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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第五章 ヒロインと悪役聖女

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22 冗談言っている場合ではない




「ッ!?」




 私の足下の魔方陣めがけて直撃したナイフ達は全て綺麗に地面に刺さると、パリンッとガラスが割れるような音を立てて、魔方陣は消滅した。私は、状況が理解できずにその場に尻餅をつく。

 そんな私の方に向かってくる足音が聞え、もしかして転移魔法をかけた魔道士なのでは? と身構えてしまったが、暗闇から出てきた見慣れた長い紅蓮の髪を見て、私はハッと目を見開いた。




「アルベド!」




 暗闇から突如姿を現したアルベドは、何処か安心したような表情を私に向けて、よお、と軽く挨拶をした。先ほど、ヴィを見てアルベドと勘違いしたが、よく見てみれば髪色もアルベドの方が綺麗だし、真っ赤で、瞳も雲一つない空に浮かぶ満月のようで綺麗だった。そんな風に思わず、見とれ、本物だと感心していると、アルベドが口を開く。




「大丈夫か?エトワール」

「え、え、え……」




 先ほどヴィが私に手を差し伸べたようにアルベドが私に手を差し伸べてきたためどういう風の吹き回しかと、理解できずにいると、アルベドは面倒くさそうに私の手を引っ張って立ち上がらせると、そのまま抱き寄せた。私はアルベドの腕にしっぽり入る形になってしまい、どうしてこうなったのか、何故アルベドの腕の中に居るのか理解できずに離れようとしてしまった。




「おい、暴れるなよ」

「いや、離して」

「何で」

「じゃあ、こっちが聞くけど、何で抱きしめてんのよ」




 私がそう言ってアルベドを見れば、アルベドは何の悪気もないように、フッと笑って、さらに私の腰に腕を回して逃げられないように抱き寄せる。身長差があるため、私はアルベドを見上げる形になってしまうので首が痛いが、これでは上目遣いになってしまっているのではないかと思ってしまった。


 その予想は当たって、アルベドはニヤニヤと口角を上げる。




「王子様が助けに来てくれて嬉しいって顔してるぜ」

「誰がそんな顔!」

「じゃあ、何だ。あのまま連れ去られても良かったって言うのか?」




と、アルベドは言う。


 そうして、それまでドクンドクンと煩かった心臓は急に落ち着きを取り戻して、彼に乱されていた心も平常心に戻る。すると、一気に顔が青ざめていくのが分かった。




(そうだ、トワイライトが……)




「おい、何でまた暴れんだよ」

「離して!早く、早くあの子を助けにいかなきゃ!」

「あの子って、ああ、本物の聖女様か?」




 アルベドはそう言うと、私を抱きしめていた腕を緩めた。私はその隙に彼の腕の中から脱出してこの暗い路地から抜け出そうと思った。だが、それをアルベドに制止される。




「何処行くんだ」

「だから、あの子を、トワイライトを助けにいかないと」

「お前一人で何が出来るんだよ」

「……っ」




 そういったアルベドはいたって落ち着いていた。波風一つ立てない、とても落ち着いた顔。確かに、彼は闇魔法の者だし聖女の事なんてどうでもいいかもしれない。それに、きっと彼はトワイライトと顔を合わせていない。だから、どうでも良いんだろう。だから、そんなに落ち着いていられるんだと、私は少し腹が立ってしまった。




「せっかく、協力してやろうかと思ったのに」

「協力って……どうして」

「どーしてだろうな」




と、アルベドは悪戯っ子のように笑う。


 しかし、今の私には彼の話に付合っていられるほど余裕がなかった。自分を探しに来てくれて、グランツの事やアルバが探していること、味方でいてくれるって行った子が目の前でさらわれて普通ではいられない。私は、内心焦っていた。

 でも、アルベドの言うとおりで私一人で何かできるわけじゃない。言ったところで、私がやったんじゃないかとか、私が手を回したんじゃないかとか言われるのがオチである。


 それに、まず二人と合流しなくてはいけない。




「アンタのお遊びに付合っている暇はないの」

「ひでぇな。お前を助けてやったのは俺なのに」

「…………」




 アルベドは、悲しいと演技しながら私を見ていた。その顔には余裕があり、トワイライトを助ける手段があるようにも見えた。ここで編に刺激して、彼の機嫌を損ねでもしたらきっとトワイライトは一生戻ってこないだろう。

 私は、アルベドの機嫌を取るべく聞くことにした。




「助けたって……矢っ張り、アンタだったのね。あの声と、ナイフは」

「ほんと危なかったな。間一髪だったって所か」

「アンタほどの技術があれば、トワイライトも助けられたんじゃないの?」

「お前は、彼奴が助かったとしてよかったのか?」




と、思いも寄らぬ言葉が返ってきて私は一瞬固まってしまった。

 それは、心の底を覗かれるような感覚。




「彼奴がいたら、お前は偽物聖女って言われ続ける。彼奴がいなくなればお前は聖女として生きていけるんじゃないか?」

「何それ……」




 アルベドの言葉は、私が助かるためにトワイライトを見殺しにしろという風に聞えた。

 確かに、心の何処かでは思っていたかも知れない。偽物でも本物がいなくなれば本物になれるかも知れないと。彼女がいるから比べられて差別され続けるのだと。

 でも、それは仕方がないことだって割り切っているつもりだった。

 それに、トワイライトがいい子だったから、私はあの子にしんで欲しくないと思っている。




「俺は、お前の方が大事だからな」

「……」

「まあ、お前の様子見て、本物の聖女様が大事って事は分かってるから、助けられなかったのは、本物の聖女様に追跡魔法をかけていたからだ。見失っても追いかけられるようにな。だから、二人共は助けられなかった」




