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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第七章 急加速する物語の中で

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26 もう一度




(矢っ張り身体重いかも……)




 リースの手伝いをと、病み上がりの身体を何とか動かして聖女殿に向かう途中私は立ちくらみやら頭痛やらに苛まれていた。やっぱり、無理しすぎたかな……と後悔するがもう遅い。多分リースに言えば、無理しなくていい、ついてこなくても大丈夫だと言われそうだけど、自分からついていくと言い出した身、引き下がることはできなかった。私にだってプライドはある。

 だが、やはり目覚めたばかりもあって、魔力も上手いこと戻っていないような気がして身体がふわふわとしていた。いったさきで倒れるのもあれだとは思ったが。




(トワイライトの手がかりとか、いろんな人に協力を仰がないと……)




 トワイライトが攫われ、彼女が敵になった今、味方になる人達と言えば攻略キャラだろう。だから、そういうのもあって別に好きではないけれどあの双子に会わなければと思ったのだ。彼らが戦力になるかならないかは別にして、数は多い方が良い。

 リース、グランツ、アルベド、ブライトは災厄対策メンバーに入っているから、後はあの二人だと思ったのだ。




「……はあ、身体重い」




 まるで鉛でも背負っているかのように重かった。

 こんな調子で本当に役に立てるのかと不安になったが、今は信じるしかない。

 そう思いながら歩いていると、目の前から見知った顔が走ってくるのが見えた。




「エトワール様」

「ぐら、んつ?」




 亜麻色の髪を揺らし、翡翠の瞳を大きく見開いた彼は私に近寄ってき、前に倒れそうになった私の肩を支えた。




「エトワール様、大丈夫なんですか」

「あ、ありがとうグランツ。倒れるところだった」

「それは……はい」




 私がにへらっと笑うと、彼は困り眉で微笑む。

 リースに聞けば、いつもは無表情のくせに焦っており毎日のように見舞いに来てくれていたらしい。だが、平民と言うこともあり、トワイライトの騎士でもあったため、私が寝ている部屋には入れなかったのだとか。まあ、嫉妬深いリースがグランツをいれるわけもなく、彼も彼で断っていたみたいだったから、こうして顔を合わせるのは三日ぶりと言うことになる。彼が、トワイライトが攫われたといってきたのも三日前。


 グランツは、再度大丈夫かと私の肩を抱きながら尋ねてきた。ここで、見栄を張って大丈夫など言える表情をしていないと思ったため、私はちょっとまだ体調は回復していないと伝える。グランツは、そうですか。と答え俯いた。

 そういえば、彼とは仲直りできていなかったなあなどともの凄く前のことのように感じる出来事を思い返す。

 彼も、現在つかえている主が攫われたんだ気を病んでいるのだろう。そう思って、私は彼を励まそうと言葉をかける。それまでの事は抜きにして。




「グランツ」

「はい、エトワール様」

「ありがとうね」




 その言葉が意外だったのか、グランツは目を見開く。翡翠の瞳は大きく揺れており、光を帯びて宝石のように輝いていた。久しぶりに見る、曇っていない彼の瞳は綺麗だなあと、改めて攻略キャラの一人であることを実感する。

 ゲーム内では、なんとも言えないポジションというか、比べるつもりはないけれど、一人だけ爵位も何もない男だったから。




「エトワール様……」

「トワイライトのこと守ってくれていたんでしょ?リース……殿下から聞いた。トワイライトが天幕を出て行った後すぐに追いかけたって」

「ですが」




 守れませんでした。と言おうとしたのか、グランツはグッと言葉を飲み込んだようだった。


 彼も悔しいに違いない。私だって悔しい。


 でも、グランツがトワイライトを追いかけて混沌と出くわし、トワイライトを守ろうとしたのなら、それは褒めるべき事ではないだろうか。私のトワイライトを守ってと言う言葉を受けて、彼女を守ろうとしてくれていたのなら。だって、普通の人間が混沌に勝てるはずもないし、一対一で勝てるならリースを助けた時みたいに苦労していないだろう。それに、聞くところに寄れば、混沌は魔法に似ているが限り無く魔法ではない負の感情を媒体にした何かで攻撃してくるらしいから。グランツの魔法を斬る魔法では太刀打ちできないだろう。




「守ろうとしてくれたんだよね。トワイライトのこと」

「…………はい」

「ありがとう。私の妹を守ろうとしてくれて」




 私がそう言うと、彼はハッと目を潤ませて頭を下げた。

 その様子からして、相当気にしていたんだろうと思う。




(矢っ張り、トワイライトのこと好きだったのかな……)




 私を差し置いて、トワイライトの騎士になったのもやはり彼女に気があったからなのではないかとかも思ってしまっていた。まあ、攻略キャラだし、ヒロインに惚れるのは仕方がないことだ。それに、グランツはそういうのを抜きにして考えれば、忠実で従順、絵に描いたような騎士そのものだから、主を守れなかったショックは大きいに違いない。私が攫われたときも……アルベドに勝手に連れて行かれたときも凄く気にしているようだったし、誰よりも主のことを思える男なのだろうと思った。

