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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第四章 縮まる距離

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09 星流祭のジンクス




 赤、蒼、黄と、次々に黒い星空を彩っていく花火に、私は目を離せずにいた。




「おお、始まったな」




 隣でそう呟くアルベドの声を聞いて、私はハッとして彼に視線を向ける。


 すると、彼は私の方を見て微笑んでいた。その笑顔を見た瞬間、何故か頬が赤くなるのを感じた。

 彼の黄金色の瞳は、まるで夜空に輝く月のように美しく、そして優しく私を見つめていたからだ。


 こんな表情、見たことがない。


 いつも意地悪そうな笑みを浮かべている彼が見せたその優しい眼差しに、私の心臓はドキドキと早鐘を打っている。


 私は慌てて、顔を逸らしまた花火へと目を戻した。

 ああ、綺麗だな……何て、平凡な感想しか出てこないけど、湖にもペンキをぶちまけたような花火が映った。




「凄く、綺麗」

「平凡な感想だな」




 ずばりと、そう言われてしまい私はムッとする。そんな私の様子に、彼は小さく笑う。


 それぐらいしか感想が出てこなかったから仕方ないじゃんと思いつつ、私の語彙力ではきっとこの花火の美しさを言い表すことは出来ないだろうと思った。

 花火を見るのはどうだっただろう……記憶に薄いが久しぶりな気がする。もしかしたら、それはテレビで見たものかも知れないし、家からちらりと見えたものかも知れない。でも、どちらにしても久しぶりだった。

 懐かしい気持ちになった。

 色鮮やかに、夜空を染め上げていく花火を見て私は息をのむ。




「な?良い場所だろ」

「え、あ……うん。でも、木々に囲まれているちょっとくらい場所だなっては思うけど」

「それが良いんじゃねえか」




と、アルベドはフッと口の端を持ち上げて笑う。


 その笑顔が悪人のようで私は、思わず眉を寄せる。そんな私の様子を気にすることなく彼は、私から視線を外すことなく見つめてくる。


 彼の黄金の瞳に自分が映っているのが分かるほど、近い距離で。

 思えば、薄暗い森で男女二人、そのかた方は暗殺者で危険な状況なんだなあとぼんやり考えていた。まあ、アルベドだから手を出してくる心配はないだろうと心の片隅で思っているのもまた事実であったが、何故彼がここを選んだのか少し引っかかったのだ。


 グランツは、夜景を見せるために小高い丘まで私を連れてきてくれたことがあった。そこから、町が一望でき、人も少なくあそこも良い場所だと思った。私はてっきり、アルベドはそういう場所に連れて行くものだと思っていたから、正直拍子抜けしたところはある。



 アルベドがそんなロマンチストだとは思わないけど。


 それでも、グランツが連れて行ってくれた場所から夜景と花火を見たらまた違った美しさを、花火の打ち上がったところもきっと見つけることも出来ただろう。

 だが、今私達がいるのは静かな大きな湖があるだけの森の中で。




「なんでここなのかなって……確かに、花火は見えるけどちょっと見切れてたりもしたし……」

「お前連れてきて貰って、文句言うなよ」

「連れてきてとは言ってないけど!」




 私がそう言えば、彼は呆れたようにため息をつく。


 彼が良い場所で見えた方がいいだろって言ったからついてきただけなのだ。だから、私の意思でここを選んだわけじゃない。こんな所に連れてこられるなんて本当に驚き以外の何ものでも無かった。

 そんなことを考えている間にも、ヒュードンッ!と花火は打ち上がり、ぱらぱらと光の粒子となって消えていく。




「お前、人混みとか嫌いだろ?」

「だからって、こんな森の中……」

「一石二鳥じゃねえか。空に浮かぶ花火と、湖に浮かぶ花火」




 そう言って、視線を湖に落とすアルベド。


 言われてみれば、花火を二倍見えることにはなるが……そこまで思って私は、湖に映る花火を見た。

 同じ色のはずなのに、同じものをうつしているはずなのに、何処か違うような気がして、私は不思議な感覚を覚えた。言うなれば、鏡を見ているような感覚。

 確かに映っているのは自分だけど、それは左右反転していて本当の自分の姿を映してはいない。写真だけが、自分を左右対称にせずに映せる媒体であり、写真を通してだけ私達は自分の姿を認識できるのだと。


 何となくだけど、そう感じた。




「確かに……そう、かも知れない」

「良い場所だろ、静かで。ここ見つけたのは、数年前だ」

「数年前に?」

「ああ、それまで星流祭に行かなかったからな。まあ、理由は前話したとおりで。そんで、俺は家の屋根に登ってかすかに見える花火を見てた。ほら、だって町までいったらまた何か言われるだろ?でも、花火だけは見たかったからな。いけなくても、雰囲気だけでもって」




 そう、アルベドは言って目を伏せた。


 まつげが影を落とし、アルベドの妖美的、神秘的美しさが際立つ。


 そういえば、前にアルベドはそんなことを言っていたなあと私は思いだした。闇魔法の家門に生れたが為に、光魔法の者達を祝福するための星流祭に行った時、酷い差別を受けたと言うこと。それでも、アルベドは、綺麗なものが好きだから……花火だけでも見たいという思いで屋根に……




(って、矢っ張り思うけどアルベドって貴族っぽくないよね!?)




