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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第六章 不穏渦巻く

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10 理想の女性




「何?用件があるなら早く言って」




 我ながらに冷たい言葉だと思った。


 本当はもっと優しい言葉をかけられたんじゃないかなとか思ったけれど、私って案外冷たい人なんだなあと自分で分かるぐらいに突き放すような言葉が出てしまい、グランツはビクッと方を上下させた。だが、彼の表情筋が動くわけでもなく、ただただ空虚な翡翠の瞳に私を浮べて何か言いたげにこちらを見ているのだ。


 これでは、拉致があかないともう一度同じ事を言おうとしたとき、グランツの方が先に口を開いた。




「俺を連れいてってください」

「え……?」




 その言葉が別に意外だったとかそう言うんじゃない。


 本気でそう言ったグランツの顔がよく見えなかった。見えなかったというか、見たくなかったというか。確かに、一人で行くのは心細いし、怖いし、本来なら護衛騎士を連れて行くところなのかも知れないが、アルバを連れて行くとは一言も言っていない。現にその言葉を聞いてアルバは何を言っているんだ的な目をグランツに向けて、彼の肩を掴んだ。だが、グランツは揺るぐことなく、私に再度連れいてって欲しいと言ってきた。本気度が伺えたが、彼は私の護衛でも何でもない。




「アンタはトワイライトをそばで守る義務があるはずよ」

「……分かっています。しかし」

「分かっているなら、何でそんなことが言えるの!」




 私は思わず大きな声で叫んでしまった。

 私の声が部屋に響き渡り、皆が一斉に私達に注目した。


 しかし、そんなこと気にしている暇はない。私は彼に問いただした。すると、彼は私を見つめて、はっきりとした口調で答えた。




「ドラゴンの攻撃は何も物理だけではなく魔法もあります。なら、俺の魔法を斬る魔法が役に立つはずです」

「だから、連れて行けって?」

「必ず、役に立って見せます」




 そういったグランツはかなり必死だった。捨てられないように子犬が主人に媚びるみたいな、そんな雰囲気があった。

 私は呆れてものが言えなかった。以前の私なら連れて行ったかも知れないけれど、どうしても今回は連れいてく気になれなかった。自分の護衛であるアルバならまだしも、トワイライトの護衛を引っ張っていけるほど非情ではないから。


 確かに、グランツの言うとおり私の想像するドラゴンであるなら火を噴いたり風を起こしたり物理にくわえて魔法攻撃をしてくるかも知れない(それが魔法に入るのかは定かではないが)。だから、彼のユニーク魔法、魔法を斬ることができる魔法はかなり役には立つと思う。グランツが言いたいのは、自分を盾にしてくれと言うことだろう。彼らしいと言えば彼らしい。騎士であるから、自分が傷つくことは当たり前だと出会った時からその考えは変わっていないようで、自分をどうぞ使い捨ててくれと、首を差し出しているようなものだった。


 それも気にくわない理由の一つだった。


 攻略キャラで、ちょっとやそっとのことでは死なないかも知れない。トワイライトのヒロインのストーリーでは、生死をさまよった攻略キャラはいたものの皆何かしら奇跡的な回復を遂げて戻ってきている。だから、攻略キャラは死なないという風になっているのかも知れない。そう思えば、グランツはストーリー外の出来事であれ死ぬ可能性がないのだろう。そういう意味では、盾として使えるかも知れない。でも、私は彼を使い捨てる気も盾にする気もない。


 私は、どれだけ辛い状況に立たされても自分を精神的に傷つけたことはあっても、自分の身体を傷つけたことはなかった。だから、自ら傷つきに行こうとする彼の考えを理解したくなかった。



 そんなのただ痛いだけだから。




「エトワール様、俺を――――」

「グランツは」

「はい……?」

「グランツはどうして、そうやって自分はいい見たいな。傷ついてもいいみたいな言い方するの?」




 そう、私が言ってやれば、彼の翡翠の瞳は丸くなって、何故? といった疑問が浮かんでいるようにも思えた。

 でも、私の言ったことが理解できていないのか、口を開閉するばかりで彼は言葉を紡ぐことはなかった。その様子を見て、無意識にやっているのだとまた私はため息をつく。




「前もそうだったけど、……守ってくれるとか、力になりたいって言ってくれるのは嬉しい。でも、その盾にしてとか、命を使っていいみたいなこと簡単に言っちゃ駄目な気がする。アルバもそうだけど」

