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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第七章 急加速する物語の中で

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09 体力消耗




「何で、火の魔法が効かないのよ!」

「エトワール落ち着け、俺の方に向けて魔法をうつな!」




 先ほどから火の魔法を襲い来る木に向かって打ち続けているが、木の枝や幹はすぐに復活し、私に達に襲い掛かってきた。


 何故、三すくみで言えば木は火に弱いはずなのに……何て、考えていても仕方がない。私は、アルベドの方に魔法が行かないように、必死になって火の魔法を放ち続けた。

 しかし、一向にその攻撃が効果を見せることはなく、それどころか、私達の周りを取り囲むように木が増えていき、とうとう逃げ場を失った。



 アルベドは木の攻撃をかわしつつ、隙を見ては切りつけているが、それもあまり意味を成していない。このままではジリ貧だ。何とかして打開策を見つけなければ……と、考えていると、突然私達の間に大きな影が現れた。

 それは、先ほどのオレンジの木よりも一回りも二回りも大きく、また、枝を振り回し、こちらに向かってきた。

 これはまずいと私は、咄嵯にアルベドの手を掴む。すると、アルベドは私の手を握り返し、二人で駆け出した。


 後ろからは、大木が追いかけてくる。しかし、私達は止まることはせず、ただひたすら走った。

 一度火で燃やしてしまえば多少は再生に時間がかかるため、その隙を突いて逃げるしかなかった。といってもこの庭園に逃げる場所などなく、それに気づいたのかオレンジの木はその根を庭園中に伸ばしていった。




「どうなってんのよ、これ。頭可笑しいんじゃない!?」

「知るかよ。それより走れ、捕まったら終わりだぞ」

「分かってるわよ!」




 私達が走りながらそんな会話をしていると、目の前に一本の大きな木が立ちふさがった。その木には、無数の葉が生えており、まるで巨大な壁のようだ。




「嘘でしょ……」

「くそっ」




 私とアルベドは立ち止まり、どうするか考える。


 こんなものを燃やしてもすぐに復活するだろうし、もし、燃やせなかった場合はあの太い腕で薙ぎ払われてしまうに違いない。

 どちらにせよ、もう打つ手がなくなってしまったのだ。




「ファイアー、ファイアー、ファイアー!ああ、もう何で効かないのよ!」

「魔法の無駄うちするな、魔力なくなるだろうが!」

「そんなの分かってるのよ!」




 あまりにいかれたクエスト過ぎて、状況過ぎて私の頭では処理しきれなくなっていた。

 リースを助けるためのクエストのはずが何でこんなミニゲームみたいな……ミニゲームというよりかは中ボスを相手にしないといけないのかと私はキレ散らかしていた。その飛び火で、アルベドもイライラしているようだったが、言葉を撤回する余裕も何もなかった。




(ほんといかれてる!)




 ヒロインストーリーでは、こんな戦いはなかったし、そもそも恋愛メインのストーリーだったから、エトワールストーリーがこんなにも過酷だなんて知らなかった。


 何で、狼に襲われたり、肉塊に襲われたり、ドラゴンに襲われたりしないといけないのか。

 今になって思えば、エトワールストーリーはこれらを倒したところでそこまで名声が上がらなかった。名声というシステムはなかったが、過去の戦いを見て聖女としての力を示せたはずなのに、それでも自分の汚名は変わらないまま。

 そうして、今、リースを助けるために木と戦っているという。




(如何しろって言うのよ。もう、諦めたい……)




 当初の目的が霞むぐらいに、次々と襲い掛かる災難に私は涙目になっていた。泣いたところで何が変わるというわけでもないのに、私は泣くことでどうにか自分を保とうとしたのかも知れない。頑張っているのに、どうしようもならない。


 頑張ってる、仕方ないでしょって。




「…………あー、分かった」




 私が泣きべそをかき始めた頃、アルベドがそう呟き、私の手を取った。




「え?」

「俺に掴まってろ」

「え?ちょ」

「舌噛むなよ」




 アルベドはそう言って、私の手を引き、私を抱きしめた。

 そして、彼はそのまま跳躍し、その大きな木の上へと乗った。




「ええええええ」




 私を抱えたまま、アルベドは木の上に着地した。

 木の上で彼は私を抱え、座っていた。

 まさか、木の上の方に登れるとは思わず、私は驚きのあまり固まっていた。しかし、アルベドは私を降ろすことなく、木に背を預けたまま、座り込んだ。




「だ、大丈夫なの。ここここ、攻撃してこない!?」

「どうだろな……でも、ここにいれば、少なくとも攻撃はされないんじゃないか」

「でも……」

「いいから、少し休ませてくれ」




 そう言いながら、彼は目を瞑ってしまった。

 疲れているのだろうか……確かに、ずっと走りっぱなしだし、木の攻撃を避けたりしてかなり体力を使っているに違いない。

 それでも、私の心も体も落ち着かなかった。だって、先ほどまで攻撃してきた木たちがまた攻撃してくるんじゃないかと思ったから。現にこの木だって私達を攻撃してきた木の一部でもある。だが、彼のいったとおり、何故か木の攻撃は少しの間やんだ。いや、私達を探せずに地上でのたうち回っているといいった方が正しいか。


 何故か、木は私達の存在を認識できていないようだった。




「……温度とか、動いているからとか……どういう基準で私達に攻撃してきたんだろう」




 疑問は募るばかりで、もし法則性があるのならそれを解明して、対策を立てなければならない。




(でも、その前に……)




