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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第五章 ヒロインと悪役聖女

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28 ちゃんと守ってよね




 冷凍室と思われる扉の前に、男見張りをしていたが、アルベドはそいつらに向かって風魔法を放ち、一瞬にして彼らは壁際に吹き飛ばされた。相変わらず威力がある攻撃だと、彼の魔法のレベルを見て思った。かなり手慣れていると。


 冷凍室には鍵がかかっていたようだが、それすらアルベドは蹴り飛ばして開けて閉まったのだ。見た感じかなり頑丈そうに見えたのに、先ほど倉庫の扉を壊したときのように。もしかしたら、足に魔法を付与してたのかも知れないと、私は色々考察しつつ、今になって何故自分が彼に抱きかかえられているのか疑問に思い、彼の腕の中で暴れた。




(そういえば、何で私サラッとアルベドが私を抱き上げたときそれを受け入れちゃったの!?もう、息するように受け入れちゃってたんですけど!?)




「おい、落ちるぞ」

「何で、私アンタに抱きかかえられて移動しなきゃいけないのよ」

「お前の足だと遅いと思ったからな、こっちの方が早いだろ?暴れると落とすぞ」

「そんなことしたら、もう口利いてあげないから」




と、アルベドは言うと、分かったよとでも言うように私を下ろしてくれた。落とすと脅しをかけてきたくせにやたら丁寧に下ろすなと、私はアルベドの方を見た。彼は、何故だか名残惜しそうに私の方を見つめていた。まるで、恋人と遠く離れてしまうことを知った人のように。




(って、彼奴が私に恋愛感情抱いているわけないじゃない!)




 私はそう思いつつ、久しぶりに彼の好感度を確認することにした。すると、彼の好感度は86に鳴っていた。この間は70台だったはずなのに、いつの間に上がったのだろうと。




(まあ、アルベドと関わる機会は多かったし)




 でも、だったとしてもそんなに上がるものなのだろうかと。会うたびに私をからかってくるし、意地悪してくるのに、それが愛情の裏返しとでも言うのだろうか。けれど、思い出せば彼の設定はツンデレだったと、だったとしても意地悪の度は超えすぎている気がする。そんなの彼氏にしたくないと。

 彼が私のことをどう思っていようが、私には関係無し。彼が本気で私を口説いてくること何てないだろう、彼の性格上。


 そんなことを考えつつ、アルベドが蹴った扉の中から冷気が一気にこちら側に流れ込んできた。やはり、冷凍室にも灯はついていないようだった。




(まって、この寒さ。凍死してるんじゃ!?)




 扉の前ですらこんなに冷たいのに、中はもっと冷えていることだろうと。凍死なんて最悪な想像をしてしまったが、あり得ないわけではない。もし、気を失っていてそのまま放置されていたら。

 嫌な汗が流れて、私はグッと拳を握る。手のひらには汗が滲んでぬめっとした感触が伝わってくる。




「もし、凍えて低体温症とかになってたら」

「大丈夫だろ。言ったじゃねえか、生きてあっちに運ぶだろうって。殺さねえだろう。それに、魔力があれば多少は体温を保つことが出来る。まあ、眠らないよう拷問でもされているかもな」

「冗談でもそんなこと言わないで!」




 私は、思わずアルベドに叫んでしまった。これには、彼も反省したのか、悪かったよ。と素直に謝ってくれた。でも、簡単に許せる発言ではなかった。

 だって、もしも、あの子が凍えていたらと思うと、胸が張り裂けそうになるのだ。  


 そんな風に、張詰めている私にアルベドは先ほどの発言を撤回しようとしてか声をかけてくる。




「どうしたら、機嫌直るんだよ」

「何よ。アンタが悪いんでしょ」

「だから、悪かったって思ってる。けど、お前に口利いて貰えないとか……」

「口利いて貰えないとか何よ?」

「ああ、もう……お前本当にめんどくせえな!」




 そう言って、頭をガシガシと掻いた後、アルベドは私をギュッと抱きしめた。突然のことで、思考が停止してしまう。一体どうしてこうなったのかと。

 彼は、私の耳元で囁くように言う。それは、とても甘くて、優しい声で。




「お前には嫌われたくない」




 その言葉に、私はハッとした。これはきっと、何かの罠なのだと。私が動揺するのを見て楽しむために言っているだけなんだと。だって、今まで散々意地悪してきた奴が、急にそんなこと言うなんて可笑しいと。騙されてはいけないと私はブンブンと首を横に振った。前にもグランツに同じ事を言われた気がするけど、その時とはまた違う感情が胸の奥で渦巻き始めた気がして、私は自分の頬を叩く。




(幾ら乙女ゲームでも何のアクションもなしに甘い展開になったりはしないのよ!それに、私が好かれるなんて事あり得ない!それにそれに、好かれたとしてもどう返せば良いか分からない!)




