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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第四章 縮まる距離

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35 どういう関係?




「ごめん、聞き取れなかった。もう一回言って」

「いえ、何でもないです。忘れて下さい」

「いや、絶対今、護衛騎士は恋愛対象に入りません買って聞いたでしょ!」




 私がそう追求すると、グランツはふいっと顔を背けてしまった。


 どさくさに紛れて何を言っているんだと私は思いつつ、グランツは私の事好きなのだろうかとふと疑問に思ってしまった。いや、好きでいてくれるのは嬉しいし、別に迷惑ではないが、それは主人としてなのか、一女性として好きなのか。




(いや、でも恋愛対象って言ったからそういう……)




 訳が分からなくなりそうだった。ぐわんぐわんと疲れも重なって回り出した頭を何とか抑えながら、私はもう一度グランツを見た。グランツはかわらずの無表情だったが、何故だがぺたんと耳が倒れているようにも思え、私は自然と彼の頭を撫でていた。




「ごめん、大きな声出して吃驚した?」

「……そういうわけではありません」




 いや、まあそうか。と自分でも言い終わった後思った。


 やはり、グランツの事を子犬か何かと私は勘違いしているのではないだろうかと。だが、グランツも嫌がっている様子ではなかったし、頭を撫でてやると、耳がピンと立ち上がるようにも見えて、私は内心ほっとしていた。

 グランツは一度へそ曲げると機嫌を直すまでに時間がかかるから。頑固だしね……と私はちらりとグランツを見た。彼は、依然と無表情でいたが、ふと顔をこちらに戻し私の方を見つめた。何か言いたいことでもあったのだろうかと思っていると、こちらに向かってくる黄金と紅蓮が目の端に映った。




「エトワール」

「おい、エトワールッ」




 先ほどまで討論していた二人が、いつの間にかこちらに向かって歩いてき、僅か数秒の間に私の目の前までやってきた。グランツは私の隣に立ちながら何も出来ないと行った感じで突っ立っており、私は二人の方へ視線を戻した。

 攻略キャラ三人に囲まれているこの状況をどうすれば良いだろうか。以前も同じような状況に陥ったことがあったが双子は一人として数えた方が早いのであれはノーカンだろう。




「何よ……二人揃って」

「此奴とはどういう関係なんだ」

「此奴とはどういう関係だ」




と、少しのずれもなく二人はまるで練習したように息ぴったりでそう言った。互いに互いの指を指しながら、私に早く答えろとせがんでくる。


 頭が痛い。


 腐っても、皇太子と公子でしょと思いつつ、私はどう答えるべきか困った。多分、黙っていれば二人の言い合いになるだろうし、二人とも余計なことを言いそうだなと容易に予想が出来たためだ。




(グランツもいるし、色々言われて好感度下がるのも嫌だしな……)




 好感度と自分で思えば、最近、攻略キャラの好感度に関して気にしていなかったなあなどと思い出した。リースは99から変わっていないみたいだったし、アルベドとグランツも現状維持といった感じだった。やはり、ここまで来ると上がりにくくなるのだろうか。それとも、リースルートに入っているから他の攻略キャラが上がりにくくなったのだろうか。

 まあ、どちらにしてもまだ誰を選ぶと決めたわけではないためゆるく行けば良いかと。




(いや、良くないのよ!本物の聖女来たら攻略キャラ根こそぎ持っていかれるじゃない!)




 リースの誕生日も近くて、そこで本物の聖女が現われる予定だから、それまでに誰か決めなければならない。

 そんな風に一人あたふたしていると、しびれを切らしたのかリースとアルベドは私の方を睨み付けてきた。




「ひぃ……っ」




 私は思わず、グランツの後ろに隠れてしまい、グランツも吃驚したのか、私の方を二度見した。しかし、無表情ながら頭を下げて皇太子と公子に口を開いた。




「あまり、エトワール様を困らせない方が良いかと……」

「困らせているわけでは……ああ、そうだな。エトワールも疲れているだろうし、悪かったな」

「あ、いや、別に……その」




 グランツの後ろからひょいと身体を乗り出して、私はリースの言葉にぺこぺこと2回ほど頭を下げた。そんな私の様子を見てリースはフッと笑うとマントを翻し戻って行ってしまった。

 意外とあっさり身を引いてくれたことがひっかかって私は、何かあったのだろうかと心配になったが、目で追おうとしたときには既に彼の姿は見えなくなっていた。




「それで、貴方は帰らないんですか?」

「帰って欲しそうな顔してんじゃねえよ。イイだろ、別に」




と、次はグランtヌとアルベドの間で火花が散っていた。


 私はグランツから少しはなれて飛び火に当たらないようにしようと思ったが、アルベドに「おい」と呼び止められて足を止めた。

 グランツの言うとおり、帰らなくていいのかと思ったし、寧ろこっちから帰って下さいと言いたいほどだった。アルベドは口が軽いわけではないが、余計なことを言うので、場の空気を悪くするに違いない。