と、アルベドは言うとため息をついた。




「追跡魔法?何で?こうなることが分かっていたとか?」

「さあな。だが、本物の聖女が現われて、邪魔だって思う連中はいると思うぜ。俺らのよく知っている奴らがな」

「ヘウンデウン教……」




 私は彼らの名前がパッと浮かんだ。


 調査の時もそうだったけど、私とリースを消そうとした。混沌を信仰し、災厄を早めるために行動している彼らにとって聖女は一番危険で邪魔な存在だ。だから、消そうと思うのは当然のことなのだろう。

 そして、どこからか本物の聖女が現われたと聞きつけて、今回の犯行に至ったと。トワイライトの容姿は目立つから、すぐに見つけることが出来るだろうし。


 でも、そうすると一つ疑問が浮かぶのだ。




(どうして私まで?調査の時もそうだったけど)




 私は、本物の聖女じゃないし、髪の色も瞳の色も違う。なのに、聖女だって狙われている。他の人達は聖女だって認めないのに、ヘウンデウン教だけが私のことを聖女として危険視していた。

 悩んだが、それに対しての答えは出なかった。何故私まで狙われるのか。本物の聖女ではないというのに。




「エトワール、おい、エトワール」

「何!?」

「お前は、大丈夫か?」

「へ?何のこと?」

「だから、何処も怪我はないかって聞いてんだよ。もし、俺のナイフがかすっていたりしたら」




と、アルベドは心配そうな顔で私を見つめてきた。彼がそんなかおをするなんて思ってもいなかったので、私はあっけにとられて、口を開けることしか出来なかった。




「何だよその顔。キスでもして欲しいのか?」

「何でそうなるのよ。アンタはいつもいつも」

「今なら、舌入れやすそうだと思って」

「うわっ……うわっ、最低、滅茶苦茶なセクハラ」

「冗談だって、本気にすんなよ。顔真っ赤だぞ?」




 煩い。と彼をグーで殴ったが、胸板の厚い彼には全く聞いていないようで、顔を殴ろうにも、美形でストップがかかるしそれ以前に手が届かない。そんな私を見て、心底愉快そうにアルベドは笑いながら、私の頬を撫でた。




「ひゃうっ」

「何つー声出してんだ」

「アンタがいきなり触るから!」


 その後も私の頬を軽く抓ったり、カト思えば優しく触ったりするアルベドに私はまた顔が熱くなるのを感じた。そうして、彼の黒い手袋をはめた指が私の唇をなぞると、背筋がぞわぞわっと震えるのを感じた。

 こんなことしている暇はないのに振りほどけない自分がいる。




「……もうやめて」

「何で?」

「可笑しくなるから」




 そう返してやれば、今度はアルベドがポカンと口を開けて、驚きすぎて言葉が出ないとでも言うような顔で私を見つめてきた。そんなに可笑しいことを言った覚えはないと私は彼の手を叩いた。アルベドは叩かれた手を見た後私に視線を移した。




「まあ、からかうのもここまでにしておくか」

「矢っ張りからかっていたんじゃない!」

「怒んなよ。ちょっとした挨拶だ」

「何処が!」




 アルベドはくくくっと喉を鳴らして笑っていた。本当にからかわれていたんだと私は文句を言いたくなったが、言う気も失せてしまった。彼の言うとおりこんなことをしている暇はないのだ。ようやく熱も落ち着いてきて、私達はトワイライトを追いかけるために、アルベドがかけたという追跡魔法でトワイライトを探すことになった。




「港近くか……こりゃ、船ではこぶきだな」

「港?船?転移魔法でアジトとかじゃないの?」

「彼奴らのアジトはここから遠いからな。長い距離の転移魔法はかなりの魔力を消費する。それに、距離が長ければ長いほど正確性はおちる」




と、アルベドは付け加えて、場所を特定し始めたようだった。

 本当に便利な魔法だと思ったが、私は多分一生使うことはないだろう。何というか、ストーカーみたいで嫌だ。




「というか、アンタタイミングよすぎたんだけど。それって、また私にかけた追跡魔法で私を追っていたとかじゃないの?」

「あー今回は違うな。追跡魔法は今も継続してかけてるが、今回俺が尾行してたのはお前じゃない」

「尾行?」

「尾行っつうか、ヘウンデウン教が妙な動きをしていたからな。それを追いかけて」

「矢っ張り、尾行じゃない」




 そういうなよ。とアルベドは乱暴に私の頭を撫でた。私の頭のてっぺんのアホげが痛いぐらいに揺れる。




「やめて!」

「はいはい」




と、やめる気のない言葉を投げて、彼は何処か居場所がつかめたのか、よしと歩き出した。私は彼の後を追う。




「このまま港近くまで転移魔法を使うが、お前の魔力ちったあかせよ?」

「分かったわよ。今回は、この間と違って残ってるからね。でも、あまり吸い取らないでよね」

「手加減はする」




 そういって、アルベドはニヤリと笑った。差し出された手を私はゆっくりと取ろうとしたとき、銃声のような叫び声が聞える。その声の主は、私の名前を呼んでいた。 




「エトワール様ッ!」





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