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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第六章 不穏渦巻く

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11 劣勢




「前衛部隊! 衝撃に備えて下さい!」




 ブライトの指示で、後ろにいる騎士達を守るように大きな光の盾を生成する魔道士達。そして、次の瞬間巻き起こった竜巻を何とか防ぎ、後ろに控えていた騎士達がドラゴンに斬りかかった。しかし、ドラゴンの赤黒い分厚い鱗には一切傷がつかなかった。




「くっ……!」

「ブライト!」




 私は、絶えず巻き起こる突風に吹き飛ばされないようにと階段を駆け下りてブライトの方へと走った。すると、彼は私が来たことに驚いたのか、私の方を見ると幽霊でも見るかのような目を向けてきたのだ。




「え、エトワール様、どうしてここに!?」

「皆に無理言ってここに来たの。リュシオルがもしかしたら、そのドラゴンは災厄の……負の感情によって暴走したのかも知れないって言ってたから」

「リュシオルさん……エトワール様の侍女のことですか?」

「そ、そう」




 侍女は侍女であるのだろうけど、そう言われたことがあまりになかったため、私は戸惑いながらもそう答えた。

 ブライトは、中々鋭い人ですねと言いつつ、ドラゴンの方を見ていた。

 私もガラス張りになっている廊下を走ってきたとき、見えたがドラゴンは想像以上に大きく、濁った血のような、赤黒い皮膚をしていた。それは、まるであの調査の時であった怪物と同じ色。私は思いだしただけでも、ゾッとしてしまったが、リュシオルの言っていたことが本当だったのではないかと、さらに確証が深まった。




「それで、どうなの?ブライト」

「……そうだと思います。エトワール様の侍女が言うとおり、あのドラゴンは暴走しています。負の感情によって」




 そう言いながらブライトは、詠唱を唱え、傷ついた騎士達の傷を癒やし始めた。一気に何人も出来るわけでは無いし、治癒魔法と言えば魔力も持っていかれ、一人に施すだけでも時間がかかるというのに、ブライトはさすがだと思った。だが、既に魔力をかなり消費しているのか顔が青いようにも思える。


 私は、私に出来ることは無いのかと探したが、彼の指示なしに動けば、指揮官である彼の策が崩れてしまうだろうと、安易に動くことが出来なかった。




「ブライト、魔力は……」

「平気です……と言いたいところですが、正直持つかどうか。既に、僕の部下達もかなりの魔力と体力を消耗しています。幾ら、先祖が魔法をかけた地であっても、魔力は早々に回復しません」




と、ブライトは、この領地に魔法がかけられていることを教えてくれた。




 何でも、彼の先祖が魔力不足にならないためにと、自然魔力回復をこの地にかけたらしい。そのため、自然から魔力を吸収することや、他の土地とは違って、魔力の回復速度が速いのだとか。しかし、それらがあっても今の状況では魔力が足りないぐらいだという。

 ブライトは応援を要請しているが、たどり着くまで足止めをしなければならないと、険しい表情で言った。それを聞いた私は、いても立っても居られず、何か自分にできることを探したが、何も浮かんでこなかった。ここにいても、あちらにいても結局危険な事に変わりはないと、命の危険にさらされ続けるのかと思ってしまった。でも、自分で決めた道だから。


 そして、どうにもあのドラゴンはやはり誰かが意図的に暴走させたようで、見境なく襲ってきているらしい。何でも、ドラゴンを飼育していた際は、まだ両腕で抱えられるほどの大きさだったというのだから、きっと誰かが意図的に負の感情を流し込んだのだろうと。それまでは大人しくなつっこいどらごんだったらしいから。

ということはだ。ブリリアント家、この領地の中に裏切り者がいると言うことなのだろうか。




(私が、何かできればいいんだけど) 




 裏切り者を見つけたとして、その負の感情を回収できるわけでもないだろうし、魔法で巨大化しているならまだしも、負の感情を流し込まれて暴走しているのであれば、こちらが制圧するほかない。




