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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第五章 ヒロインと悪役聖女

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19 訳が分からない




「もう、いい加減にしてよ!」




 私の悲痛な叫びを聞いて、それまで色々と言っていた人達の口は一瞬にして閉じた。閉じることが出来るなら初めからそうしていれば良いものの。だが、私の口は閉じることを知らず、ボロボロと言葉があふれ出した。




「何で、そんなに私は言われないといけないの!?そんなに、伝説上の聖女と容姿が違うだけでそこまで差別されなきゃいけないの!?私、悪いことした?皇太子殿下をたぶらかしたかって?そんなわけないじゃない。あの人は、私と結ばれるべき人じゃない、そんな身分の人じゃない!それに、それに……私は、好きで召喚されたわけじゃないの!」




 これまでため込んでいた物が一気にあふれ出て、止らなかった。


 好きで召喚されたわけじゃない。それも、本物のエトワールじゃないのだ中身は。ゲームで設定されたエトワールではなく、ただの二次元オタクなの。ただ、このゲームが好きなだけで、まさか、自分が悪役の偽物聖女エトワールに転生するなんて思っていなかった。そして、推しの中身が元彼だったって事も。ハードモードで待ち受けているのは死亡エンド。それを回避するために色々頑張ってきた。人と関わるのが苦手で、でも死にたくなし、関わらなきゃって頑張ってきた。ここまで、一杯一杯頑張ってきた。

 調査だった怖かった。アルベドと暗殺者に追われたことも、双子の家で魔物に襲われたことも、全部怖かった。ブライトのせいで人間不信にだってなりかけた。



 それでもここまで耐えてきた。



 私は聖女だから、聖女らしくあろうとも思った。でも、私には無理だった。だって、私は聖女じゃないから。ただのオタクだから。何を気取っても聖女にはなれない。そもそもに、私はエトワールだから。

 人々は、言い過ぎたかも知れないという表情を一瞬だけ浮べたが、それも演技なのでは? みたいな目で私を見てきて救いようがないと思った。この人達には何も伝わらないと。ここがゲームの世界だって事も、貴方たちですら作られた存在だって事も、何もかも知らない。



 ああ、そうか、この人達はゲームの設定上私を虐めるように設定してあるのかと。でも、それにしたら、リアルすぎて、あまりにも心を抉ってくると。


 何が何だか分からなかった。




「お姉様?」

「トワイライトごめん、私矢っ張り無理だよ」




 トワイライトは、今までにない深刻な顔をして私を見ていたが、はっきりと彼女の顔を見ることが出来なかった。もしかしたら、私が偽物聖女だって言われて矢っ張りねっとか、私が聖女なのよ見たいな悪女の顔をしていたらどうしようと思ったから。そうでもなくても、彼女が今、どんな顔をしていたとしてもきっと私はそういう風に見えてしまうから。


 私はふらりと一歩前に出る。すると、人々は一気に後ろに下がり、まるで呪物か汚物かとでも言うように私に近寄ろうとしなかった。本当に、呪われるとでも思っているのだろうか。呪える物なら呪ってあげたいけれど。




(ダメだな、またマイナスしこうに言ってる。このままじゃ、本当に悪役になって殺されちゃうかも知れない)




 自分で自分の感情を制御しようとしても簡単にはいかなかった。考えれば考えるほどマイナスな方に言ってしまう。




「まだ何か言いたいの?そんなに、私を偽物聖女って……追放でもしたいの?」

「エトワール様……」




 アルバは、私の方を振返って、酷い顔になっているだろう私の顔を見て心が痛いとでも言うようなかおをしている。そんなかおをさせてごめんなさいと思ったが、きっと暫くはこんな感じだろう。




「エトワール様」

「何……?グランツ」

「何処へ行くつもりですか?」




 ふらりふらりと行く当てもなく歩き出した私の腕を掴んで、グランツがいつもの無表情で私を見つめていた。空虚な翡翠の瞳には私がうつっており、その瞳に映った私は、今までで一番最悪なかおをしていた。

 そんな顔を見られているのだと思うと、一周まわって笑えてきてしまう。


 彼は何で私を止めたんだろうか。私の事なんてどうでもイイだろうに。私に何故かまうのか。




「どーして止めるの?」

「……一人で何処かに行くのは危険です」

「でも、アンタは私の護衛じゃない。アンタが守るべきはトワイライトよ。今目を離している隙に彼女が襲われたりでもしたらどうするの?」

「…………」




 そう言ってやれば、彼は何も返さなくなってしまった。でも私の腕を掴んだ手は離そうとしたなかった。




「痛いの、離して」

「嫌です」

「何で?どうして?」




 そう追求するも、彼から帰ってくるのは危険だからの一言。もっと、違う言葉で呼び止めてくれないのかなと苛立ちを感じたが、彼も私の心に何を言っても響かないのではと思っているのだろう。それに、彼の手が汗ばんでいて、グランツが焦っていることが分かった。本当に表情にでないから分からない。


