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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第六章 不穏渦巻く

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12 置いて逃げられるわけない





(待って、このままじゃ……避けきれない!)




 私は、咄嗟に光の盾で自分を守ろうとしたが、間に合ったとしても直撃は避けられないだろうし、あの大きな身体を防ぎきれる自信もない。きっと、直撃すればそのままおだぶつだと、私は光の盾を作ったが、これではきっとダメだと思った。




 ――ドォン!




と、大きな音を立てて、ドラゴンは私の目の前に着地をした。私は目を瞑ったが、いつまで経ってもその衝撃はやってこない。


 恐る恐る目を開けると、そこには見慣れた背中があった。




「ぶ、ブライト!」

「……大丈夫ですか、え、エトワール様」

「ぶら、ブライト……嘘、え、何で」




 私が動揺していると、ドラゴンは怒り狂ったように雄叫びを上げた。

 ビリビリと、空気が震え、鼓膜を突き破るような大きな声に思わず耳を塞いだ。

 ブライトは、私を守って背中から血を流して倒れた。その出血量は尋常ではなく早く助け慣ればならないと思っているのに、私は上手く手が動かなかった。あの一瞬、私を抱きしめて彼はドラゴンの羽に当たったのだろうか。そして、こんな傷を。

 自分のせいでもブライトのせいでもないし、あれはどう考えても避けきれなかった。それを、ブライトが身体を呈して守ってくれた。傷を負って。




「ブライト、しっかりして!」




 私はようやく動くようなった身体を動かして、治癒魔法を彼にかけた。

 彼の顔は青ざめており、あの一瞬で魔法を使いながら私を庇ったのだと、きっと魔法を使っていなければ彼の身体にはさらに大きな傷が残っていたのでは無いかと考えた。だが、どちらにしろ、魔力を枯渇させて死ぬか、身体を引き裂かれて死ぬかの二択だったのかも知れない。私を守っていなければ、彼は傷つかずにすんだのだろうか。


 マイナスの感情ばかりが渦巻き初めて、これではダメだと顔を叩く。

 イメージが、魔力が安定しなければ治癒魔法はかけることが出来ない。今は、ブライトを治すことに集中しなければ。

 そう思い、手に魔力を集めて治癒魔法をかけるが、ドシン、ドシンと地面を揺らしながらドラゴンがこちらに近付いてくるのが分かった。でも、このまま自分だけ逃げることも出来ず、震えているのに私はブライトの治療をやめなかった。




「エトワール様、逃げてください」

「どうして!?どうして、傷だらけのアンタを置いて逃げられるの!?」




 私は、泣きそうな声で叫んだ。涙が出そうになるのを必死に耐えたが、声が震えるのは止められず、それでも、彼を治療し続けた。

 大丈夫だからと、私の手を握っていたブライトの手は冷たく、まるで氷のように冷たい。このままでは死んでしまうと、私は何度も治癒魔法をかけたが、彼の身体が温かくなることはなかった。

 傷が深すぎて治癒が追いついていないのか、治癒は追いついたとしても彼の魔力が回復しないせいでからだが暖まらないのか。いずれにしろ、こちらが魔力を注ぐばかりで何の変かもなかった。私も、魔力がこのままでは尽きてしまう。




「エトワール様、大丈夫です……このままでは、貴方が」

「私は!私を助けてくれた人を放って逃げることは出来ない。それにブライトが言ったんじゃん!危険だって。何処にいても危険なのよ!」

「それでも……」




 私は、ブライトに怒鳴るように言うと、彼は私の手をギュッと握りしめてきた。そして、何かを言いたげだったが、言葉を飲み込むようにして、静かに笑みを浮かべた。


 私は、そんなブライトを見て胸が締め付けられるような痛みを感じた。

 どうにかしたい、どうにも出来ない。結局私が来ても、何も出来なかった。光の鎖でドラゴンを拘束しても、すぐに破られてしまった。まだまだ自分の魔法が未熟だと感じつつも、ブライトに褒められたことが嬉しくて。でも、あのドラゴンは、前に戦った狼や赤黒い肉の塊とはまた違う強さだった。

 そう思って、災厄が訪れたら今みたいなドラゴンがうじゃうじゃと湧いてくるのではないかと、ゾッとしてしまった。今はそんなこと考えている余裕なんてないのに。


 それでも、ドラゴンに手こずっているようでは、先が見え無いと思ったのだ。




「エトワール様」

「……っ」

「どうか、お逃げください」




 ブライトは、優しい口調で私に言い聞かせる様に言うと、私は首を横に振った。




「嫌だ!」

「エトワール様!」




 ブライトはまた同じ事を言う。その言葉を私は全部きりながら、目の前に現われたドラゴンと対峙した。今にも食いかかってきそうなドラゴンを見て、怒りや憎しみに染まったドラゴンの赤い瞳を見て、恐怖で足がすくんでしまう。




