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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第七章 急加速する物語の中で

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30 救出作戦決行中




「本当にここであってるの?」

「あってるわよ」




 多分。とは言えず私は口を閉じる。


 リースが戦場に向かった後、私はルフレと話し合い、伯爵の許可も得て一度聖女殿に戻った。ルフレの父である伯爵は意外と喋りやすい方で、息子の誘拐に心を痛めており、すぐに従者に指示を出していた。良い父親だなあと思うと同時に、自分の両親とは全くタイプが違うと悲しくなった。

 子供を思いやれる両親は、きっと幸せだろう。うちの親みたいに怒鳴ったりしないし、子供を放置したりしない。


 そんなことを考えながら、ルフレと一緒に聖女殿へ戻る。実は、ルクスが誘拐された後、私の目の前には不思議なウィンドウが現われたのだ。いつもの、クエスト発生のウィンドウだったのだが、そこには何故か【天才の双子ルクスを救え クリア条件:??? クリア報酬:ルクス、ルフレの好感度+15%】と書かれていたのだ。本来であれば、クリア条件など書いてあるのだが、ハテナマーク表示になっており、何とも不気味だった。ただ救っただけではクリアにならないのだろうかと。


 そうして、ルクスが攫われた場所まで丁寧に表示してあった。その表示を目印を辿って次の日私達は帝都の端にある怪しげな店に来ていた。

 申し訳ない程度の変装をし、ルフレと共に来たのだが、本当にこんなところにルクスがいるのか。どうやら、店の地下でオークションが行われるらしく、店の前には、屈強な怪しげな男が立っていた。




「どちら様ですか?今日は、貸し切りです」

「奴隷……オークションに来たのよ」




 私は、少し声を低めにして言う。別にそこまでしなくてもと思ったが、バレると後々面倒だと思った。

 だが、店の前に構えているとはどういうことだろうか。普通なら、店の中で平然を装って、何か合い言葉を言って通されるとかではないのだろうか。

 私は、男を見上げながら男の出を伺った。男は、オークション? と眉をひそめる。




「どなたからの招待で?」




と、言われて私は咄嵯に口を閉ざす。


 そこまで考えてこなかった。と頭を抱える。そうして、もしかすると使えるかも知れないととある男爵の名前を口にする。




「ウンターヴェルト男爵の」

「ウンターヴェルト男爵?」




 ウンターヴェルト男爵とは、アルベドに殺された男のことだ。奴隷の売買を行っていたため、もしかすると繋がりがあるのではないかと思った。

 だが、ウンターヴェルト男爵が死んでいると言うことはもう既に知れ渡っている気がして言った後にしまったと後悔した。




「そうですか。しかし、本日のオークションは会員制なのですが……」




 男は知ってか知らずか、そう答えると立ち去るように私達に促した。

 ここまできて引き下がれないと、どうにか入れて欲しいと頼み込む。すると、しつこいというように男は腰に下げていた剣を引き抜こうとした。




「っ――」




 どうしよう。 


 私は、咄嗟に後ろにルフレを庇うように手を広げるが剣が鞘から引き抜かれた音がしたため、もうダメだと目を閉じる。だが、幾ら待っても私達に剣が振り下ろされることはなかった。




「がっ……」




と、男は苦しそうな息を吐きながら地面に倒れ伏していた。倒れる頃には気絶している。


 一体何が起きたのかわからず目を白黒させていると、大丈夫ですか。と男を避けながらフードで顔を隠したグランツが剣を鞘に収めながら私の顔をのぞき込んだ。

 そういえば、グランツとアルバを連れてきているんだった。と、自分の護衛のことをすっかり忘れていたと、胸をなで下ろす。




「ありがとう、グランツ」

「いえ……エトワール様、無事ですか?」

「あ、うん」

「そうですよ、私達を頼ってください」




 アルバも男を踏み避けながらこちらに来ると心配そうに私を見た。やはり持つべき者は護衛だなあと思いつつ、心配そうに言うアルバに大丈夫だよと伝える。

 私は、二人のお陰で助かったと礼を言うと、アルバは嬉しそうに、グランツはいつも通りの無表情で頷いた。




「し、死んでないよね……」




 私は取り敢えず、男を足でつついた。起き上がる気配はなく、本当に気絶しているんだと私はほっとした。




「はい、気絶しているだけです。エトワール様が命令してくだされば、首を切り落とすことも出来ますが」

「そ、そんなこと命令しないから!私は、血が苦手なの!暴力厳禁!」




と、今にも剣を抜いて気絶した男の首を切り落としそうなグランツを止めながら、私はもう一度彼に注意をする。


 従順なワンコなのは良いけれど、加減を間違えればグランツはやはり危ない存在だと思う。

 そうですか。とグランツは抜きかけた剣を鞘に収め目を伏せた。

 私の前だったからか、まだ男が私に手を出していなかったからか……もし私がいなかったら、私が傷つけられていたらグランツは此の男を殺していたのだろうと思う。峰打ちで気絶するだけで済んだ此の男は運が良い。