「ちょっと、アルベド、離して!」

「落ちてえのか」




 アルベドは私を守るように、抱きかかえ、眠ってしまっている。このままじゃ、何もできない。

 攻撃がやんだ理由、アルベドにも一緒に考えて欲しかったからだ。彼は頭が良いし、彼の意見も聞けば何か変わると思ったから。

 私は、アルベドの腕の中で、もぞもぞと動き、彼に話しかける。しかし、彼は起きる気配がない。


 それどころか、酷い熱だった。


 そういえば、アルベドも体力だけじゃなくて、幾ら闇魔法が人の魔力を借りて魔法を発動させるとしてもあの人数を転移させたんだ。そりゃ魔力は持っていかれるだろう。精神的にも。

 私が焦ったり、泣きたくなったりと負の感情が痛く目立つのは混沌の力が影響している皇宮の中に居るからだろう。

 今や皇宮は、あの時の肉塊の中に入ったときのような空間になっているに違いない。




(私も強く気持ちを持たなきゃ……)




「アルベド、私も頑張るからもうちょっと……うわっ!」




 アルベドを起こそうと、顔を上げると同時に私達が座っていたオレンジの木が一気に揺れ、私達は枝から振り落とされそうになる。




「ッチ……」




 アルベドが舌打ちをして、私を抱え込み、上手く木の幹や枝を利用し地上へと降りた。先ほどまで動くことがなかった木たちがまた私達に向かって攻撃をしかけようと、こちらへ来ようとしていた。


 その光景に私は、恐怖を覚えた。


 さっきまでは、ただ追いかけてくるだけだったが、今は違う。明らかに殺意を持って私達を殺しにかかってくる。私は、怖くて震えてしまった。でも、このままではいけないと打開策を練ろうとするが、何も思いつかない。

 そんな風に私が頭を抱えていると、アルベドは私にナイフを渡してきた。




「な、何?これで、自決しろと?」

「なんでそうなる。それ持ってろ。魔力を消費されて、お前を抱えて走ることになったら大変なのは俺だからな」

「何よ……だったら、アルベドはどうやって」

「俺は、まだある」




と、アルベドはもう一本どこからともなくナイフを取り出してその銀色に光る刃を木に向ける。


 さすがというか、暗殺者だから武器は一本じゃないんだ何て思いつつ、私は彼から渡されたナイフをギュッと握りしめた。ナイフを持つ事なんて初めてだし使い方も分からない。人じゃないとは言え、何かを切りつけるなんて私にできるのかとも思った。




「アルベド……」

「お前は……俺が引きつけている間に扉を探せ」

「扉、でもさっき扉はなくって……」

「上から見たとき、扉らしきものがあった。だが、扉は移動してるみたいだ」

「え、ええ……」




 さっきとは、彼が木の上に上がったときのことだろう。彼は、てっきり疲れて休むために上に上がったと思ったのだが、そういう理由ではなかったらしい。

 私は視野が狭いのだと改めて思った。

 でも、扉はどこに繋がっているか分からないし、開けて、またこんな変なところに飛ばされたら不味いとも思った。確かに、リースに近付いている感じはするけれど。

 しかし、彼は確信を持っているようで、私にそう指示を出した。




「わ、分かった。でも、アルベド……」




 先ほど彼は熱があるようだった。辛そうに肩で息をしていたし、そんな彼を一人にしていけるわけがなかった。

 だがアルベドは大丈夫だからいけと、私に背を向けてしまう。

 置いていきたくない気持ちと、このまま二人で倒れるならという気持ちとがぶつかって、私は彼を置いて扉を探すことにした。二人倒れるぐらいなら、二人でここを脱出したいから。


 私は、魔法を駆使しながら木の攻撃を避け、彼にもらったナイフで攻撃をさばきながら扉を探した。広くない庭園。

 それなのになかなか見つからないことに苛立ちを覚えながらも必死になって探し回った。


 すると、後ろから何か大きな音が聞こえ、振り返ると、そこには巨大な樹木があり、その周りには先ほどの木よりも大きい木々が群がっている。アルベドは大丈夫かと心配しつつ、私は走り回り、ようやく扉らしいものを見つけた。私の世より幾らも大きな扉。私はその扉に近づき取っ手を握り、思いっきりこちら側に引っ張った。だが、開かなかったため私は今度は推してみることにした。すると、すんなりとあき、私は少し恥ずかしい思いになる。




「引き戸じゃなくて、押し戸だったのね……」




 扉を開けると、その先は真っ暗だった。

 闇が広がるそこを見て、私はゴクリと唾を飲む。だが、先ほどと同じ、この先にいけば次の空間に繋がると。




「アルベド!」

「見つかったか……!?」

「うん、早くこっちに!」




 アルベドは振り返り、私の声を頼りにこちらに向かって走ってきた。木たちもアルベドを追ってこちらに伸びてくる。

 私はアルベドに向かって手を伸ばし、彼も私に向かって手を伸ばした。

 伸ばした手は、パシッと音を立てて捕まれ、私は思いっきり自分の方向へ彼を引っ張った。そうして、そのまま闇の扉の中へと引き込んだ。




 ごぽごぽごぽごぽ………………




と、扉の中に入ると私達は再び暗い水の底へ投げ出された。






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