「私、も……ですか?」




 自分が振られることを予想していなかったのか、アルバは頓狂な声を上げつつ自分を指さしていた。

 護衛だから、主を守る為に命を燃やすみたいな……それは騎士として正しいのかも知れないけれど、人間としてもっと自分を大切にして欲しいと思う。

 私の元住んで居た世界とは勝手が違うから、私が可笑しいのかも知れないけれど。




「ですが、俺は騎士です。主を守ることが俺の……」

「でも、アンタは私の騎士じゃない」

「……っ」




 彼の言葉を遮るようにして言えば、グランツの顔が歪んだ。

 何度も同じ事を言うようだけれど、自ら私の元を離れていったのに、今更私を主扱いするなんて虫が良すぎると思う。




「今はトワイライトの騎士でしょ。グランツは」

「そう…………です」

「なら、彼女を守ってあげて。私の大切な妹なの」

「ですが、エトワール様は!」

「私が弱い人に見える?」




 そう尋ねれば、彼は首を小さく横に振った。けれど、目には守ってあげなければならない存在というように映っていて、私は根本的なところは変わっていないなあ何て思った。どうでも良いけれど。

 私は、それでも納得できないグランツを納得させるために彼の前までいき、彼の翡翠の瞳と目を合わせた。目が合った瞬間、彼は嬉しそうな色を瞳に浮べたが、決してそれが顔に表れることはなかった。



「どう見えてるの?」

「……見えません。エトワール様は、強い人です」

「そうでしょ。でも、この強さってグランツがくれたものでもあるんだから」

「俺が……?」




 グランツは心底驚いた顔をしており、信じられないと私の瞳をじっと見つめていた。

 そんな彼に私は、微笑みかけた。


 彼は覚えていないのかも知れないけれど、いや、そこまで私の言葉が届いていなかったのかも知れないけれど、彼が私の護衛になってくれたとき、私は守ってくれる彼のために強い人になろうって決めた。守られるに値する人になろうって決めた。それから、私なりに努力してここまでやってきた。強くなろうと思えたのは、グランツのおかげでもあると私は思った。強くしてくれたのは、また違う日とかも知れないけれど、きっかけはグランツだったような気がする。


 私が誰かの為に何かをしようって思えたのは初めてだったから。


 グランツは、言葉が出ないと私を見つめるばかりで、何かを言いたげに、それでも言葉が見つからないとでも言うように私を見つめて苦々しく唇を噛んでいた。




「アンタは覚えてないかも知れないけど……でも、私結構言ってたじゃん」

「……」

「守られるに値する人になるって。アンタが私の護衛になってくれるって言ったとき、私アンタにそう言った。今は、私の護衛じゃないけど、その考えは変わらないよ。今は、アルバに守られてるけど、彼女に守られるに値する存在になろうって。自分を守ってくれる人のことすっごく大切にしてるんだから」

「エトワール様」




 私が言いたいことが伝わったのか、グランツは困ったように眉を下げてほんの少し笑っていた。

 納得してくれたんだろう。




「だから、私は強くなった。守って貰えるのは嬉しいよ。今でも……自分の護衛じゃなくてもそう思ってくれる人がいるだけで嬉しい。勿論、アルバが命を賭けてでも守るって言ってくれたことだって嬉しかった。でも、私だって弱くない」

「は、はい、エトワール様!」




 そう返事したアルバに微笑みながら、もう一度グランツを見た。

 彼は、もう私を引き止めるという意思がないようで、いってらっしゃいとでもいうように目を伏せた。




「エトワール様は、俺の理想の女性です」

「……っ、ありがとう」

「強い人です。俺が、勝手に守ってあげなければならない人だと思っていました」

「う、うん……そう。じゃ、じゃあ行ってくるね」

「はい」




 これ以上言われたら、顔が沸騰しそうだったため、私は何とかその場を切って部屋の扉を開けた。

 後ろから、アルバやトワイライトが心配そうに「気をつけて」と言ってくれ、私は三人に背中を押され部屋を出た。部屋を出た瞬間また、屋敷が揺れ、遠くから轟音が聞えたため私は静まりかえったブリリアント家の廊下を走った。




(ブライト……大丈夫だよね……?)





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