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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第七章 急加速する物語の中で

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32 落としあい




「――――百万、百万です。他にはいませんか?」




 司会者の声に、私達はお互いの顔を見合わせた。


 結局あの後、男とは一言も話すことなく、ただただ無言のまま時間が過ぎていった。

 男は、どの奴隷にも興味を示さないようで、ただニコニコとオークションの行く末を見守っていた。まるで、奴隷を買う人達が滑稽であると言うように、人形劇でも見ているような表情だった。

 ステージには子供と思われる奴隷が何人も立たされており、司会者の声がかかれば競りが始まる。そうして、周りにいた人達は我よ我よと値段を呈示していく。だが、やはりどれもピンと来なかったのか、誰も手を上げない。




「……三百万!」




 そう声を上げたのは、四十代ぐらいの男だった。

 男は、自分の提示した金額に満足したのか口角を上げる。

 それを見て、他の人は悔しそうな顔をしていたが、私達にとってはどうでも良いことだった。


 そうこうしているうちにどんどん落札価格は上がっていく。

 だが、私達の目的はそれではないのでただただ時間が過ぎるのを待っていた。ルクスは幾ら立ってもステージに上がってこない。もしかして、ここではなかったのだろうかとすら不安になってくる。




(でも、クエストの場所はここだって表示してあったし)




 未だ、ウィンドウの開き方が分からず、クエストの確認のしようがないのだが、確かにルクスの居場所はここだと示してあった。なので、もしかするとルクスは今回の目玉商品として出されるのではないかと予想を立てる。




「うっ……」

「大丈夫ですか?エトワール様」

「う、うん、ありがとう……ちょっとね」




 人が人として扱われない様に、それを人がお金を呈示して買っていく様をどうしても直視出来なかった。

 そして、また一人、子供がステージに上げられていく。その子はまだ十歳に満たないのではないかと思うほど幼い。

 だが、その幼さが逆に需要があるのか、司会の男の紹介通り魔法が使えるため需要があるのか、すぐに五十万という価格が提示される。


 金額からしてここに参加している人達は貴族なのだろう。出なければ、こんなお金を呈示できるわけがない。

 帝国では奴隷の売買が禁止されているというのに、こそこそ参加して競り落とす貴族。もし顔と名前が分かったらリースにでも言ってやろうと私はグッと拳を握った。




「アルバは、その大丈夫なの?」

「いいえ、私も良い気持ちにはなりませんよ。帝国では奴隷の売買が禁止されていますし、それに……」




と、アルバは言うと口を閉じた。


 どうしたのかと顔を覗けば、珍しく苦しげな表情を浮べていたのだ。それに私は驚き、アルバの肩に手を置く。

 アルバはハッとした様子でこちらを見ると、少しだけ微笑んだ。


 それに、私はほっと息をつく。


 私はそんなアルバを見ながら、今度はグランツは視線を向ける。グランツはいたっていつもの無表情で、じっとステージを見つめていた。何かを考えているのか、はたまた何も考えていないのか、仮面をつけているとさらに分からない。分かると言えば好感度だが、出発前と何も変わっていない。




「グランツ」

「はい、何でしょうか、エトワール様」

「えっと、いや何か考え事をしているのかなーって」

「……いいえ、とくに何も」




と、グランツは淡々と返した。


 グランツは平民出身だから、もしかしたらその平民の中で稀に魔法を使えた子供がいたとして奴隷として売られているところを見たとしたら……と、私は考えた。その子供は、親から見捨てられて奴隷に売られたのかもしれない。そう思うと、私は胸が痛くなった。そういう風に考えて、グランツは何も言わないのかも知れない。


 だから、私はそれ以上何も聞かなかった。




「それでは、今日の目玉商品のご紹介です」




 司会者の声に、私達はステージを見る。会場の熱気が上がる。


 そこには、一人の少年の姿があった。

 ピンクの髪に、空色の瞳。背丈は高くなく小柄。そこにいたのは私達が探していたルクスの姿だった。




「この奴隷は、かの有名なダズリング伯爵家の長男、ルクス・ダズリングに似た子供です。彼は、魔法を扱え、ルクス・ダズリングに瓜二つだと言われていました」




 司会者の言葉に、周りはざわついた。


 司会者がわざと似ている、瓜二つというのは彼が本物であることを隠すためだろう。実際、周りにいる人達も分かっているのかも知れない。だが、仮に周りの連中が帰属だと考えると、自分たちでは太刀打ちできない足下にも及ばないダズリング伯爵家の長男を競り落としたとしたら……それがバレたとしたら、完膚なきまでにたたきのめされるだろうから。