(怖い……けど)




 私は、怖くて仕方がないのに、何故か、私の頭は冷静だった。


 さっきは、ブライトを助けることで頭がいっぱいで、ドラゴンのことなんか考えている暇がなかったけれど、こうして対峙してみると、何故だか、救ってあげなくちゃと云う思いが生れた。そうして、私は片手で治癒魔法をかけつつ、ドラゴンの身体を再び光の鎖で拘束する。ドラゴンは激しく暴れて光の鎖を千切ろうとしていたが、それは無駄なことだと言わんばかりに、光の鎖は更に強く縛った。



 二つの異なる魔法を扱うことは、非常に難しいことで、イメージが少しでも途切れれば二つとも魔法がきれてしまう。けれど、今の私はブライトの命も、ドラゴンを沈静化させることも二つとも頭にあって、それら二つを同時にこなそうとしていた。自分が自分じゃないみたいに、まるで大賢者……聖女であるかのように。




(聖女であるかのようにって、私は聖女よ。本物じゃないかも知れないけれど……)




 激しく揺れるドラゴンの身体を、私は光の鎖でどうにか拘束していた。片方の手で扱っているため、本数も少なければ威力も弱い。けれど、ドラゴンも弱ってきており、魔道士や騎士達がつけた傷に上手くめり込ませて、傷を癒さないようにしている。そして、傷口に直接魔法をかけて、じわじわと体力を削っていた。

 大きなドラゴンもさすがに傷口に塩を塗られるような魔法には弱いのか、痛みを訴えるように暴れ回った。



 カキン、パキン……と次々に光の鎖はちぎられていったが、私は、ドラゴンがそれら全てをちぎり終わったとき、ドラゴンに向けて光の矢を放った。一本二本三本と、どんどん数を増やしていく。

 ドラゴンは、それらを全て避けようとしたが、避けきれずに翼を貫かれ、目を貫かれと、悲鳴を上げドスンと、地面が震えるほどの大きな音がして、土煙が舞い上がる。

 私は、そのまま続けて攻撃しようと魔法を発動させた。もう、ドラゴンは動けないというように身体をぴくつかせていたがまだ残っていた片目は憎悪に満ちた色で私を見ていた。




(早く、解放してあげなくちゃ……)




 負の感情に飲まれ、きっとドラゴンも苦しいだろうと思った。このドラゴンとは初対面だし、ブリリアント家でどのように育ってきたかも分からない。勿論、殺すわけではないし、浄化できるなら浄化してあげたいとも思った。私に出来ることはそれぐらいだろうと思ったから。

 そうして私はブライトにかけたいた治癒魔法を一旦止め、両手に魔力を集め、浄化魔法を使える準備をした。


 後は、詠唱するだけ――――と、息をのむが、以前どのように魔法を使ったのか、詠唱を唱えたのか一向に思い出せなかった。




(あ、あの時は確か……システムが)




 今回もこれがイベントであるなら、そこら辺はやってくれるだろうと何処か軽く考えていた自分がいたのも事実だ。しかし、幾ら経ってもシステムは「浄化魔法を使いますか?」と出てこない。その隙にドラゴンは、最後の力を振り絞るかのように羽を大きく揺らし、空へとボロボロの翼で舞い上がると、大きな雄叫びを上げる。それは、悲痛に満ちた、憎悪に満ちた鳴き声だった。

 そうして、大きな牙の生えた口に赤い何かが集まっていく。それが、火球であることに気づき、だんだんと肥大化していくそれを見て私は早く浄化魔法をうたなければと焦った。しかし、やはり何の反応もない。




(どうなってるのよ!?このままじゃ――――)




 そうしている間に、大きくなった火球を飲み込んだドラゴンは、口から炎のブレスを吐きだした。それも広範囲に広がるようにして放たれたそれに、私はどうすることも出来ずにただ見つめることしか出来なかった。

 そのブレスは、私の方めがけてもはなたれ、光の盾では本当に間に合わないと諦め目を閉じたとき、目の前に水のシールドが張られ、そのシールドは炎のブレスをいとも簡単に飲み込むと、蒸発するように消えた。




「……え?」

「良かった……間に合いました」




 そう声が聞え振向けば、片腕を押さえながら魔法を発動したであろうブライトが微笑んでいた。




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