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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第六章 不穏渦巻く

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08 ファウダーの力




「大丈夫ですか?落ち着きましたか」

「はい、ブライト様が魔法で治癒して下さったおかげで」




 トワイライトは、いつものように穏やかな笑顔でそうブライトに微笑みかけてもう大丈夫だという意思を私達に伝えてきた。


 あの後、よろけて倒れそうだったトワイライトを何とかベッドまで運び、ブライトと彼の屋敷で雇われている魔道士達でトワイライトの様態を診てもらった。その結果、特に体に異常はなく、立ちくらみと疲労から来たものだったと診断された。診断結果は、腑に落ちない部分はあったが、昨日まで式典やパレードなどにでていたわけだし、私だったら疲れて次の日歩けないぐらいなのだから、トワイライトもそこまで胃は行かずともつかれていることだろうとは思った。だから、腑に落ちずとも、無理矢理落として、疲れがたまっていたのだろうと言うことで片付けた。他に原因が見つからないとも言われたし、魔法で探すにも限界があるのだろうとも思った。


 もし、他に原因があったとしても、その原因を突き止めたどころで何になるという話なのだ。これが呪いや魔法によるものだったら、私達だけで日以上できるのかという話にもなるし、そう言った面では、ただの疲労だったという事実は、これ以上ないほど幸福なことだった。



 彼女にとっては辛いだろうけれど。 




(ほんと……腑に落ちないけれど……)




 そう思いつつもその診断結果を聞いて、私達は胸を撫で下ろした。




「本当に大丈夫?トワイライト」

「ええ、お姉様が心配して下さったので」

「いや、そういうことじゃ」




 そう言うことじゃないのだけれど。と私が言おうとすると、彼女は人差し指で私の唇を押さえた。その行動に私は思わず口を閉ざした。大丈夫だと言えば、それを押し通す子だと私は知っていたからだ。

 でも、無理しているようにも思えてやはり心配になってしまう。妹がいきなり苦しんで倒れそうになったのだから、誰だってそうだろう。


 私は、トワイライトの手を握りながら、彼女に再度大丈夫かと尋ねた。

 その間、ブライトはトワイライトの容態を魔道士達からもう一度聞き、漏れがないかと確認をしていた。確かに、本物の聖女が何かの病にかかっていたり呪いにかかっていたりしたら大変だろうから。だが、魔道士達は口をそろえて可笑しいところはありませんとブライトに伝えて、申し訳なさそうに頭を下げていた。それを、ブライトは大丈夫ですから。と苦笑いしながら宥めて、彼らを部屋から出すと、ぱたりと扉を閉めて私達の方へ寄ってきた。


 何故だかブライトも疲れ切った顔をしており、私はどうしてだろうと、彼の白い肌を見た。先ほどの治癒で魔力を沢山注いだとか、頭の痛くなるような話を魔道士達としていたとかではないと思っていたのだが。

 ブライトは、ふぅ……と息を吐きながらトワイライトの方を見ていた。




「トワイライト様」

「ブライト様、私は本当に大丈夫ですから」

「いえ、そうではなく」




と、ブライトは少し困ったような表情を浮かべると、ちらりと私を見て、そしてまたトワイライトの方へと視線を戻した。そして、意を決するように一度目を瞑って開くと、こう続けた。

それはまるで、今から重大なことを言うかのような面持ちで。


 そんな彼の真剣な、深刻な姿に私は固唾をのんだ。




「トワイライト様……非常に、申し上げにくいのですが、ファウダー……僕の弟の手を握ったとき何か見えませんでしたか?」

「え?」




 彼の口から発せられた言葉に、私もトワイライトも口を開くほかなかった。


 彼は何を言っているのだろうと、ブライトのアメジストの瞳を見たが、彼を嘘を、冗談を言っているようには到底思えず、いたって真剣に聞いているのだろと私は思い口を閉じた。まあ、私が聞かれているわけじゃないし、トワイライトの答えを私はじっと待つことにした。


