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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第六章 不穏渦巻く

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37 不吉な雨




「アルベド、なんでアンタ戻ってきたのよ」

「お前が遅いから、戻ってきたんだよ」

「一人で行けば良いじゃない」

「お前が一緒にいくっつったんだろうが!」




と、悪態をつかれ、怒鳴られ私は思わずブライトの後ろに隠れてしまった。ブライトは驚きつつもいたって冷静に、アルベドを見ており、その様子が気にくわないのかアルベドは再び舌打ちを鳴らした。やはり、貴族とは思えない柄の悪さだ。


 アルベドは、苛立ったように髪をガシガシと掻きむしりながら貧乏揺すりを繰り返す。何がそんなに気にくわないのか分からず、理由が分からないために私は震える事しか出来なかった。

 何故彼が戻ってきたのか。確かに一緒にいくとはいったが、怒って先にいってしまったのはアルベドの方だった。なのに、戻ってきて私のせいにされて逆ギレされてこっちだって気分が悪い。そんな風に見ていれば、アルベドの黄金の瞳と目が合って、私はひっ、とみじかい悲鳴を出してブライトの後ろに顔も身体も全身隠した。




「それで、どうしてレイ卿がここに?」

「俺がいちゃ悪いかよ」




 それまで、黙っていた、壁としての役割を果たしていたブライトがアルベドに声をかけるが、アルベドはブライトには用がないとでもいうような態度で返し、私の方をじっと見ていた。実際顔は見えていないが、私を凝視していることが、視線から伝わった。何もしていないのに、ごめんなさい、ごめんなさいと心の中で唱えて、彼の怒りが収まるのを待っていた。




「いいえ、招待を受けているのであれば別に構いません」

「ふん、なら聞くんじゃねえよ」

「では、何故ここに?それに、エトワール様を探しているようでしたが」

「お前には関係無いだろ」




と、ブライトの言葉を悉く蹴って、アルベドは私に出てくるよう促した。だが、出ていったら出ていったで何されるか分かったものじゃないから私はブライトの後ろから出ることが出来なかった。

 ブライトもブライトで、やはり闇魔法の貴族である彼がここにいることを不思議に思っているのか、まだ聞き足りない様子で口を開こうとしていたが、これ以上彼を刺激するのは不味いと思ったのかそれ以上何も言わなかった。言わなかったのだが、アルベドがそういう雰囲気を感じ取ったのか、また突っかかってきた。




「闇魔法の家門である俺が、ここにいることが気にくわないのかよ。その顔」

「いえ、別にそういうつもりは」

「だよな。爵位的には俺の家の方が上だし、お前に色々言われる権利はねえ。それに、帝国の皇太子様の誕生日だ。俺にだって祝う心はあるさ」

「ごもっともです」




 ブライトは本当に賢明だと思う。


 アルベドの言葉を綺麗に受け流して、彼の怒りを逸らそうとしていた。そういう意味では、ブライトは本当に凄いと思う。中立に立つというか、客観視もできるというか。今回の場合それは当てはまらないのだが、兎に角人の感情を綺麗に流すことができる人だと思った。

 それに比べてアルベドはころころと変わって詠めないし、何処で怒るかすら予測できない。地雷といっても過言ではないだろう。


 それに、アルベドがブライトにここまで突っかかる理由が分からなかった。アルベドはブライトに、グランツはアルベドにとどうやら攻略キャラの中でも好き嫌い、不仲だったり、険悪だったり色々とあるようで、アルベドは一方的にブライトのことを嫌っているようだった。まあ、彼の家がアルベドの家を辺境へと追いやったのだから怒りを持っていても仕方がないと言えば仕方がない。だが、それが理由じゃない気がして、私はアルベドとブライトの様子をじっと見守っていた。こちらに飛び火しても困るし。


 攻略キャラ同士が絡むとろくな事がないなあ何て、呆れているとアルベドに名前を呼ばれる。




「エトワール」

「ひいいっ!」




 びくりと肩を大きく揺らせば、アルベドは苛立ったように舌打ちをした。


 その音の大きさにまた怯えて、ブライトの後ろに隠れれば、アルベドは私の反応に気をよくしたのかニヤリと笑みを浮かべた。

 ああ、やっぱりこの男苦手だ。




「お前って、ほんと毎回違う男と一緒にいるよな」

「はあ!?」




 突然、アルベドが変なことを言うので、私はブライトの後ろから顔を出して彼を睨み付けてやった。彼はニヤニヤと口元を歪ませながら、私を見ている。

 また何か馬鹿にされているような気がして、ムッとしながら彼の言葉を待つ。


 すると、彼の口からとんでもない爆弾が投下された。

 それも、特大級の。私にとっては最悪なものが。


 そして、その爆弾を落とした本人はと言うと、まるで勝ち誇ったかのように高笑いをしているではないか。




「星流祭最終日一緒にまわったのは俺だって言うのにさ」




と、アルベドが言うと、そうなんですか? とでもう言うようにブライトが振返った。ピロロンと久しぶりに好感度が下がる音が聞えたがそれどころじゃなかった。


 ブライトは信じているか、信じていないかは定かではないが星流祭のジンクスを少なからず知っているわけだし、最終日男女が一緒にまわったといえばそりゃあ、そういうことなのだろうって想像してしまうだろう。何て爆弾を落としてくれたんだとアルベドを見るが、彼は俺は悪くないとでも言わんばかりに無視を決め込んでいた。

