺を見てきた。

 その表情は何処までも冷たく、氷のようなものだった。

 信頼されていないことがそれほど悔しいのか、悲しいのか。そんなことを言いたげな表情だったため、俺は視線を逸らした。こちらもいい思いはしない。

 ただ、気の触ることをいってしまったのは確かであり、このまま機嫌を損なわれても危険なため、俺はどうにか訂正しようと言葉を探した。




「エトワールが大事だから。俺もお前に嫉妬していたんだ。エトワールが背中を預けられる人物だといってたからな」

「……そうかよ」

「機嫌を直せ」




 そういうと、アルベドは暫く黙っていたが、やがて小さく息をつく。




「そういえば、殿下も、エトワールのことが大好きなようで」




と、わざとらしくアルベドは聞くとニヤリと口角を上げた。その表情が何を意味するか分からず、挑発だったかも知れないそれに俺は反応してしまう。




「だったらなんだ」

「いいや、それじゃあ殿下も俺と同じ思いで動いているのかと思って」




 アルベドはそう言って、フッと笑う。

 言いたいことが分かり、俺は苛立ちが加速する。だが、ここで怒っては相手の思うつぼだと、俺は必死に耐えながら睨みつける。

 すると、それが面白かったのか、更に笑い声を大きくした。

 その様子はまさに子供そのもので、先ほどの彼からは想像できない姿だった。




「似たもの同士だな」

「お前と俺が?冗談もほどほどにしろ」

「俺も、エトワールのことが好きだからな」




と、アルベドは言うと俺にその満月の瞳を向けた。


 真っ直ぐと、その瞳からは本気さが伝わってくる。嘘偽りなく、本気で言っているのだろう。




(似たもの同士……先ほどは否定したかったが確かに)




 納得してしまう自分がいたのは事実で、俺もため息をついた。こう言い争っている間にエトワールが……そんなことを考えると、此奴との口論はここまでにしてこの闇の入り口から入るしかないようだ。




「それで、入る決心はついたかよ。皇太子殿下」

「ああそうだな。お前と言い争っていても仕方がないからな。それに、お前がエトワールを思うように、俺もエトワールを思っている。こんなことをしている間にも彼女は助けを求めているだろうから」




 そりゃそうだ。とアルベドは言うと前をむき、一歩踏み出し俺もそれに続くように部屋に入るが、相変わらず嫌な空気が漂うばかりだ。

 此処は、一体何なんだ?そう思って、辺りを見渡せば、だんだんと視界が慣れてきて、その闇の中から赤い絨毯が敷かれた廊下が現われた。

 その先は真っ暗なままだったが、何かが動いた気がして、俺は身構える。

 すると、アルベドが小声で囁いた。それは、とても小さな声だった。俺にしか聞こえないような、そんな大きさの声量で。




「ここからは、気を引き締めろよ」

「元から、気など抜いていない」

「まあ、そう言うが……ここはあの肉塊と同じような空間だ。つまり、負の感情が渦巻いているって事だ」

「気を抜けば、また取り込まれると」




 俺がそう聞けば、アルベドはあっていると首を縦に振った。


 彼は、闇魔法の者だから……という言い方はあまりよくないが、それなりに心の持ち方は違うだろう。見れば、彼はこういう場面に何度も遭遇しているようにも思える。俺も、一度、自分の暴走を含め二度経験している。あの経験から学んだのは、心の弱さにつけ込む混沌やそれらは、隙を見せれば誰しも飲み込まれると言うこと。

 嫌と言うほど分かって、一度その手に堕ちた身だ。

 アルベドの忠告などなくとも、身体が覚えている。あの時の感覚を飲まれ、自分を失っていくような感覚を。


 俺は、腰に下げていた剣を握りしめる。




「先ほども言ったが、俺は皇太子殿下を守れるほど余裕はねえからな」

「分かっている」

「……ほんとかよ」




 皮肉交じりに言いつつ、アルベドは懐からナイフを取りだした。

 彼の戦闘スタイルは、剣ではなくナイフでの近距離戦なのだろう。暗殺者とエトワールが言っていたから納得は出来る。動きも素早く、風魔法の使い手のようだし、より俊敏に動けるナイフの方が使い勝手が良いのは分かる。

 そんな風に解析をしつつ、俺は耳を澄ました。何かが聞えてきた気がしたからだ。




「何か聞えないか?」

「ああ、聞えるな……ラヴァインの手下か、それとも負の感情が寄せ集まって出来た化け物か……」




 アルベドは低く姿勢を構えた。

 俺も辺りを見渡し、戦闘態勢に入るが、その音の主は現われない。一向に同じリズムで、同じ距離でガサガサと音が鳴っているように思えた。ノイズのような、深いな音。

 このまま進んでも大丈夫かと、俺が一歩踏み出したその時だった。




『えー聞えてるかな。侵入者の皇太子殿下と、アルベド兄さん』




 どこからともなく闇の中から男の声が響く。そのねっとりとした喋り方や、馬鹿にしたような喋り方からエトワールを攫った男だと瞬時に気づき俺は剣を抜く。

 音の主が何処にいるかは見当はつかないが、近くにいる……そんな気がしたのだ。




「舐めたまねしやがるな」

「アルベド・レイ。どうする?」




 そう言うと、アルベドは俺の剣を奪い取ると床に思いっきり突き刺した。何をするのかと思えば、周りにぼんやりと漂っていた闇が一気に晴れていくのが見えた。

 そうして、目の前にあの男と、エトワールの姿が見えた。




「エトワール!?」

「り、リース……!」




 あちらも俺たちに気がついたのか、エトワールは目を大きく見開いた。

 俺は、アルベドから剣を奪い返して構えたが、一歩を踏み出せなかった。何故か……




「やあ、殿下、兄さんようこそ。俺の可愛いペットと戦ってもらおうか」




 ラヴァインの後ろに、無数の人の形をした人ならざるものがこちらを見て、今にも襲い掛かってきそうだったからだ。




「……ッチ」





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