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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第五章 ヒロインと悪役聖女

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06 新しい護衛




 プハロス団長に連れられてきたのは訓練場から少し離れた所だった。グランツのように茂みで練習でもしているのかと思ったけれど、そうではなく倉庫の裏で剣を振る人物の姿が見えた。




「アルバ!」

「はいッ」




 プハロス団長は、その人物に声をかけこちらへ来るように指示を出した。すると、プハロス団長の声に気づいた人物は剣を振るうのをやめ、こちらへ走ってき、私の前で止ると敬礼した。




「紹介しましょう。彼女が私の娘、アルバ・シハーブです」

「お初にお目にかかります。聖女、エトワール様。アルバ・シハーブです。以後、お見知りおきを」

「は、初めまして、アルバ、さん……」




 私は、アルバと名乗るプハロス団長の娘に頭を下げた。


 灰色の髪をバレッタでとめ髪をまとめていたが、それでもたたずまいや雰囲気から、女性らしさが伺えず、私は一瞬女かすら分からなかった。胸も私と同じかないぐらいかで……

 そこまで見て、私はハッと我に返った。初対面でこれは失礼すぎると自分でも思ったからだ。だが、顔を上げてアルバを見ると、彼女は少し不機嫌そうな顔をして私を見下ろしていた。エトワールは元々背が小さかったから皆大きく見えるんだけど、同じ女性だというのにアルバは結構背が高かった。まあ、プハロス団長が凄く大きいからその遺伝なのかも知れないけれど。とても、すらっとしていて美しさにかっこよさが絶妙にマッチしているようだった。




「……エトワール様」

「はい、何でしょうか!」

「……敬語はいりません。私は騎士の身分ですから。聖女様に敬語を使わせていると知られれば、よくて牢獄行きでしょう」

「ひっ、で、でも、私は本物の聖女じゃなくて」

「エトワール様」




と、そこまで言うとプハロス団長は私の言葉を遮って、首を横に振っていた。先ほど、自分がいったことでも思い出せとでも言うように、私はプハロス団長の言葉を思い出して、これ以上何かを言うのはやめた。言ったところで、聖女として召喚され、聖女という肩書きが私にはあるのだから。


 アルバは、黙ってプハロス団長と私のやりとりを見ていた。




「……それで、団長は何故ここに?」

「ああ、それが二人目の聖女が召喚されたのは知っているだろ?その聖女様、トワイライト様の護衛騎士にグランツが推薦され、彼がトワイライト様の護衛騎士を務めることになったんだ」

「グロリアスがですか?」

「そうだ。だから、エトワール様の護衛にお前を推薦しようと思ってな」




 そうプハロス団長が言うと、アルバは目を見開いて私を見た。そのターコイズブルーの瞳は、光を帯びてキラキラと光っていた。希望と期待に満ちあふれた瞳をしていた。

 しかし、あまりにも私凝視しすぎたと思ったのかアルバはふいっと顔を背けてプハロス団長の方に顔を向けた。その顔は私に向けた女性……少女のような顔ではなく、騎士らしい男前な真剣な表情をしていた。だが、何処か堅い。




(何か、アルバってグランツと似ているような気が……)




「私が、エトワール様の護衛に?」

「決まったわけではない、推薦しているだけだ。決めるのはエトワール様だ」




と、プハロス団長は私の方を見た。


 話を振られ、私は一瞬身構えたが、アルバの姿にグランツの面影を重ねてしまったことにより、私は自分でも気がつかないに内に首を縦に振ってた。




「私の新しい護衛、アルバにお願いしたいと思います」

「エトワール様」

「だそうだ。本当にいいのですか?エトワール様」

「は、はい……プハロス団長の自慢の娘さんですし、私も早く護衛が欲しいなって思っていたので……その、色々と」




 私は言葉を濁したが、全てを察してくれたプハロス団長は静かに頷いた。

 アルバは、本当ですか!? と飛び跳ねたような声を上げて私を見た。それが、留守にしていた飼い主が帰ってきたとき喜んで走り回る子犬のように見えて可愛かった。




「それでは、アルバ。頼んだぞ」

「はい、団長!」

「エトワール様。私は、今から仕事があるので、ここで抜けさせて貰います。また、何かありましたらアルバを通じて私に」

「あ、はい。ありがとうございます。丁寧に……それと、プハロス団長……」




 私達に背を向けて去って行こうとするプハロス団長を私は引き止めてしまう。


 護衛は外れたと言え、グランツはプハロス団長の騎士団から抜けたわけではないため、これから顔を合わせることもあるだろう。彼が何を思ってトワイライトの護衛騎士になったのか、これからどんな風に私を見るのか、不安で仕方がないのだ。


 けれど、それをどうこう言ったところで誰にも何もしようがない。




「何でしょうか、エトワール様」

「彼に……グランツに……これまでありがとうと伝えておいて下さい。今、彼と顔会わせたら、また酷いこと言ってしまいそうですし、仮にも私は、彼の前の主人ですから、かっこわるいところ見せたくないじゃないですか」