 暫くの沈黙の後、グランツは、翡翠の瞳を揺らしながら口を開いた。




「俺の事、嫌い何ですか?」




と。全く予想もしなかった言葉を投げかけられて、私の頭の中は一瞬にして真っ白になった。それと同時に真っ暗にもなった。




(何を言ってるの、グランツは)




 理解が追いつかなかった。「俺の事、嫌い何ですか?」何て、こっちが聞きたい。彼は私を捨てたくせに、私の愛に私に縋るのかと。それはあまりにもおこがましくて、我儘なことではないかと。

 私が聞きたい。貴方は私のこと嫌いなのかと。


 でも、聞く勇気がないから、私は彼の腕を振り払う。




「アンタは私を捨てたじゃない!」

「それは――――」

「言い訳は聞きたくない!」




 私は、そのままその場を離れた。この場にいたら、また何か言われるかも知れないし、グランツが何を言うのか怖くていたくなかった。皆に顔を見られたくなかったからだ。こんなにもメンタルがズタボロになったのはいつぶりだろうか。 

 聖女殿に帰ってリュシオルに話を聞いて貰うのがいいだろうか。上手く話せるか分からないし、彼女の負担になるのではないか。彼女は呆れるだろうか、心配するだろうか。どちらにしても、こんな重い問題、話したところで解決する見込みはないし、そもそもにこれは私の養子が原因なのだ。もしかしたら、それまでの立ち振る舞いも原因かも知れないが、そこまで人に酷く当たった覚えはない。


 町の中を走れば皆が奇妙なものを見る目で私を見てきた。


 でも、そんな目はまだいい方で、先ほどに比べれば可愛い方だった。だって、自分でも走っていて可笑しい人なんだろうなって自覚があるから。




 走って、走って、走って――――




 そうして、私は段差でつまずいて転んでしまった。膝にズキンとした痛みが走り、転んで擦り剥いたところから血が出ているのが分かった。白いこのドレスにつくのはいけないと私は治癒魔法をかけようかと思ったが、自分にはかけられないことを思い出し、肩を落とした。




「痛っ……靴擦れ?」




 私は、珍しくパンプスを履いてきてしまったため、長時間歩いたことによって靴擦れが起きてしまっているようだった。いつもは、ブーツを履いているが、今日はトワイライトとそろえようと思って。

 そんなことを思い出していると、急に頭のなからクリアになっていくような気がして、トワイライトの笑顔が浮かんだ。あんな優しい子きっと何処を探してもいないのでは無いかとすら思った。それぐらい、彼女がここ数日の間に大切になっていた。




(トワイライトの事考えてたら、さっきの暗い気持ちが一気に晴れたみたい……)




 私は砂埃を払って立ち上がった。


 何故だか、トワイライトの事を考えると、先ほど浴びた視線も罵倒も差別の声もどうでもよくなってきた気がしたのだ。これは、ヒロイン、本物の聖女効果なのかと、彼女のことを考えるだけで浄化されるのでは? とすら思った。まあ、何はともあれ、何も考えずに全力で走って走って、疲れて擦り剥いて痛みを脳が感じたことも合わさって一旦冷静さを取り戻した。勿論、心の中にはモヤモヤが残っているし、許せる物ではない。




(……というか、グランツにはほんと強く当たってしまうんだよな)




 お互いに冷静にならなければならないと自分で思ったくせに、私の方は全くと言っていいほど冷静になれなかった。彼は大分落ち着いてきたみたいだけれど、表に感情が出にくため読みづらい。

 でも、私のことを思って引き止めてくれたのかも知れないと思うと、また彼と向き合ってみようかとすら思った。どうかはわからないけれど。




「というか、ここ何処?変なところまで来ちゃったんだけど」 




 右も左も考えずに走ってきてしまったため、私は全く知らないところまで来てしまった。城下町のマップは頭に入っていないため、目印があってもここが何処なのか分からない。




「待って、迷子じゃん……ええっと、来た道を戻れば?来た道ってどっちよ!?」




 辺りを見渡すがやはり何か目印になるような物はない。私は取り敢えず、その場を走って記憶を頼りにあの宝石店の近くまで戻ろうと思った。そうして、曲がり角をまがったとき、ドンッと誰かに正面からぶつかった。




「……ご、ごめんなさい、前見ていなくて」




 顔を上げるのが怖くてあげられずにいると、ぶつかったであろう相手が私に手を差し伸べてきた。恐る恐る顔を上げると、私の目に、紅蓮が飛び込んできた。



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