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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第四章 縮まる距離

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17 今は私が主人公




『俺は貴方だけの騎士ですが、貴方は皆の聖女ですから』




(皆の聖女……か……)




「聖女様どうなさいました?」




 いきなりひょこっと自分の目の前に現われたルーメンさんに驚きながら、私は平然を装って笑顔を取り繕う。

 グランツとの交流から二日後、既に魔物がでたと言われる村の近くまで来ていた。ここが、最後の休憩ポイントになるだろう。

 私は、豪華な馬車に乗せて貰い移動しているがリースは白馬にまたがって、先頭を走っていた。出発当時に「一緒に乗れたら良いのだが……」なんて悔しそうにいっていたが、私が馬になれていないと思われたのか、体力を温存して欲しいと思われたのかで、私だけ馬車で移動することになった。

 転移魔法が簡単に使えれば、もっと早く移動が出来るだろうにと私は思いつつ、あの高度な魔法をこの人数にかけようと思うと一体幾らの魔力が必要になるんだと心の中で苦笑いした。




「おわああ!ルーメンさんごめんなさい、ちょっと考え事を!」

「そうですか。また、馬車酔いかと思って。ここ、道が悪いですからね」

「まあ、そうですね。でも、本当に大丈夫なんで!」




 私が慌てて弁解すると、ルーメンさんはいつもの柔和な笑みを浮かべて私の前を通り過ぎていった。


 そういえば、ルーメンさんも一緒に来ることになったんだと改めて思った。まあ、リースの補佐官だし、あり得ない話ではないのだけれど。本人曰く、一般魔法は使えるし剣術も騎士並には得意だとも豪語していた。



 一般魔法とはなんぞや?と思ったが、聞くところに寄ると五つの魔法、つまり火、水、木、風、土が使えることなのだという。因みにルーメンさんは土の魔法が得意なのだとか。意外だったし、土の魔法って使えるのかと失礼なことを聞いてしまったのに対し、土は地盤を安定させたり、植物を育てたり、鉱物を掘り出したりと様々な用途があるんですよと教えてくれた。確かに、作物を育てるにも土壌が悪ければ育ちにくいもんなあと納得しつつ、上級者ともなれば岩を自由自在に作り出し扱うことも出来るのだとか。私が思っていた以上に、様々なことが出来るのだと感心した。




(どんな魔法でも極めれば、その人の武器になるってことね)




 以前神官や、ブライトに言われたことを思い出し、魔道士達が一つの魔法に絞って練習する理由が分かったような気がした。


 なら、私はどの魔法を極めればいいのだろうか。イメージしやすいものが良いと思いつつ、そういえば光魔法は聖女である自分の専売特許だと、神官に聞いたことがあった。

 確かに、光魔法というのは闇魔法と対になる魔法の種類分類分けのような大きなカテゴリーだ。だから、光魔法を極めるとひとくくりにいっても、ざっくりし過ぎていて現実味がないように思える。


 しかし、聖女の光魔法というのはまた別物だ。聖女だけが使うことのできる光魔法だってある。一番は治癒魔法だろうか。怪我を治す、病気を癒やす、体力を回復させる、そして状態異常を解除することができるらしい。まあ、戦闘むきではないし、いえば今までに使ったものは浄化や人体にはそこまでダメージを与えられないものばかり。だが、そのおかげで魔物への特攻効果があるのかもしれないと思うと、聖女としての自分の存在を肯定されているようで嬉しかった。




(まあ、聖女だし殺傷能力高い魔法を使うっていうのもあれだもんね……)




 聖女のイメージが崩れる!と心の中で叫びつつ、私は近づいてくる足音にふと顔を上げた。目の前で弾けるようにちかちかっと光る眩い金髪。




「エトワール」

「……リース、さま」




 目の前で星のように瞬く金髪を見て、私は息をのんだ。

 いつ見ても、私の推しは格好いい。




「何だ、その他人行儀みたいなのは。いつものように、リースで良いじゃないか」

「……あ」




 そうリースが口を開き、少し不満と言ったような表情で私を見たので私はすぐに現実に戻された。そうだった、彼は私の推しのリースではなく、中身が元彼なのだ。


 騙されてはいけない。

 そうだった、そうだったと私は首を横に振って、目の前に現われたリースにどうしたのかと尋ねた。




(何か、ずっと見られていた気がするから、きっとルーメンさんがいなくなるのを見計らってきたのね)




 いや、ルーメンさんは察しがいい人だから、リースがこちらを見ていることに気がついてわざとはなれていったのかも知れない。だって、何だかまだ話したりないみたいな顔してたから。




「それで、な、何か用ですか……?」

「だから、何でそんな……はあ、用という用はない。ただ、お前の顔を見に来ただけだ」

「そ、それはどうも」




 そう言って、私はぺこりと頭を下げた。すると、彼は何故か頭を掻きながら、苛立ちか、不安かを隠せないような表情で私を見てきた。ルビーの瞳は影が出来ているように思え、私は眉を寄せる。推しにそんなかおをさせているのは自分かと。いや、中身は元彼の遥輝だけど、それでも良い気分にはならなかった。