 いまできる笑顔を作ってプハロス団長に言うと、プハロス団長はやれやれと額に手を当てて息を吐いていた。その様子に、怒らせてしまった、呆れられてしまったかなと思いつつ、団長の返事を待っていると、団長はぽすっと私の頭を撫でた。




「彼奴が何を考え、トワイライト様の護衛騎士になったのか、私にも分かりません。私から見て彼は、エトワール様に忠誠を誓っていたはずですし、エトワール様の為に他の騎士より何倍も鍛錬に撃ち込んでいました」

「グランツが?」

「はい。それは、主を守るという意思がある騎士でなければ出来ないことでしょう。平民上がりなら尚更、気にするでしょう、聖女を守るという役目を。しかし、それだけじゃなかったはずです。グランツは、エトワール様が思っている以上に、貴方のことを思っていると思いますよ」

「……でも」




 プハロス団長の言葉を聞いて、やはり何で? という疑問視か浮かんでこなかった。それほど思っていてくれたのなら、周りから見てもそんな風に思えるぐらい私のこと思っていたのなら、何で言ってくれなかったのかと。

 元々感情が表に出ないタイプだと分かっていたし、言葉で伝えるのも下手な彼だったけど。だからこそ、今回私の護衛騎士をやめて、私への忠誠を捨ててトワイライトの騎士になるといった彼の心境が何一つ分からなかった。


 グランツとはこれまで仲良くやっていたはずなのに。

 これでは、いつの日か喧嘩したブライトと同じじゃないかと。




「グランツの中にどのような変化があったかは分かりませんが、もし、彼がまた貴方の騎士になりたいと言ったとき、エトワール様はグランツを受け入れるつもりでしょうか?」




と、プハロス団長は真剣な表情で聞いてきた。


 私はアルバの方をちらりと見てから、プハロス団長の方に視線を移し、顔を上げた。新しい護衛騎士の前ではあったが、プハロス団長の言葉を聞いて、返事はこれしかないと思ったのだ。




「受け入れます。でも、滅茶苦茶問い詰めるつもりですし、一回ぐらい殴ると思います。それぐらいの覚悟はきっと、あっちもあるでしょうから」

「そうですね。エトワール様にはそれぐらいの権利はあるでしょう」




 プハロス団長はそういって笑うと、では。と今度こそ私達に背を向けて歩いて行ってしまった。団長が見えなくなって、私はまた急に不安な気持ちに駆られた。

 プハロス団長の言葉が信用出来ないわけじゃ無いが、やはりグランツの事はよく分からないと思ったからだ。そんな風にぼんやりしていると、アルバが私の名前を呼んだ。




「エトワール様」

「あ、ああ、ごめんね。ちょっと考え事を」

「団長のいっていることは本当だと思います。グロリアスは、努力を重ねてきました。何度か、手合わせしましたが、いつも誰かを思って剣を振るっていた。それは、きっとエトワール様を思ってだと思います」




 そう、アルバは口にして目を伏せた。




「そうなんだ……」




 私は返せる言葉と言ったらこれぐらいで、それ以上何かを言う気力もなかった。確かに、グランツが戻ってきてくれるのが一番だけど、今はそっとしておいた方がいいんじゃないかと思った。互いのためにも、もう少し考える、頭を冷やす時間がいると思ったからだ。

 私はとくに、一度傷つくとずっと傷を引きずるタイプだから1日や2日でグランツの事を許せる、受け入れられる自信がなかったからだ。それに、今は新しい騎士と仲良くなることを考えなくてはならない。コミュ障を発動しなければいいのだが。




「エトワール様は、何故、私を選んで下さったのですか?」

「何でって、プハロス団長の推薦があって……それに、グランツとプハロス団長以外信頼できなくて。ほら、私って偽物聖女とか思われているじゃん。陰口も一杯言われたし、私を守る気がない人に守って欲しくないなって思って。それで、アルバを見たとき、純粋な目で私を見てくれて、この子になら守って欲しいって思ったの……で、ダメ?」

「いえ、ダメではないです。確かに、エトワール様の陰口をたたく奴らは一杯いますが、何故女の私に護衛騎士をまかせようと思ったか聞いているんです」

「え?」




 アルバは、暗い顔をして腰に下げていた剣の柄に触れた。


 そういえば、前訓練場を通ったときに、平民のグランツの陰口の他に女性騎士の陰口をたたくものもいた気がしたと思い出したのだ。もしかすると、平民以上に貴族でも女性の騎士というのは受け入れられていないのかも知れない。でも、それって差別ではないか。


 言いにくそうに、口を閉じているアルバを見ると、きっとそういうことなのだろうと私は察し、彼女の手を握った。

 アルバはバッと顔を上げて、顔を赤らめていた。そんな顔も出来るんだなと思いつつ、私は彼女に先ほどとは違って、引きつっていない笑みを向けた。




「大丈夫。アンタが、女だろうが男だろうが関係無い。私が信頼できるって思った相手なんだもん。胸はって!それに、アンタのお父さんは凄いんだから、アンタも努力いっぱいしてるんでしょ?なら、大丈夫。私は、アンタに護衛騎士をまかせたいの」





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