01 私、天馬巡はオタクです
「おぉおおッ! 今回のガチャも最高か!?」
私は、興奮気味にスマホをタップする手を速めながら画面を見つめていた。
私――天馬巡は所謂オタクである。私が、二次元に目覚めたのは小学五年生の年生の頃。それから現在二十一になるまでオタクの道を走ってきた。
二次元のキャラクターを尊いと思い、推している。そして、そのキャラクターのグッズを集めることに喜びを感じるタイプの人間だ。
私は、ガチャを回すために人差し指を画面に近づけるが所有石が限り無く0に近いことに気づき思わずスマホを投げた。スマホはベッドの上でバウンドし、私の顔面に直撃した。
「ふぎゃつぶしッ……!」
誰もいない部屋で私は潰れたカエルのような声を出して鼻を押さえた。
今月は金欠で有償石を買うお金もない。私は、一縷の望みを掛けて手元にある石を全部使って回したが結果は爆死だった。
「うぅ……課金したいけど、来月にはイベントがあるから我慢しないと……」
一人暮らしの大学生。
唯一の友達であり親友は先月亡くなり、四年間付合った彼氏とも先月別れた。
ガチャの女神にも見捨てられ、今の私はまさにどん底である。
「こういう時は、推しを吸って元気になるのよ。私!」
私は、気を紛らわすためにとある乙女ゲームのアイコンをタップした。
ピンク色のハートと共に流れてくる軽快な音楽。そして、タイトル画面に映し出された六人のシルエット。
人気の乙女ゲーム『召喚聖女ラブラブ物語』である。
題名はかなりダサいので召喚聖女と略していることが多いが、このゲームはかなり手が込んでいるのである。
まず、声優。今をときめく若手人気声優達が声を当てている。メインシナリオはフルボイスであるため、眼福ならぬ耳福である。
次にビジュアル。兎に角絵師様が素晴らしい! 2Dで毛先までぬるぬると動くところ、そこにキャラが生きていると感じれるのだ。六人全員のかき分けも凄くて、一人一人いいところを語っていたら一日あっても足りないぐらい。乙女ゲームというだけあって、装飾や背景などにも力を入れていて美しい。
そしてなんと言ってもストーリー。ヒロインは予言者により災厄が訪れると告げられた帝国に召喚された聖女という設定で、ヒロインは、攻略対象との好感度を上げ聖女としての力を覚醒させ、好感度がマックスのキャラと最後は世界を救ってハッピーエンドという物語だ。
基本は攻略キャラの好感度をあげる乙女ゲームなのだが、ミニゲームや戦闘シーンもあり、剣技スキルとか魔法を使うことができる。と言っても攻略が主なので、レベル上げとかはないのだが。それに、最後は愛の力で災厄を浄化して世界を救うっていう王道な感じなので戦闘やミニゲームはおまけである。
「あ~リース様は今日もお美しい……!」
私は、スマホの中のリース・グリューエンに頬ずりをした。
リース・グリューエンとはこの『召喚聖女ラブラブ物語』の攻略キャラの一人で、ヒロインを召喚したラスター帝国の皇太子である。
黄金の髪にルビーの瞳、整った顔立ち、スラリとした体躯に高身長、表情筋が固まっているのではないかと言われるぐらい、滅多に笑顔を見せないキャラデある。しかし、そんなキャラが笑顔を見せたらどうだ? ギャップ萌えと言う奴だ。これで数多くの女性が落ちたに違いない。
性格は冷酷無慈悲。常に冷静沈着で、何を考えているか詠めない男。
ビジュアルでは彼に一目惚れした私だったが、いざ彼の攻略を始めて見るとこれがなかなか好感度が上がらない。それどころかすぐ下落してしまう。
それが、オタク魂に火をつけ絶対に攻略してやるぞと、私は意気込んだ。
私は、彼のルートをクリアするために毎日毎日彼の情報を集めていた。攻略サイトを確認しに行き、彼を攻略するにあたり他の攻略キャラのメインストーリーは蹴った。
そして、彼と会話をする度に彼の好感度が上がる話題、選択肢を必死に探していた。
そうして彼のことを知れば知るほど、好きになった。今では最推しである。
「そういえば、先月から悪役のストーリーも配信されたんだっけ……?」
私はふと、タイトル画面に戻り新たに追加されたストーリーを開いた。
それは、このゲームの悪役でありラスボスの偽りの聖女のストーリーである。何でもこのストーリーでは、悪女がヒロインとなり攻略キャラを攻略するという斬新な設定らしい。
そのせいか、賛否両論あった。
この悪女エトワール・ヴィアラッテアは、ヒロインが召喚される一年ほど前に聖女として召喚された女性だった。初めは聖女としてもてはやされていたが、彼女の横暴な振る舞いに周りは辟易する。そして、彼女は次第に孤立していき授かった魔法を使い帝国民を苦しめる存在へと成り果てた。
そして、ヒロインが召喚された後偽りの聖女とレッテルを貼られ恋心を抱いていた皇太子に見捨てられ闇落ちし、ヒロインと攻略キャラ達に成敗される――それが、本編でのエトワールの役割だった。
だから、私はこの一ヶ月彼女のストーリーをプレイ出来ずにいた。だって、最推しのリースに見捨てられるんでしょ? 耐えられるわけない。
「私は、本物の聖女でヒロインなんだから。リースとラブラブストーリーを送るのよ……!」
私は、気合を入れてゲームのスタートボタンを押そうとした。しかし、あやまってエトワールのストーリーを開いてしまった。
その瞬間、スマホの画面が真っ白な光に包まれた。
「ひぎゃあああ! 何、何!?」
眩しさのしさのあまり私は目を瞑った。