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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第五章 ヒロインと悪役聖女

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07 アルバ・シハーブという騎士




「え、エトワール様」

「もし、ここで断ったらここで、私泣くから」

「そ、そんな!」

「冗談よ」




 そう言ってやれば、顔を真っ赤にしたアルバは、冗談ですか。と俯いてしまった。やはり可愛いなと思いつつ、私は手を離して欲しそうなアルバを見て首を傾げた。




「え、えっと、エトワール様。手を、手を離してくれませんか?」

「どうして?嫌だった?」

「いや……とかではないです。ただ、その、慣れていなくて。先ほどのエトワール様の言葉が何だか告白のように聞えてしまって、それも相まって。すみません、ちょっと何言っているか自分でも分からなくて」




と、アルバは先ほどのきりりとした彼女からでは想像がつかないほど顔を赤らめて視線を泳がしていた。


 そんなアルバを見て如何したものかと、私は考えた。

 それから、アルバが落ち着くまで手を離して、場所を移動させ、木陰のベンチのあるとこまで歩いてきた。アルバは先ほど驚かせてしまったお礼にと、可愛いハンカチにくるんだクッキーと水をくれた。




「すみません、今はこんなものしか用意できなくて」

「全然、全然。アルバは落ち着いた?」

「はい……本当に情けないところを見せてしまってすみません」




 そう、アルバは言うと彼女の頭に垂れた耳が見えた。

 やはり、彼女とグランツを重ねてみてしまうと自分で思いつつ、アルバに貰ったクッキーを一口食べた。香ばしいバターと、バニラの香りが鼻腔を通り抜け、食べるたびにサクサクといい音が鳴った。




「美味しい。これ、如何したの?」

「城下町で買ったんです。1日数量限定のクッキーでいつも開店時に買いに行くんです。エトワール様のお口に合って良かったです」

「そんな貴重なものを!?アルバも、食べなよ」




と、私が差し出すと、アルバは大丈夫ですよ。と片手をあげて拒否した。頑固なところもそっくりだとアルバを見ていると、やはり彼女の頬は少し赤くなっていた。


 そんな感じで、理由を聞こうかと迷っていると彼女の方から口を開いた。




「エトワール様が自分には聖女の肩書きがあるだけの偽物聖女だというように、私もプハロス団長の娘という肩書きがあるだけで、所詮は求められていない女性騎士なんです。女性の貴族は、社交界にでるべきだ、乗馬も剣術も、身体を激しく動かすことをするべきではないという風習が根付いているので。ですが、私には可愛いドレスもダンスも刺繍も何もあわなかったんです。父の背中を見て、ああなりたいと、騎士になりたいと思うぐらいに」




 そう、アルバは悲しそうに言った。それは、自分が普通でないと自分自身を否定するかのように。それからも、アルバは貴族社会のことについて教えてくれ、女性の騎士は自分しかいないと言うことを話してくれた。

 そうして、唯一の女性騎士のアルバと、唯一の平民上がりの騎士グランツはかなりの交流があったことも明かしてくれた。どうやら、鍛錬には二人を馬鹿にした騎士達は二人を訓練場に来させようともせず、練習にもハブっていたらしい。しかし、二人はそれを上に報告することもなくひたすらに剣を振るっていたとか。グランツは男で平民で虐めは酷いものだったが、アルバはプハロス団長の娘であったためそこまで邪険に扱うことが騎士達は出来なかったらしい。


 だが、それが練習に参加するたび女性騎士は――と散々に言われたそうだ。侮辱を受けながらも、剣を交えればアルバが勝つ。そんな風だったそうだ。そうして、アルバは自分を侮辱する騎士達とはレベルが違うと言うことも分かり、そんな人達と練習するのも嫌で、先ほどみたいに一人で剣を振るっていたらしい。




「まあ、何度かグロリアスと手合わせしましたが、先ほど言ったように一度も勝ったこと無いんです。私の方が先に剣術を習っていたはずなのに、才能でしょうか」




と、アルバはクスリと笑った。その笑みには憧れと、騎士達の話をしていたときには見えなかった、仲間という風にグランツを見ているようだった。同じ境遇のものがいることが、アルバの支えだったのだ。


 でも、グランツはそんなこと一度も話してくれなかったなあと、私は少し寂しくなった。アルバはこんなにも自分の事を、辛かっただろうに話してくれるのに。話さないことが格好いいことだと思っているのだろうか。




「なので、エトワール様に選ばれたとき、自分がここにいていいんだって、これまで頑張ってきたことが認められた気がして嬉しかったんです」

「だから、さっき恥ずかしがっていたの?」




と、聞くと、アルバは違いますとすぐさま否定した。




「そ、それは……その……これまで、舐められないために心を男にして頑張ってきたので、女性耐性がないと言いますか、エトワール様が好みの女性だったというのもありますし……ああ、その男性のことは自分を馬鹿にしてくる存在なので、あまりいい風に思っていなくて、父は別ですけど」




