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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第八章 攻略キャラ×攻略キャラの共闘

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09 老執事



「やることない暇ー!」




 私は、一人部屋で叫んでベッドの上にごろんと大の字になった。

 あれから、ラヴァインは戻ってこず、私は脱出方法や何か手がかりがあればと思いそこまで広くない部屋の中を散策したが、如何せん何も出てこなかった。それどころか、窓もなければ、扉も外側から閉められているのか、魔法が掛けられているのかでびくともしない。本棚もあるが、よく分からない本だらけで、隠し通路的なものも何もなかった。


 時計もないためか、時間の感覚もおかしくなっている気がする。

 私は諦めてベッドの上で、天井を眺めていた。




(ラヴァインは何処に行ったのかなぁ。もしかしたら……アルベド達がきて捕まったとか?そしたら、私の所に助けが来るよね……)




 私がここに幽閉されてから結構経っている。その間、誰も来ていないし、食事が運ばれてくることもない。

 幸いにもお腹も空いていなければ、お腹が痛いと言うこともない。その点ではまだ安心できるが、何もない部屋に一人いると本当に心細くなってきた。

 ラヴァインの目的がアルベドを潰すことで、私をヘウンデウン教に引き渡すことが二の次だったとしても……その内、助けが来なければヘウンデウン教に私は引き渡されてしまう。そうなれば、本当に助けに来て貰える確率はグンと下がるだろう。




(でも、ヘウンデウン教のアジトに行けば、トワイライトにも会えるかも)




 トワイライトは、混沌の手に堕ちて、ラスボスになった。と言うことは、あのブライトの弟の皮を被ったファウダーが統率者であるとして、その下に仕えているのがトワイライトと言うことになるのだろうか。混沌は概念的な存在だし、女神もそのような存在だったから、指示だけ与えて、統率しているのは、実際表立ってヘウンデウン教の教徒達に命令を下しているのはトワイライトではないのだろうか。


 もしかすると、トワイライトの身体は混沌に乗っ取られているかも知れないし。

 そう考えるといてもたってもいられなくなった。かといって、何もない状況で乗り込んでいても、引き渡されたとしても私には何も出来ない。



 あの時は、リースがまだ混沌の手に完全におちたわけではなく話し合いが出来るぎりぎりのぎりぎりに理性が残っていたから、話し合って解決できたものの、混沌が深く入り込んでいるとなると話し合いなど出来ないだろう。その人間の負の感情を増幅させて、どうしようもないほど暴走させるのが混沌だから。



 ヒロインがラスボス化……



 よくあるような設定で、実際あるとかなり絶望的な状況だ。

 そもそも、こんな風に捕まると分かっていたなら予言者が言ってくれたなら、私はリースとのデートを許可しなかった。彼らに余計な仕事を押しつけた挙げ句、ヘウンデウン教ともバチバチにやりあうことになって。




(うぅ……なんか頭痛くなってきた)




 自分の不甲斐なさに泣きたくなってくる。しかし、泣いても事態は好転せず、むしろ悪化していくだけだ。

 命の危険があるかも知れないのに、それでも何処か平然としてられるのはゲーム感覚が抜けないからか、それともあの二人が助けに来てくれると信じているからだろうか。そう思っているから、心が少し楽なのか。




(そうだ……)




 私はラヴァインに魔法でつけられた首かせを見る。確かこの首輪は、魔力を封じる力を持っていると言っていた。つまり、魔法を使って脱出することは不可能である。聖女が魔法を使えないなんて、それも私が魔法を使えないなんて無能としか言いようがない。もう何も出来ない。

 一応、私は早速魔法を発動させようとしたが、上手くいかない。私は、何度も魔法を使おうとするのだが発動しなかった。

 変に内側から魔法を唱えたとしても先ほども思ったように、首輪が爆発する仕組みだったらと考えると簡単には試せない。それでも、これが闇魔法によって作られたものなら、光魔法をぶつければ相反する魔法な為衝撃波で粉々になるのではないかと思った。




「んなの私まで吹っ飛ぶじゃん!?」




 確かにそうである。反発する魔法、衝撃波で私の首は吹っ飛んでしまうのではないかと思った。

 自分で考えついた方法ではどれも外せそうにない。これは、この部屋から出て隙を突いて逃げるしかないと思った。

 そんなことを考えて、一人で悶々としていたらドアの方からノック音が聞こえてきた。




(誰か来た……ッ!?)