「ブライト、私に出来ることは無い?」

「エトワール様……そうですね、ドラゴンの動きを止めてくださる事って出来ますか?」

「ドラゴンの動きを?」




 はい。とブライトは頷いて、こちらに飛んできた大きな岩を光の盾で防いでくれた。


 ブライトは、攻撃系の魔法を得意としているわけではない。どちらかというと、補助系が得意で、主に仲間や騎士達の強化や支援をしていることが多い。それに、あのドラゴンは先ほどから風魔法らしきものを使ってきているが、火を噴くこともあり得ると私は考えた。もしそうなら、ブライトはかつてのトラウマを思い出すことになるのではないかと。ブライトは、火が苦手なのを私は知っているから。

 私は、ブライトの言葉に迷わず頷いて、出来るかわらからないが、ドラゴンに標準を合わせ、イメージを膨らませた。




「光の鎖――――ッ!」




 そう、私が叫んだ瞬間、地面からぼこっと大きな鎖が現われ、その白い鎖は宙を舞っていたドラゴンの身体に絡みつき、地上へと引きずり下ろしたのだ。

 これを使ったのは二度目だけれど、上手くいって良かったと、私は思いつつまだ気が抜けないと暴れるドラゴンの身体をどうにか押さえつけた。力が強くて引きちぎられそうで、実際に触っているわけではないが、私の手は熱し棒で叩かれているぐらい熱くなった。




「……っ!」

「エトワール様……攻撃部隊、今です!」




 私が長く持たないことを察してくれたブライトは、騎士や魔道士に指示を飛ばし、ドラゴンに一斉攻撃を仕掛けた。

 ドラゴンの分厚い鱗には、一度や二度の攻撃では傷がつかず、刃が欠けたり、何度も弓矢を放ったりと、騎士達は諦めず、何度も攻撃をして、ようやく赤黒い鱗が剥がれ落ち始めた。ドラゴンは呻き声を上げながらさらにのたうち回り、私は身体事持っていかれそうになった。そんな私の身体をブライトが支えてくれ、彼は大丈夫です。と安心するように言ってくれた。それと同時に、私の手を包み込むように後ろから握ると、握られたところから温かい光が漏れ出した。




「ブライト?」

「ちょっとした支援魔法です。エトワール様だけに、負担させるわけには行かないので」




と、ブライトは優しく微笑むと、私の魔法に上乗せするように光の鎖をもう二本と出した。


 そうして、ドラゴンはさらに地面に貼り付けられたのだがこちらがどれだけ攻撃しても攻撃が一向に通っていないようだった。これでは、何度切りつけても魔法をぶつけても日が暮れてしまうと、ブライトも思ったのか、どうしたものかと悩んでいるようだった。

 どうして、そこまで防御力が高いのだろうかと、私は何処かにあのドラゴンは完全に沈静化させるヒントはないかと探したが、見つかるはずもなかった。




(弱点さえ分かればいいのだけど……)




 ドラゴンを眠らせる魔法や、小さくさせる魔法があるかとブライトに尋ねたが、ドラゴンを眠らせる魔法は、ドラゴンに限らず暴走しているものには効きにくいと言い、小さくさせる魔法もあるにはあるが、この人数と魔力では到底出来ないと言うことを伝えてくれた。イメージ力があっても魔力が足りないため、何も出来ないのだとブライトは言って、このまま攻撃を続け、応援が来るのを待つしかないと言った。

 だが、ドラゴンは負けじと動き回り、騎士達も疲労が顔に見えてきている。このままじゃ、きっとまた振り出しに戻ってしまうのではないかと。




「ブライト、このまま光の鎖を保ってもらっていい?」

「は、はい……ですが、エトワール様何を?」

「光の弓矢……最大まで魔力を込めれば、それか浄化魔法を使えばあのドラゴンを沈静化させられるんじゃないかと思って」

「そう、かも知れませんが。そうすると、もの凄い魔力量を消費することになりますよ?」

「でも、私聖女だから大丈夫だって」




 そう、私は言ってみたがブライトは顔が浮かなかった。

 私が聖女だから、と言ったからと言うよりかはきっとそれでは無理だとでも言うような顔。どうしてそんなかおをするのかと尋ねようとしたとき、ブチブチッと何かが引きちぎられるような音がした。




「ど、ドラゴンが!」




 後ろを振向けば、なんとドラゴンが光の鎖を引きちぎり、自由の身になっていたのだ。ブライトはすぐさま光の鎖を出そうとするが、間に合わず、ドラゴンは空高く舞い上がった。

 そうして、私達めがけて降下してきた。



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