 私はじぃんと温かくなっていた心が一気に冷めて、心の中でそう突っ込んだ。

 花火が見たいからと言って、家の屋根に登るなど普通では考えられないからだ。幾ら、アルベドが身体能力高かったとしても、この間訪れたレイ公爵家の家は見た感じ三……四階建てだったはず、落ちたら如何するつもりなのだろうかと。

 考えただけでひやっとし、私は身を震わせた。




「如何したんだよ?寒いのか?」

「アンタの行動にちょっと寒気が……」

「は?何だそれ」




 私がそう言えば、眉間にシワを寄せて首を傾げる。


 アルベドの事だから、本当に屋根を登ったんだろうな……と私は肩をすぼめた。その行動にピクリとアルベドの眉は動いたが、彼は何も言ってこなかった。

 私達の間に流れる沈黙の合間合間に、花火の音だけが響く。




「そういや、星流祭のジンクスのこと忘れてたな」

「星流祭のジンクス……って、ああ!」




 私は、アルベドにそう言われ思わず悲鳴のような声を上げる。

 アルベドは、くふっと笑い口元を手で覆い、こみ上げてくる笑いに耐えているようだった。




(そうだった、思い出した!)




 花火を見ることや、アルベドとの会話ですっかり忘れていたけれど、コレはイベントだった。勿論、二つの意味で。

 此の世界の伝統的な祭り、イベントであり、エトワールストーリーの最大のイベントと言うことを。

 そうして、私がそのイベントのパートナー、相手に選んでしまったのがアルベドだったと言うこと。


 アルベドはニヤニヤとしながら私を見ていた。




「俺たち一生はなれられない恋人同士になるのか~」

「馬鹿馬鹿!なんでそうなるのよ!」

「そういう風に、言われてきたからだろ。星流祭最終日の花火を二人で見た男女は結ばれるって、幸せになるとかなんとかって」




 庶民の間で言われてきたことだから、俺はそこまで詳しくねえけど。と付け足しアルベドは腕を後ろで組んでいた。

 私は、また顔に熱が集まってくるのを痛いぐらいに感じていた。火傷するかと思うぐらいに暑くなった頬を冷やすために私は湖の水をすくって顔にかける。




「おい、何やってんだ!」

「ああ、あーあー、あついなー、ちょうどここに冷たい水が!」




 何て、もう同様バレバレの棒読みで私は顔に水をかける。 

 せっかく施して貰ったナチュラルメイクはその衝撃で流れ落ちたような気がした。でも、それは今関係無い。




「お前、ほんと聖女である以前に女か?」

「失礼ね!確かに、自分でも女の子っぽくないって思ってるけど、言われるのは腹立つのよ!」




 そう言いながら、私は顔を洗うように湖の水を思いっきり掬い上げる。そして、それをそのまま顔面にかけた。

 すると、先程まで冷たかったはずの水が今は生ぬるく感じてしまう。私の様子を見てか、呆れた様子でため息をつき、私の手を掴んだ。




「ちょちょ、離して!」

「離さねえよ。ったく、お前は本当に何しでかすか分からねえから、見てるこっちは心配で」

「心配してくれ何て言ってないじゃない!」




 そう返してやれば、アルベドは目を丸くして、そうかもなと吐き捨てる。




「まあ、でも、幾ら暑いとは言え、女性がいきなり水を顔面にかけ出したら驚くだろ」

「た、確かに、だけど、それは……」




 そこまで言いかけて、グッと言葉を呑み込んだ。

 やっぱり、彼を前にすると言葉が感情に流されて自分の口からでる言葉が幼稚になってしまう。いや、それが本音なんだろう。

 遥輝相手だとそうじゃないんだけど、アルベドと喋るときは何というか遠慮がいらないのか私も喋りやすい。


 そんな風に、見つめ合っていると最後と思われる大きな花火が夜空に打ち上がった。

 それは、大きな白い花火だった。




【アルベドと星流祭をまわろう!クリア!達成報酬アルベドの好感度+15%】




と、花火が上がったと同時に出現したウィンドウにはそうデカデカと書かれており、ピコンという機械音と共に、アルベドの好感度が15上昇した。




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