 アルバは早口でそう言って、恥ずかしそうに顔を両手で覆った。




「……引きましたか?」

「ううん、全然。というか、そっちの方がいいなって思って」

「えぇ?」

「だって、そっちが本当のアルバでしょ?確かに、男に舐められるのって、自分が頑張ってきたもの侮辱されるのってすっごいイライラするし、それこそ殴り飛ばしたくなるけど、偽って強く見せるよりも、ありのままで強くあった方がいいんじゃないかなって私は思う。そう、思わせてくれた友達がいたから」




 私は、アルバにそう言ってリュシオルのことを思い出していた。彼女は、私がオタクということを知っても引かなかった。中学時代それが原因で虐められることがあって、趣味を共有することも前面に押し出すことも出来なくなってしまった私に、手を差し伸べてくれたのが彼女だったから。リュシオルが、蛍がいなかったら私は自分を出すことが出来なかっただろう。

 きっと、アルバにもそういう人が見つかるだろうという意味で言うと、アルバは目に涙を浮べて私の方を見ていた。きっと彼女自身、涙を堪えているつもりなのだろうが、ぽろぽろと零れだしたそれは止らなかった。




「あ、アルバ!?」

「ひぐっ……嬉しくて、エトワール様の言葉が優しすぎて……っ!そんなこと言われたのは初めてです」

「えぇ!ちょ、ちょ、アルバ泣いちゃダメだって。顔、顔が台無しになっちゃう」




 私は慌てて、立ち上がって彼女の涙をふこうとした。でも、ふくものがなくてどうしようと思ったとき、クッキーを敷くのに使っていたハンカチでアルバは涙をふきだしたのだ。その様子に私はあっけにとられていた。




(い、意外と泣き虫だったりするのかな……?)




 プハロス団長の娘だし、強い人というイメージが強かったし、これまで色々耐えてきたのは分かったけれど、自分の言葉でこれほど泣くとは想像していなかったのだ。だから、困惑しているというか驚いているというか。

 それでも、そんな私の言葉で泣いてくれる人優しい人にこれから守って貰えるのだと思うと、私も嬉しくなってしまって、ついアルバを抱きしめてしまった。




「え、えええ、エトワール様!?ど、どうなさって」

「嬉しいから抱きついただけ~だって、私の言葉が優しいっていてくれて、それで泣いてくれたんだもん。アルバがいい人で良かった。そんな人に守って貰えるなんて嬉しいなって思って」

「きょ、恐縮です。ですが、その離れてくくださっ」

「これから、もっといきなり抱きつくかも知れないんだよ?一緒にいる時間も増えるだろうし、、私寂しがり屋だし……だから、慣れて貰おうと思って」

「エトワール様ぁ……」




 アルバにそう言うと、アルバは私の背中に手を回して抱きしめてくれた。女の子同士だし別に可笑しいことも、恥ずかしがることもないのになあと思っていたけれど、男だらけの中で生きてきたアルバには耐性がないのだろうと考え、それ以上は深く考えないでおこうと思った。




 それから、アルバと彼女がくれたクッキーがまだ残っているかどうか確かめに行こうと城下町まで降りて、最後の一個だったクッキーをゲットして聖女殿に帰ることになったが、まだ少し気は進まなかった。トワイライトと顔を合わせることではなくて、グランツと顔を合わせなければならないからだ。でも、彼が謝るまで、私の心が落ち着くまで彼と関わらないようにしておこうと決めたため、私は、大きく深呼吸を下。その間もアルバは私のことを気にかけてくれているようだったけど、従者の前でかっこわるい姿は見せたくないので、私は無理にまた笑顔を作った。




「エトワール様大丈夫ですか?」

「うん、アルバがいるからね。それに、ずっと落ち込んでいるわけにも行かないじゃない」




 そういえば、そうですね。とアルバは目を伏せた。先ほどの乙女の顔ではなく騎士の男前な顔に戻っていて私は少しキュンとした。

 聖女殿に戻ると、玄関の方でソワソワしていたトワイライトが私の方を見て、パッと顔を明るくさせ駆け寄ってきた。




「お姉様!」

「トワイライトっ」




 がばっと抱きつかれてしまい、息を吸うタイミングを間違えてしまった私はげほごほとむせてしまった。トワイライトはしまったとすぐに離れて申し訳なさそうな顔で私を見ていた。その後ろで、空虚な翡翠の瞳と目が合ってしまい、私は思わず目を細めた。




(何よ、もう戻ってきた見たいな顔しちゃって……)




 ズキンと胸の痛みを抑えながら、私はトワイライトの頭を撫でていた。





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