「聖女さまの騎士強いんだね」

「ま、まあね……でも、グランツは」




 ヒョコリと顔を覗かせたルフレは、興味津々といった感じに宵色の瞳を輝かせた。星流祭の時もそうだったが、ルフレは騎士というものに憧れを抱いているらしい。ルクスがブライトに魔法を教わりたいと魔法に興味を持っているように、ルフレはグランツに剣術やら武術を教わりたいと思っているようだった。

 双子だが、こういう差を見ると別人なんだなあとしみじみ思う。


 私は、グランツは臨時で私の騎士をしているのと言いかけたが、彼の機嫌を損ねてはこの先のオークションで手を貸して貰えないかも知れないとグッと言葉を飲み込んだ。

 そうして、話をすり替える。




「死んだ人のことを言うのはあれだけど、ウンターヴェルト男爵ってもしかしてヘウンデウン教と繋がっていたのかな……奴隷の売買をしていたって言うのも本当だったし」




 私は、思い出したくもない初めて死体を見た日のことを思い出す。

 あの時は、アルベドとあんなに仲良く……親しくなれるとは思っていなかった。何も罪のない人が殺されたとも思っていたし。だが、そのアルベドに殺された男は悪い人だったわけで。でも、悪い人が皆死ねばいいとは思っていない。


 奴隷商とヘウンデウン教は繋がっているかも知れないと、私は予想を立てつつ、暗い店内に目を向けた。取り敢えずは入ってみて、秘密の通路を探すしかない。




「まあ、死んだ人のことを考えても仕方ないし、もうオークションが始まっちゃうかも知れない」

「そう、だね。ルクスのことが心配」




と、ルフレはギュッと私の手を掴んだ。怖いのだろうかとみれば、ルフレはカッと顔を赤くして私の手を振り払った。




「どうしたの?怖いなら繫いでいても……」

「ここここ、こわくなんてない!ぎゃ、逆に聖女さまが怖いんじゃない?」

「へ?」




 ルフレは自分の過失を隠すように、私が悪いと指さしてきた。子供らしいその反応に私は思わず笑ってしまう。

 確かに、この薄暗さと静けさが怖いとは思ったが、私には頼りになる護衛がいるわけだし、彼の前で怖いなんて怯えていたら余計心配させるだけだろうから。




「な、何笑ってるんだよ!」

「べっつに~」



 そう私が返してやれば、ムキーッといった感じにルフレは地団駄を踏んだ。

 そういう所が子供なんだよと思いつつも、それを言ったら更に怒られるので言わないでおく。




「エトワール様と手を繋げるなんて微笑ましいです」




と、横からアルバが私もと言わんばかりに口を挟む。ここにも子供がいたと、私は白い目を向けつつアルバの手を握る。これでいいのかと、私はアルバを見れば彼女は嬉しそうに、にっこりと笑うと私の腕にしがみついた。




「歩けない、アルバ離れて」

「離れたくないです」

「冗談でも、今はやめて」




 そう私が言えば、アルバは名残惜しそうに私から離れていった。本気度が伺えて、私は乾いた笑いが漏れた。


 まあ、それは良いとして……


 私は一歩くらい店の中に踏み込んだ。カウンターに、椅子や机、普段はバーとして使われていると思われる店内は静まりかえっていた。ルクスがいる場所はここだと示していたのに、奴隷オークションの会場に繋がる通路が見当たらなかった。




「まさか、魔法で隠してあるとか?」




 あり得る話かも知れない。

 そう思いつつ、私達は狭い店内の中をくまなく探した。すると、ある一点で、グランツが足を止め剣を鞘から引き抜いた。そうして、今立っている床に向かって思いっきり剣を刺す。


 ヴオンッ……と大きな音を立てたかと思えば、次の瞬間にはガラスが砕けるような音が店内に響き渡り、床に小さな扉のようなものが現われた。




「多分、会場に繋がる扉はここでしょう」

「ぐ、グランツ……」

「俺の魔法は、魔法を斬る事が出来る魔法なので……結界魔法や幻覚魔法であっても、斬ること、無効化することが出来ます」




と、丁寧に説明を加えつつ、剣を鞘にしまう。


 グランツのおかげで、会場に繋がる扉を見つけることが出来た。私はありがとうと彼にお礼を言いながら、早速その扉を開ける。

 中を覗けば、地下へと続く階段があった。ここからオークションが行われる部屋があるのだろう。


 私は、ゴクリと唾を飲み込みゆっくりと降りていく。ルクスは無事なのか、オークションは始まっているのか。




「うわっ……」

「ちょっと、聖女さま危ない。足下見て」

「だって、暗くてよく見えないんだもん」




 中に入ると、先程よりもより一層暗くなっていて何も見えなかった。ルフレに言われて、私は慌てて足元を確認する。

 そこは土で出来た道になっていて、所々壁から突き出ている石畳を頼りに歩いていく。暫く進むと、明かりが見えてきた。どうやら、目的地に着いたようだ。




「ここが……」




 狭い通路を抜けた明の先には、広い空間が広がっていた。





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