 そんなかおをしつつもリースはそのまま私の隣へと腰を下ろしてじっと此方を見つめてきた。

 まるで、私がどんな反応をするのか観察しているかのように、こちらの出を伺っている。




「服、汚れるんじゃない?」

「それは、こっちの台詞だ。馬車にでも酔ったか?でなければ、戻った方が良い」

「何で?まあ、酔ったわけじゃないけど、外の空気吸った方が良いかなって……って、ごめん、何でこんな話になったんだっけ?」




 リースの視線に居心地の悪さを感じながらも、私は彼にそう尋ねれば、彼はこんな話がしたかったわけではないんだとため息をついてから私に向き合った。




「彼奴から聞いただろ?俺の誕生日、ダンスを一緒に踊ってくれないかって」

「ルーメンさんの事?うん、まあ聞いたけど」

「それで、お前の返事を聞きに来たんだ。自分から頼みに行くのが筋って言うものなのだろうが、生憎時間が無かった……自分の言葉で伝えるべきだった」




と、彼は真剣な眼差しで私を見据えた。その様子に私は、思わずごくりと唾を飲み込む。


 自分から言いに来てと思ったが、言いに来られたところで私はどう返せばいいか分からなかっただろうし、答えを出すことも出来なかっただろう。




「お前が、ダンスを踊れないのも人前に出るのが苦手で、注目されるのも嫌いなのは分かっているんだ。いるが……」




 俺への誕生日プレゼントだと思ってくれればいい。そうリースは言って、私の手を握った。

 彼の手が少し冷たく感じたのは気のせいでは無いはずだ。リースは、私の手を両手で包み込みながらじっと見つめてくる。


 私はそれに、何も言えずにいた。


 だって、私は一度も彼に誕生日プレゼントを贈ったことがなかったから。だから、この言葉はコレまでの私への当てつけ……いいや、それは言い方が悪いか、彼が自分の欲求を口にしてくること何てなかったから戸惑っているのだ。私は。




「勿論、俺がリードするし、誕生日が終わった後でもいい、二人きりになれるようルーメンにでも計らって貰う。それでも、嫌なら断って欲しい」

「いや、そこまで私は、言ってない……」




 私はそう呟きつつも、何でこんなにもリースは必死なのかと首を傾げた。

 別に、彼と一緒に踊るのは構わない。寧ろ、推しとダンスなんて、そんなの夢のようだ。




「嫌じゃない……ということか?」

「うう、うん……まあ……でも、ほんと私下手で……あ」




 この流れのまま私はリースにOKを出してしまうところだったが、そこでふと思い出してしまった。




(でも、リースの誕生日の舞踏会で彼と踊るのはヒロインじゃ……)




 そうだ。この調査が終われば何かしらのタイミングでヒロインが召喚されて、彼女のストーリーが始まり、私は悪役に――




 ヒロインの登場イコール、エトワールは悪役へと転落。その事をすっかり忘れていたのだ。


 私は、リースの誘いにうんと頷くことが出来なかった。彼の誕生日プレゼントが欲しいっていう願いを叶えてあげたいとも思った。だって、私は彼に何も出来ていなかったから。付合っていたころは、貰ってばかりだったから。だから、今度チャンスがあれば、せめて誕生日ぐらいは……と思っていたのに。




「エトワール?」

「ね、ねえ、リース。リースは、私以外に素敵な女性が現われたら、その人と踊るでしょ?例えば、本物の聖女……とか」




 私が、そうおずおずしながら聞けばリースは首を傾げ、変なことを言うんだなあといった表情で私を見つめてきた。




「エトワールより、いい女がいると思うのか?」

「いるでしょ、一杯!というか、アンタなんて世の女性選び放題じゃん。私なんかより、ずっと可愛い子沢山いたし。私みたいな平凡で可愛気のない奴よりさ!」 




 自分で言ってて悲しくなってきたが、実際そうなのである。いや、エトワールの顔は滅茶苦茶可愛いと思うよ、でも悪役顔ってかんじだし、ヒロインの方が可愛いし!

 そんなことを並べながら私が話していると、出発の合図がかかりリースは名残惜しそうに席を立つ。




「まだ、時間はあるんだ。考えておいてくれ」

「いや、でもほんと、私……」




 そう言いかけたときには、もう既にリースの姿はなく、私も慌てて立ち上がった。




(ヒロインが現われたら、ほんとどうするんだろう……)




 私の心と同じぐらい空はだんだんと曇ってき、一気に真っ暗になってしまった。もしかしたら、この後雨が降るかも知れないと思いつつ、私はこの後行われる魔物の調査のことを思い出して、気を引き締めなければと両頬を叩いた。




「大丈夫。今は私が主人公」





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