 保険をかけてか「本当に瓜二つだ」、「偽物でも値打ちがある」など言っていた。その声色からしてわざとらしく、今日集まった人達は彼目的で来ているのだろう。




「ルクス……!」




 隣で大人しく座っていたルフレが身体を前のめりにし、呟いた。双子の弟である彼が言うのだ、あれはきっと本当にルクスなのだろう。

 まあ、彼が見分けられなくとも、ステージに立っている見窄らしい服装に着替えさせられた子供の頭上に好感度が表示してあるのだ。あれはルクスだと。

 私は、気を引き締め直しステージを見た。




「さぁ、それでは皆様。百万から始めましょう。最初は百、百十、百二十…………二百万!」




 その言葉に、周りは一気に声を荒げた。




「三百万!」

「五百万!」

「七百万!」

「九百万!」




 先ほどの奴隷達とは比べものにならないぐらいの値段の跳ね上がりで、ルクスの値段もどんどん上がっていく。




(いくら何でも高すぎない!?)




 さすがは、富豪の息子だと。周りも分かっているからなのか、低い金額は提示しなかった。だが、周りはどの値段でも買うつもりなのか。上がっていく値段に置いていかれないようにと私達も呈示するが声が小さくて通らない。

 すると、ドンッと机を叩きルフレが前のめりになって金額を提示した。




「一億!」




 それに、辺りはシーンと静まり返った。

 それは、今までの倍以上の値。その声は会場中に響き渡り、ルクスの耳にも届いていた。ルクスは顔を上げ私達の方を見た。だが、はっきりと彼の空色の瞳に光が灯っていないことに私は気づいて、思わず目をそらしてしまった。

 そうして、値段を呈示したルフレを見る。




「ちょ、ちょっと」

「何、聖女さま」

「いきなり飛ばしすぎじゃない?」




 そう私が言えば、ルフレは何言ってんだ此奴、見たいな顔を私に向けた。

 確かに、彼も富豪の息子であるがまだ値段が上がる可能性もあるし……と私は思ったのだが、ルフレはこんなお金はした金だというように口角を上げていた。




「い、一億が出ました。他に!」




と、司会の男は慌てて言った。


 それに、周りもハッと我に返り次々に値段を提示する。




「一億五千!」

「二億!」

「二億三千!」




 次々と値段が表示されるが、そこまでお金がないのか周りの人達は消極的になっていった。 

 ルフレはその間も高い金額を表示し続ける。まるで、楽しんでいるかのように。




「ルフレ」

「今度は何なの?」

「ちょっと、楽しんでない?」




 そう私が聞けば、ルフレは少しそっぽを向いてからこちらを向いて、「そうだね」と笑っていた。




「だって、ルクスを競り落とすんだよ?まるで、ゲームみたいじゃん」

「でも、ルクスはアンタのお兄ちゃんじゃん」

「だから何?」




と、ルフレは冷たい声でいった。


 彼は、お兄さんであるルクスのことが嫌いなんだろうか。そう一瞬でも思ってしまった。

 劣等感を感じているからこそ、自分より立場が低くなった兄を見て優越感に浸っているのかも知れない。

 私はそれ以上何も言わなかった。ルフレが提示した金額は五億までいったが、もうこれ以上は誰も出せないようだ。




「これ、もう落とせるんじゃ」




 周りが金額を提示できなくなり、勝利を確信したその時だった。



「五十億」




と、それまで黙っていた隣の男が私達の方を見ながら金額を提示したのだ。


 それは、先ほどルフレが呈示した五億の十倍の金額だった。

 ルフレはそれを聞いて、目を見開きながら隣にいた男を見た。男はフッと口角を上げて、まるで嘲笑するかのように私達を見る。




「富豪の息子のそっくりさんなんだ。そっくりだとしても、それぐらいの金額提示しないと失礼だろう?」




 そう、男は言うとどうする? とでも言うようにルフレを見た。

 ルフレはカッと顔を赤くさせ、怒ったようにその男に暴言を吐く。




「何が言いたいんだよ」

「別に?でも、君もこれぐらいの金額出せるだろう?」




 男はルフレをさらに挑発した。だが、その口ぶりからして、私達の正体に気付いているのではないかと不安になってしまう。これ以上関わってはいけないとルフレを宥める。




「邪魔しないで、聖女さま!」

「落ち着いてルフレ……挑発に乗っちゃダメ」




 そういえば、ルフレは苦虫をかみつぶしたかのような表情をして、席に座った。


 さて、どうするか。


 そう思ってちらりと男を見れば、さらに金額を提示する。




「六十億」




 男はサラリとその金額を提示した。それだけのお金を呈示できるところを見ると、彼も良いところの貴族なのだろうか。

 司会者は、目を白黒させながら、他に――――と声を上げる。

 すると、隣で怒りに震えていたルフレがもう我慢できないと言ったように、机を叩いた。




「百億!」




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