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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第四章 縮まる距離

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07 月って言ったら兎




「わあ、綺麗な場所」




 アルベドに連れてこられた場所は、大きな湖のほとりだった。


 周りには誰もいない。絶景スポットなのか、たまたま人が来なかったのか分からないが、とても静かで落ち着いた空間が広がっていた。湖の水面に映り込む月が眩しくて目を細める。 



 勿論、こんな場所が近場にあるとは思わなかったし、美しい以外の感想が出なくて申し訳ないが、少しアルベドの魔法で空を飛んだ後にここまで連れてこられたため、近い……と言えば近いのかも知れないが、徒歩できたらもう少し時間がかかっただろうと思う。


 うっそうと木が生い茂っている中ポツンとある綺麗な円状の湖。風も吹いていないためか、本当に鏡のように丸い月をそのまま移し込んでいる。




「な?良い場所だろ?」




 湖の美しさに気を取られていると、ふとアルベドが口を開いた。

 彼の整った顔も、月明かりに照らされるとよりいっそ映え、その美しい紅蓮の髪は風が吹いていないのになびいていた。そういえば、此奴風魔法の使い手だったなんて、またもセルフツッコミを入れながら、私はコクリと頷いた。




「驚いた。アルベドも綺麗な場所知ってるんだって」

「はあ!?お前、俺の事なんだと思って……」




 私の素直な言葉に、アルベドは眉間にシワを寄せて、不機嫌そうな声を出す。

 しかし、直ぐに諦めたようにため息をつくと、私から視線を逸らす。

 その仕草は、どこか寂しげで、いつもの彼らしくない。いや、この美しさと凪いでいる湖を見たら、彼の怒りの沸点の低さも少しは緩和されているのだろう。


 それぐらい、この場所は落ち着くのだ。


 私は湖の縁にしゃがみ込んで湖の水を手ですくい上げた。ぽちゃりと、液体特有の音を鳴らして水は零れ落ちる。

 そして、水面を覗けばそこには見慣れた自分の顔。いや、正確にはエトワールの顔なのだが。ただ、そこに写るのは少し大人っぽく見える自分。

 こぼれ落ちた水が勿体なくて、私はふと月を目に入れ想像した。




「何作ってんだ」

「え、あ……だって、何か綺麗だから」

「何だよ、それ。兎か?」

「うん。月って言ったら兎じゃない?」




 もう一度救い上げた自ら、私は兎を作った。といっても、意思があるわけでも喋るわけでもない、水が兎の形を取っただけのものだった。最近、魔法が上手く使えないと嘆いていたけど、何だか今日は上手くいった。何が私の中で引っかかっていたのかはよく分からないが、ちょっと魔力を込めるだけで、こんなにも可愛い水の兎が作れるんだ。私の創造力が落ちたわけでも何でもなかったわけだ。


 私は、その兎と少しの間戯れてから、それを湖の中に放すと、月明かりに照らされキラキラと光りながら沈んでいく。

 まるで、宝石が月へ昇っていくようだった。

 その光景が美しくて、思わず笑みが溢れる。


 そんな私を見てか、隣にいるアルベドがボソリと呟く。




「……俺は、お前の方が綺麗だと思う」




 それは、きっと彼が普段なら言わないような台詞。

 けれど、何故か今の彼にはしっくりくるような気がして、私は苦笑する。




「何よ、いきなり。凄く寒い」

「……ったく、俺が素直に言ってやってんのに」

「素直って、別にいってなんていってないじゃない」




 私の返しに不満があったのか、アルベドは不機嫌そうに舌打ちをした。


 そして、私と同じように湖の淵に腰掛けると、足を組んで頬杖をつく。

 その仕草は様になっていて、流石イケメンは何をしても絵になるなぁ、なんて思った。

 いや、もう、さっきから、というか今日ずっとアルベドの事イケメンだなあとか様になるなあとか絵になるなあとか言っている気がする。


 ふと、好感度を見れば55になっているし、まあ彼もそれなりに私に気があるのだろう。恋愛感情じゃなくとも、興味ぐらいは。




「女性って綺麗とか言われるの嬉しいんじゃねえのかよ」

「それ、言ったらい意味ないと思うけど?」




 完全なる失言だ。



 確かに女の子は綺麗と言われれば嬉しく思うかもしれないが、私は聞き慣れていない言葉だったし、綺麗とか言われるよりも私の話……オタクの話を理解してくれる方が嬉しい。

 綺麗とか言われても、これはエトワールの身体だからであって、現実の私はメイクもろくに出来ない万年ジャージか、広告に載っているコーデをそろえただけで自らオシャレをしようと思わないがさつな人間なのだ。