「何よ……」

「ん?いや、別につれねえなあと思って」

「いいわよ、つれないやつで」




 私がそう返してやれば、愉快そうにアルベドは口角を上げて、ニッと満月の瞳を細めた。絶対に良からぬことを考えている目だと思いつつ、彼の口を塞ぐために、私は頭を下げた。いきなりのことで、グランツもアルベドも動揺しているようだったが私は気にしない。




「そういえば、お礼言ってなかったと思って。ありがと、その助けに来てくれたんだもんね」

「……そうだな。なら、お礼はキスってのでどうだ?」

「は!?また、その話、いい加減に――――」




 そう私が反論しようとしたとき、パシッとアルベドの手をグランツが叩いた。

 目の前で弾かれた手を見て、私はアルベドの手を追った。




(ひやあああ!何てことしてくれてんの、グランツ!)




 アルベドが自分の手を握った所で我に返った私は、グランツの方を見た。グランツの顔はたらりと垂れた襟足と、少し長めの前髪で完全に見えず、どんな表情をしているのか分からなかったが、また怒っているに違いないと私は思い彼の肩に手を置いてこちらを向かせようと私は必死になった。今すぐにでも謝らせないと、と私はグランツを説得しようと口を開いたが、それよりも先にアルベドに言葉を遮られてしまった。




「そんなにエトワールを取られるのが嫌かよ」

「…………」




 私はアルベドの顔を見てゾッとした。背筋が凍って、心臓がグッと捕まれるような酷い痛みが駆け抜けた。

 アルベドがとても怖い表情をしていたから。


 それは、貴族として平民上がりの騎士に叩かれたという屈辱からか、それとも他の要因からかは分からないが見るに恐ろしい表情を浮べていたために私は言葉を失った。

 私は言葉を失ったというのに、グランツは絶えず無言でアルベドを見ているようだった。相変わらず肝が据わっているというか何というか、こっちもこっちで恐ろしいと思っているところで、ルーメンさんの声が響いた。




「皆さん、村に戻りましょう」




と、騎士達を収集し私の方へ駆けてくるルーメンさん。

 アルベドはグランツの胸をドンと押して後ろで手を組んだ。




「そうだな、夜が来る前に戻った方が良い。ここらの魔物は強いからな。だがまあ、村に戻ったところで居場所があるかどうか」

「どういう意味よ」

「まあ、帰れば分かる」




 そうアルベドは言って、何処か遠くを見ていた。


 何かあると感じつつtも、アルベドに押されて少しよろけたグランツの方に視線を向ければ、彼はこれでもかと言うぐらいにアルベドを睨み付けており、怒りが隠し切れていない様子だった。ここは刺激しない方が良いなと、私はルーメンさんに分かりましたとだけ伝え、歩き出した。




「ちょっと、何でついてくんのよ」

「俺の勝手だろ。俺もあの村に用があるんだよ」

「……そう。でも変なことしないでね」

「変な事って例えば何だよ」

「変なことは変なこと!兎に角、ついてくるなら大人しくしててよね。私はいいけど、闇魔法の者ってだけで差別する人はいるわけだし……アンタの立場が悪くならないようにって」

「優しいな、エトワールは」




 そう、アルベドは何処か落胆したような表情を浮べて言った。そこに嬉しいという感情は感じられたが、私は見ないフリをした。

 それから暫く、リースを戦闘に重い足取りで村に戻った私達は、出迎えてくれた村長さんに軽く会釈をした。




「そ、それでどうでしたか。魔物の様子は」




と、帰ってきて早々に私達の心配よりも先に魔物のことを聞いてきた村長さんに騎士達は少しばかりの苛立ちを覚えながら、ルーメンさんがさりげなくコレまでに起こった出来事を説明した。それを相づちをうちながら聞く村長さんの顔は何故か苦虫を噛み潰したような表情をしており、舌打ちが聞えてきそうなほどだった。




(あれ、何か可笑しい?)




 私は、町の異常な静けさや、村長さんの態度を見て違和感を覚え眉間に皺を寄せる。

 何かが可笑しいと。だが、周りはそれに気づいていないのか、疲れ切った顔で早く宿屋に行きたいなど聞えてくるようだった。




「ありがとうございました。それで、こちらに」




と、村長さんは愛想笑いを浮べて、ささっと案内しようとしたが、私の横を紅蓮が横切ったかと思うと、次の瞬間村長さんの表情が固まった。




「えッ!?」




 私も騎士達も皆口をそろえ、そして視線は一点に集中していた。




「き、貴様……ッ!」




 村長さんの表情が苦しげなものに変わっていき、口調も雰囲気も一変した。だが、それよりも私達はあり得ない光景を目の当たりにしていた。




「ひっ……」




 村長さんの胸をひと突き、アルベドが刺していたからだ。





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