 トワイライトは戸惑いながらも、ブライトの質問に対してどう答えるべきか考えているようだった。

 そんな彼女の様子を見て、私はそっと彼女の肩に手を置いた。すると、彼女はこちらを見て、不安げに私を見つめた。そんな彼女の様子に、私は安心させるように微笑みかけた。


 そうして、落ち着いたのかトワイライトは思い出すようにぽつりぽつりとこぼした。




「ブライト様の弟の手を握ったとき、頭が痛くなりました。それは、もう頭が割れるような痛みでした。頭の中にノイズが走ったような、黒い靄がかかったような気がしたんです……気のせいかも知れませんけど」




 そういうと、トワイライトは思い出したくもないというように身体を震わせた。


 あのほんの一瞬でそんなことが……と私は思いつつ、彼女は本気で言っているんだと、トワイライトを抱きしめた。抱きしめられた彼女は少し安心するかのように肩で息をして、それからブライトに続けた。




「嫌な感じ……と言ったらいいんでしょうか。なんとも言えない、心の中を覗かれるような、掻き乱されるような感覚が一気に襲ってきて、吐き気さえ覚えました」

「そう……ですか」




 それは辛かったですね。答えて下さってありがとうございます。と、ブライトは言って頭を下げた。そして、次に頭を上げたときには険しい顔になって、顎に手を当てて深く考えるような仕草をし始めた。


 その様子を見て、私とトワイライトは顔を見合わせた。

 それから暫く経って、ブライトは今度は私の方を見て言った。一体何事かと、私は首を傾げた。

 ブライトは、何だか言いづらそうにしているようで、何度か口を開け閉めしていたが、やがて意を決したのかゆっくりと話を始めた。




「エトワール様は、大丈夫でしたか」

「えっと、私は何にも……」

「あ……すみません、主語も何もなく。えっと、そうですね……あの、僕達が初めてであったときのことです。ファウダーを助けてくれたではありませんか」

「そう、そうだったね」




 それは、最悪の出会いだったと心の中で文句を言いながら、私はブライトが何を聞きたいのか分からずに眉を曲げるしかなかった。

 大凡予想はついていたが、今更私にそれを聞くのかと思ってしまったからだ。それとも、もし、そうだったとして触れるの範囲が手だけであったとしたら……


 そんなことを考えつつ、ブライトが私の答えを待っているようだったので私は口を開く。




「えっと、その、あれだよね。ブライトが聞きたいのは、ファウダーを助けたときに、彼に触れたって事……だよね」

「……っ、はい。そうです。その時のこと、覚えていませんか?」

「あーえっと、結構前のことだけど、うん。トワイライトみたいに立ちくらみがしたとか、頭が痛くなったとかはしなかった……かな。あ、でもあの時、助けたときに擦り剥いちゃってそっちの方がいたかったって言う記憶があって」

「なるほど」




と、ブライトは、そういうことかとでも言うように頷いて、私を見た。


 私の予想は合っていたようだった。


 ブライトが言いたかったのは、ファウダーに触れて大丈夫だったかと言うこと。彼が、ファウダーには触れてはいけない、彼は病気だからと嘘をついたのはやはりファウダーに何かしら力がある、病気……までは行かずとも、別の何か、例えば触れたら呪いにかかるとか、頭が痛くなるとかそういう類いのものだったから。と、今更ながらに、全てが繋がって糸がぴんと張ったような気がした。でも、ここまで隠す理由は何なのだろう。



 ファウダーの弟の世間体を気にしてなのか、自分の世間体を気にしてなのか、はたまた他の理由があるのだとか。

 ブライトが直接言ってくれない以上分からないが、分かることは、ファウダーに触れたら何かしらなると言うことだけだ。


 ブライトは、その後黙ってしまい、結局彼の弟については聞き出せなかった。

 だが、エトワール様は無事で良かったとでも言うような優しい顔をしてくれたから、それだけは救いかも知れない。



 そんなことを思っていると、ブライトはまた何かを思い出したかのように口を開いたが、何かを言いかける前に、すみません。と、バタン!と大きな音を立てて扉が開いた。何事かと私達は一斉に振向くと、ボロボロになった騎士らしき人が、ブライト様! と彼の名前を呼び、こう叫んだ。




「ど、ドラゴンが……」




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