と、今は一刻を争う事態なのに、いつもの癖で余計なことばかり考えてしまう自分に呆れながら、私は彼の腕を振り払おうと抵抗するが、力が強すぎて全く振り解けない。 


 そして、暫く経ってやっと離してくれたときには、彼の顔がほんの数センチ先にあって、私は驚いて後ろに飛び退いた。心臓が止るかと思った。

 彼も彼で、こんな事態なのに何を。これで冗談だとかからかっていただけだとか言われたら本当に拳が飛び出してしまいそうだった。




「機嫌直ったか?」

「またそれ!?直ったどころか、さらに悪化したわ!」

「ほんと難しい女だな」




 アルベドはそう言いつつも、何処か嬉しそうな表情を浮かべていた。そんな彼の様子に少しドキッとする。何だか、アルベドが格好良く見えてしまうのは何故だろうかと。




(って、違う!そんなこと考えている場合じゃないんだってば!アルベドが格好いいなんてあり得ない!)




 本当にこんなことをしている場合ではないのだ。

 私は咳払いをして、真っ暗な冷凍室を見つめてアルベドに言った。




「一緒にいてくれたら機嫌直ると思う」

「は?」

「何?」

「いや、何だそれ……告白みたいで」

「はあ!?何処が告白みたいなのよ、一緒にいてくれたらっていっただ……ちちちちっち、違う、違うの、違う、違う!そういう意味じゃなくて、その、トワイライトを助け出すまで一緒にいて守ってって言う意味で。アンタと一緒にいたいとかそう言うんじゃないし!」




 私は自分で言っていて恥ずかしくなり、顔を真っ赤にして必死に弁解する。そんな私の様子を見てアルベドは腹を抱えて笑い出した。 




(確かに今は言葉足らずだった気がするし、そう捉えられても仕方ないけど、それでも、私なんてこと言っちゃったんだろう……恥ずかしすぎる)




 そんな私を置いて、アルベドは涙を浮べながら笑っているので、緊張感が全くないと、私は、そんな彼を睨みつけて、早く行こう、と怒鳴りつけた。




「分かったならちゃんと守ってよね!」

「はいはい、仰せのままに」




 こうして、私達は暗い冷凍室の中に入ることになった。

 冷凍庫の中は、やはりとても寒かった。先程よりも強い冷気が漂っていて、気を抜くと凍え死にそうなほどに。




「何でこんなに寒いのよ」




 私の服は、防寒防水防火魔法がかかっていてそれなりに寒さはしのげるはずだがそれにしても寒かった。

 それはきっと、この部屋自体が冷たいせいだろう。

 それに、さっきの冷凍室の扉を開けた瞬間のあの凍えるような空気は、普通の部屋の比ではなかった。

 私達が冷凍室に足を踏み入れた途端、まるで、侵入者を排除するかのように、辺り一面を氷の刃が襲ってきたのだ。鋭利で触れるだけで傷が出来てしまうようなもの。




(魔法!?どこから!?)




 私は間一髪の所で光の盾でそれらを防いだが、ピキッと障壁にヒビが入り、相当な魔力と殺意が籠もっていることを悟った。思いとイメージの力で強くなるのが魔法だから、相当に怒り狂った奴が犯人なのは間違いないだろう。殺意しか感じられないその攻撃に、私は背筋が凍りそうだった。そして、その攻撃を皮切りに、辺りからは次々と氷の刃が飛んでくる。それも一本ではなく大量に。




「おい、エトワール!さっきみたいに光の盾出せ!」

「無理無理、無理言わないで!」




 私は必死にアルベドの後ろを走ってついていく。もう、彼の背中が見えないくらいには距離が空いていた。それほどまでに、氷の刃が凄まじい勢いで襲いかかってくる。

 しかし、それはアルベドの張ったシールドによって全て弾かれ、私達の周りは無傷だ。だが、彼も魔力がいつ尽きるか分からない。だから、魔力の残っている私に防御を頼んだのだ。けれど、混乱してしまい上手く魔法が発動できない。イメージを固められないのだ。それに、こんな狭い空間であの魔法をずっと避けきれるわけではない。


 そんな私を見てか、アルベドは私に怒ったような叫んだ。




「あの氷に当たって死にたいのか!」

「死にたいわけないじゃない!ああ、もう分かったわよ!私がアンタを守るから、その内にアンタはあの魔法を私達にうってきてる魔道士ぶっ倒してよね!」

「ハッ!上等」





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