 ラヴァインか、それともまた別の誰かか。どちらにせよ、命の危険にさらされていることを再度認識し、私は身構えた。魔法も使えない私では何も出来ないし、相手が男にしろ、女にしろきっと今の私は簡単に殺されてしまうだろう。

 こうなることが分かっているのなら、体術でも身につけておくべきだったか。勿論のこと、武器などなければ持っていたとしても没収されている。グランツが教えてくれた剣術も、ものがないんじゃ意味がない。

 そうして、私が身構えているとゆっくりとドアが開いた。




「……え」




 私ははいってきた人物を見て、思わず声を上げた。 

 そこに立っていたのは、なんとラヴァインではなく老執事だった。それも、私のよく知っている。




「ファナーリク……」

「久しぶりです。エトワール様」




と、彼、アルベドの執事であるはずのファナーリクは私に深々と頭を下げた。


 何故彼がここにいるのか、理解できず、私は困惑し、そして同時に恐怖した。




(だって、彼はアルベドの執事だったじゃん……)




 ファナーリクは、アルベドの執事で、彼が信頼を置いている唯一の人物でもあった。アルベド曰く、自分の唯一の味方だと言っていた彼が、何故ラヴァインがいるこの屋敷にいるのだろうかと。確かに、兄弟だし、執事の立場からしたら公爵家の息子である二人には意見できないはずだ。もしかすると、ラヴァインに強制的に連れてこられたのかも知れないと思ったが、そうにしては落ち着きすぎているような気もした。


 どちらにせよ、油断は出来ない。




「ど、どうしてファナーリクがここにいるの?アンタは、アルベドの執事でしょ?」

「はい。ですが、今はラヴァイン様に仕えております」




 その言葉を聞いて、私はハッとした。裏切られたような気持ちになったのだ。

 その一言を聞いてショックを受けるのは私ではなくアルベドだろうが、それでも何だか裏切られたような気持ちになった。


 ファナーリクは優しそうな老執事だったし、アルベドも凄く信頼を置いていた。長いこと公爵家に仕えていたみたいだし、今の公爵のことも大切に思っているだろう。アルベドの気持ちも知っているだろうに、彼は今ラヴァインに仕えていると言った。


 あんなナルシストに。


 頭の良い、使い勝手の良いファナーリクを欲しいラヴァインの気持ちも分かるし、ラヴァインが子供っぽくて欲しいもの全てを手に入れようという性格もさっきので分かった。そういうのがあって、ファナーリクはラヴァインに強制敵につかわせられているのではないかと。 


 しかし、彼の表情からは敵意は感じられない。むしろ、何処までも優しい顔をしている。


 真意は分からない。

 けれど、警戒を解くのは違うと思った。




「そう、アルベドを裏切ったのだ」

「申し訳ありません」




と、何処か会話の噛み合っていないような返し方をするファナーリク。


 ヒカリみたいに仕方なく、ラヴァインに使えている感じだとか。

 それにしても、この部屋に入ってきた瞬間からずっと違和感を感じていた。それは、この部屋の空気が異様に重いことだ。

 禍々しいオーラのような何か。それがこの部屋全体を覆っている気がしてならない。




(一体、この部屋で何をしていたんだろう……)




 ファナーリクはちらりと私を見た。まるで何かを伝えるように。それでも口にしないのは、理由があってのことだろう。




「エトワール様はお気づきでしょうが、その首かせを無理矢理はずそうとすれば首が吹き飛んでしまいます」

「…………」

「ですのでどうか、余計なことをしないで下さい」




と、彼は言うがやはりファナーリクが怖い。やっぱりそうだったかと、私は首かせに手を当てる。


 何を考えているのか全く読めない。

 けれど、言ってくれるのはありがたかった。でも、外し方があるなら教えて欲しいとも思う。




「アルベド様と皇太子殿下がこの屋敷へ向かってきています」

「アルベドとリースが!?」




 ファナーリクの言葉に私は思わず身を乗り出した。

 やはり助けに来てくれたのかと。喜びの反面、危険な目に遭っているんじゃないかと、ここに来るまでも大変だったんじゃないかと思うと何とも申し訳なく思う。

 けれど、二人がこればどうにかなる。そう思って私は心の中でガッツポーズを決める。




「ですが、二人だけのようです」




 ファナーリクはそう付け足して目を伏せた。

 言っている意味は分かり、私は無謀なことを……と溜息が出そうになった。公子と皇太子が二人だけ……こんなに敵にとって都合の良い、狙いやすい状況なんてない。




「わかった……」

「それだけを、お伝えにきました」




 ファナーリクは頭を下げる。

 彼の真意が何となく分かった。やはり、私の推理は間違っていない。




「この部屋は随時監視されているので、あまり大きな声を出すのは危険かと」

「確かにね」

「では、私はこれで失礼いたします」 




 ファナーリクは一礼すると部屋から出て行った。

 彼はやはり、自らの意思でラヴァインに仕えているんじゃないと確証を持てた。監視されているからこそ、回りくどい助言しか出来ないのだろう。けれど、ファナーリクがあちら側じゃなくてよかったと思う。




(さて、私はあの二人の助けを待つだけ……かな)




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