 だが、別に誰とまわろうがブライトには関係無いと思っていたのだが、彼の好感度が下がったのは意外だった。




「エトワール様、本当なんですか?」

「え、あ、いや、えっと……」

「そうだよな、エトワール。一緒にはな――――」

「うわーっ!黙って、もう黙って、口縫い付けるわよ!」




 また余計なことを言おうとしたアルベドに私は突撃タックルをかまして、口を塞ぎながらブライトに違うと何度も叫んだ。ブライトは、そんな私を哀れむような目で見ていたが、これ以上アルベドに余計なことを言われて好感度が下がってもと思ったので、そこは仕方ないと私は思うことにした。私が変で、いきなり突拍子もない行動をするのは、ブライトも知っているだろうし。




「エトワール、苦しい」

「良いわよ。このまま窒息死しなさい」




 私の手のひらの下で、口をもごもごとさせるものだからくすぐったくて仕方がなかった。でも、離す気にもなれず、そのまま力を入れ続けたのだが、流石に苦しかったのか、彼の手が伸びてきて私の手を掴まれるとべりっと剥がされてしまった。その反動でよろけてしまいそうになったものの、すかさずブライトに支えられたので事なきを得た。




「大丈夫ですか?エトワール様」

「うん、大丈夫」

「ひっでぇなあ、エトワール」




 私達のやりとりを見て、楽しげに笑うアルベド。

 一体、何なんだこいつ。今日は厄日なのかと、頭を抱えたくなる。

 それに、ブライトの前でこんな風に彼と関わるなんて思ってもいなかった。前もこんなことがあったけれど、前とはまた状況が違う。




(というか、さっきまでアルベドと良い感じ……良い感じではないけど、ときめ……ときめいてもないけれど、優しかったくせに何でこう意地悪してくるのよ!?)




 先ほどまでのアルベドの態度に、少しキュンというか優しい気持ちになったのに、今は如何だろうか。ちっともドキドキもしなければ、きゅんもしない。それどころかイライラと腹の奥が煮えている。だが、この怒りを彼にぶつけたところで面白がられるだけのため私は何とか抑えた。

 それに兎に角、これ以上アルベドに余計なことを言われないように注意を払いつつ、話を進めなければと思った。




「それで、ブライトは弟を探してるんだったよね」

「はい、見間違いかも知れないですけど……」

「アルベドは、リース殿下に挨拶をしにいくんだったよね」

「お前も一緒にな」




 ブライトは、弟を探したい。アルベドはリースに挨拶をしなければと思っている。その二ついっぺんに叶えてしまおうと、私は頭を捻り、そうしてポンと手を叩いた。

 あまり、攻略キャラを連れ回すのも、二人同時に相手するのも危険だとは思うが。




「取り敢えずさ、会場に戻ろう。ほら、ブライトの弟も会場に戻ってるかも知れないし……リース殿下も会場にいるだろうし。ね?」




と、私が二人に言えば、二人は顔を合わせた後私の方をじっと見た。そんなに見つめられたら穴が開くと思いつつ、私は笑顔のまま二人に提案する。


 どうやら、その考えは二人のお気に召したようで、分かりました。分かった、と頷いてくれた。

 ここで、嫌だとか、此奴と一緒にまわりたくないとか言われたらどうしようと思ったけれど、二人はそこまで子供じゃないし、自分の感情だけを優先する何てこともしないだろう。その点ではよかった。




「それじゃあ、戻って……」




 そう私が言いかけた瞬間、ポツリ、ポツリと雨粒が空から落ちてきたかと思うと、ザーッと音を立てて降り出したのだ。

 それは、一瞬にして大雨となり私達三人を濡らす。突然のことに、私達は立ち止まり、ただ呆然と空を見上げた。




(不吉……)




 せっかくセットしてもらった服とか、髪とかそういうのが気にならないぐらい、先ほど空に浮かんでいたはずの満月は分厚い黒い雲に覆われ、空には一点の光すらなくなってしまった。




「おい」




 私がそうぼーっとしていると、頭の上からふわりと何かがかけられ私は顔を上げる。




「何してんだ。風邪引くだろ」

「え、ああ……うん」

「エトワール様、早く中に入りましょう」




と、アルベドは私の頭にきていた上着を、肩に羽織らせてくれる。先を歩いていたブライトは、真っ暗になってしまった庭園に灯をと、魔法でランプのようなものを生成し、道を照らしてくれていた。心配そうに、呆れたように私を見ていたアルベドは私の手を引いて走り出す。私はされるがまま、彼に引っ張られていく。

 先ほどまではあんなに晴れていたというのに、今では土砂降り。まるで誰かの涙のように、雨が降っている。

 私はぼんやりとしながら、妙な胸騒ぎを感じ顔をしかめた。




(何だか、嫌な予感がする…………)




 いきなり降り出した不吉な雨に、私の不安はぬぐえなかった。





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