 それにまだ二十にも満たないとしだし、色々思うところはあるのだろう。




「だから、そんなに気にすることないよ」

「ですが、俺は……」




 そこまで言って、グランツは黙り込む。

 何か言いたげに口を開いたが、彼の口から何か言葉が出ることはなく閉じられた。まるで、何か謝罪でもするかのような表情は私を不安にさせる。




(いつもそうだけど、何か言いたいならはっきり言えば良いのに……) 




 私が彼を責めるとでも思っているのか、彼は少し震えているようにも見えた。飼い主に怒られた子犬のように小さくなっているグランツを見て、私の眉はハの字にまがる。

 別に、彼には感謝こそすれど、責めることなんて何一つとしてなかった。むしろ、私は彼に感謝したいくらいなのだから。

 私はグランツの手をそっと握ると、彼は驚いたように顔を上げる。




「大丈夫。アンタの主人も世界も私達は救うから」

「……エトワール様」

「だから、悲しい顔をしないで」




 そういえば、グランツは。はい。とだけ呟いた。


 その顔は全く嬉しそうじゃなくて、私はまだ何か言わなければならないのかとふと彼の好感度を見れば、90%になっていることに気がついた。100%で必ず告白が成功すると書いていたが、90%でもグランツなら受け入れてくれそうだなあとも思った。する気は全くないけれど。だが、見ないうちにそれだけ上がったのかと、私は思った。別に喋ったわけでもなく、顔を合わせたわけでもないのに、彼の好感度は上がっていた。どういう風の吹き回しか。私が彼の現主人であるトワイライトに優しくしたからか。まあ、どうでもいいが。




「それじゃあ、私いくね」

「何処へですか?まだ、お身体の方が……」

「えっと、殿下と約束があるの」

「殿下と?」




と、グランツは言葉を繰り返す。


 何か可笑しいことでも言っただろうかと首を傾げていれば、彼は何か考え込むような仕草をする。

 私は、何か誤解しているのではないかと理由を説明し、グランツはそれを理解してくれた。




「――――と言うことなの。いろんな人に災厄やヘウンデウン教と戦うために協定を結んで……とか、何とかで、ダズリング伯爵家に」

「エトワール様が行かなければならないのですか?」

「えっと、まあ、私はトワイライトの代りの聖女だし!こうなったら、皆力を合わせなきゃ!」




 などと、無理矢理な理由をつける。

 グランツは、それをじっとした目で見つめていたが、私の性格を理解してか。そうですね。と小さく返した。




「じゃあ、私は行くから。時間も押しているし」




と、彼から離れようとしたとき、グランツに腕をギュッと捕まれてしまった。




「ええっと、何!?」

「エトワール様」




と、真剣な眼差しで私を見据えた。




(あれ、これって……)




と、思いながら、彼の言葉を待つ。


 もしかして、私に愛の告白でもするのだろうか。いや、まさか。だって、私のことを好きなわけではないだろうし、それに、このタイミングで私に告白だなんておかしいではないか。

 などと思っていると、彼は、意を決したように口を開く。

 私も思わず、ごくりと息を飲む。

 そして、グランツの口から出てきたのは予想外な言葉だった。




「俺も連れて行ってください」

「はい?」




 私は、その言葉を一瞬理解できなかった。

 確かに今、彼の主人はいないし、私の言葉を受けて自分にも何かが出来るのでは無いかと思ったのかも知れない。そうだったとしても、いきなりではないかと。別に、私はアルバを連れて行く予定だったし、彼がついてきても……という所はあった。

 リースもいるし、護衛もアルバだけで十分だと思っていた。それに、そんなに連れて行ってもあっちが驚くだけだろう。




「ええっと、今回はそんなに重大な話ではないし……かも知れないけれど、グランツはお留守番で……」

「前に、ダズリング伯爵家にいったとき、狼の怪物に襲われたのを忘れたんですか?」




と、グランツは吐き捨てる。


 忘れていた記憶が蘇り、背筋がゾクッとした。確かに、グランツに言われたとおり、以前伯爵家にいって狼の怪物と戦った。あの時、グランツはいなかったし、彼がその事を引きずっていることも薄々知っていた。だから、グランツは今度こそ、何もないとしても私を守ろうといってくれているのだ。


 それは嬉しいけれど。




「でも、グランツは私の護衛じゃないよね?」

「…………」

「それに、今回は殿下もいるし、殿下の護衛とか私にはアルバって言う護衛がいるわけだし……」




と、言えば彼は黙ってしまう。


 主人をころころ変える騎士はいらないし。などとは口が裂けても言えないのだけれど、それにしてもグランツは私の騎士に戻りたいという意思がちらほらと見えて。 

 諦めてくれるかなと彼を見れば、彼は翡翠の瞳を冷たく凍らせて私を見た。




「トワイライト様がいない今、俺は存在価値がないに等しいです」

「そんなことないって、騎士団とかと協力して災厄とヘウンデウン教と戦うって事だって……」

「トワイライト様は、エトワール様を守ってくださいと言いました」




 ですから。


と、グランツは息をつく。




「もう一度、貴方を守らせてください。俺を、貴方の騎士に――――」

「だから……!」

「俺を道具のように扱ってもいい。だから、貴方の隣に置いてください。エトワール様」




 その言葉を聞いて、私は身体がさらに重く、頭が酷く痛くなった。

 彼の好感度は92%と、期待を込めたように2%上昇していた。




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