 そういう女の子がいてもイイと私は思っているし、オシャレに使うお金と時間があるなら、推しとソシャゲに全てつぎ込んでいるだろう。

 だから、綺麗とか言われても嬉しくない……そこまでいうと、嘘になるかも知れないが。




「まあ、ありがとう」




 一応お礼を言うと、アルベドは満足したように笑う。

 そして、彼は立ち上がり、湖に向かって手を伸ばすと何かを呟いた。すると、先程私が生み出した兎と同じものが、彼の手のひらに現れる。




「俺も出来る」

「何!?自慢したかっただけ!?」




 私は思わず声を荒げてしまう。


 確かに、私のより大きいしぴょんぴょんと元気に跳ねているし、そりゃあまだ魔法の使い慣れていない私と比べればアルベドは出来るだろうよ。

 でも、私の方が魔力量は上!と、心の中で反論する。




「お前ももう一回作ってみろよ。並べて見てえし」

「そんな、勝手に……分かったわよ。作れば良いんでしょ、作れば!」




と、私はむきになって先ほどと同じように水をすくい上げ、水が兎になるのを想像する。


 すると、先ほどよりも小さい兎が私の手の中から生れ、その兎はぴょんとアルベドの作った兎の方へ跳ねて言ってしまった。




「あっ!」




 私の兎は、アルベドの兎の周りをぴょんぴょんと跳ね回り、落ち着きがなく、少し心配になるが、アルベドの兎が私の兎の身体に触れた途端、ビクンと大きく身体をはねさせ、すぐにこちらに戻って来て、私の肩に飛び乗った。




「ハハッ!お前みてぇ」

「何処が!?」




 私と肩に乗った兎は、怒りの感情をアルベドにぶつける。確かに、兎の感情は私の感情とリンクしているようにも思えた。

 その証拠に、アルベドの兎はアルベドの肩の上に乗って顔ははっきり見え無いのに笑っている、小馬鹿にしているようにこっちを見ているような気がしたのだ。


 アルベドは、ひとしきり笑うと、私の肩に乗っている兎を指さし首を傾けた。




「魔法で生み出した生き物なぁ、その魔道士の感情を感知しうつすんだよ。だから、魔法で産みだした生き物はその魔道士の現し身って呼ばれてる」

「そう、そうなんだ……まあ、知っていたけど」




 勿論嘘である。


 初耳だったし、魔法で生き物、動物を作った事なんてコレが初めてだと思うから。魔法って奥深いなあと思いつつでも、ここで正直に知っていないと言えば、またお前は聖女なのに何も知らないんだなとか言われそうなので、私は適当に相槌を打つ。




「まあ、今回は水の魔法で作り出した兎だからな。形も微妙だし、感情の受信もおそい……」

「本当に生きている生き物を作る事って、魔法で可能なの?」




 私は、軽くゴーレムとか、精霊などを思い浮かべていったが、アルベドははあ……と大きなため息をついた後、兎を湖へとはなった。

 また、私何か可笑しいことでも言ったのだろうかとアルベドの方を見ると、アルベドは私に分かるように、子供をあやすように言った。




「魔法で生き物を、意思疎通が出来、自我を持つ生き物を作ることは不可能だ。それに、そんなことをすれば作った奴の身体に何らかの異常反応が起こる。禁忌って奴だ。勿論、死者蘇生なんかも禁忌に当たる」

「禁忌……?もし、破った場合はどうなるの?」

「最低でも、死……最悪は、魂の消滅か」




 そういって、アルベドはまたため息をついた。


 私は、この世界の知識が全くない以上、どうしても聞いておかなければならなかった。

 そして、私の予想通り、アルベドの口から返ってきた答えはとても恐ろしいものだった。

 魂が消滅するということはつまり、転生などが出来ない……と言うことなのだろうか。




「魂の消滅ってのは、元からその世界にいなかったって事になるっつうことだ」

「生れてすらいない、存在すらしてない存在になってしまうってこと?」

「まあ、簡単に言えばそうだな。だから、皆、どれだけ苦しかろうが死者蘇生だけはしねえ。まあ、したところでその魔道士が消えるんじゃあ、自分が生き返らせられたかなんて分かったもんじゃねえけど。過去に、一度やったことがある奴がいたんだ」




 そういって、アルベドは湖を見た。




「え、でも、さっき死者蘇生を行った人は記憶から消えるとか、存在しなかったって事になるとかいってたじゃない」

「生き返らせられた人が聖女だったんだよ。初代のな」

「初代の聖女?」





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