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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第四章 縮まる距離

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06 黙ってればイケメン




「おい、いい加減機嫌直せって」

「……」




 目の端でちらつく紅蓮は、私の様子を落ち着かない様子で見ては、そう機嫌を取るような優しい(そでれも、幾らかぶっきらぼうな)言い方で私に話しかけてくる。

 人通りの少ない道のベンチで横に並びながら、私はアルベドに構うことなく綿飴を頬張っていた。その間も、アルベドは機嫌直せコールをしてくる。


 そんなこと言われても私の機嫌が直るはずがなかった。


 相変わらずに、デリカシーのない言葉を並べて、子供扱いしてくるし、からかい方も私と関わる内にレベルが上がってきたようにも思う。まあ、それはいい。それは置いておいて、彼に振り回される自分に腹が立っているのもまた事実であった。




(いつキスしようかだって!?意味分かんない!)




 頭の中で想像したのは、少女漫画にありがちな壁ドンからのキス。他にも、ロマンチックなシチュエーションからのキスとか、思いついたがそうじゃない。


 まず、前提に私はキスをしたことがない。


 当たり前だ。オタクで、二次元しか興味がないのに、どうキスするのだ。ありがちな、過ってキスとかも一回もなかった。勿論、元彼の遥輝とだってしたことがない。口には。

 きっと、アルベドが言いたいのは口にキスするぞってことだろう……だって、じゃなきゃ髪だったり手の甲にだったりは、此の世界にきてから何度もいろんな攻略キャラにされている。




(あ、ブライトと双子は違うけど……)




 などと、自分の考えにセルフツッコミを入れながら私はちらりとアルベドを見た。

 私がこんなに、先ほどの言葉とアルベドの行動で頭をいっぱいにしているというのに、その原因を作った男は隣で呑気に買ってきたラムネを飲み始めたのだ。此の世界にラムネという昔ながらの良き日本の文化があるのは意外だったが、また、それもそうじゃない。




「私、キスしないから」

「ぶーッ!」




 隣で、ラムネを飲んでいたアルベドにそう言ってやれば、彼は驚いたのかラムネを勢いよく噴き出した。 

 一応、彼も貴族だよね……と思いつつ、何てことをしてくれたんだとアルベドを見つめた。

 何てことというよりかは、汚いからやめて欲しい。  

 アルベドは自分の失態を誤魔化すかのように、袖で口元と服に飛び散ってしまったラムネを拭くと、私から視線を外す。




「い、いきなり何つうこと言うんだ!」

「それは、こっちの台詞!きったない、噴き出さないでよ!」

「それはお前が!」




 お互いに声を荒げながら、口論を始める私たちに通行人はチラリとこちらを見ては通り過ぎていく。

 そんな通行人を見ながら、私と彼はまた顔を合わせる。

 ラムネの瓶に入っていた透明なビー玉がカランといい音を立ててラムネ瓶の中で転がり、止るのと同時にアルベドはキッと目を上げて私を見た。そんな彼を見て私はベンチの端へと平行移動する。





「何逃げてんだよ。まさか、今キスされるとでも思ったのか?」




 可愛いな。何て、ケラケラ笑うアルベドに私は顔を真っ赤にして違うわよ。と叫んでやる。

 まあ、此奴なら不意打ちでしかねないとは思ったが、そういう雰囲気じゃなかったし、彼にもそういう意思がなかったみたいだったから、それはないと思った。私が、逃げたのは、アルベドの目が怖かったから。ただ、それだけの理由だった。




(多分、本人は自覚ないんだろうけど……暗殺者の目なんだよね。睨んだだけで人ころしそうな……)




 私は目を細めてアルベドを見た。


 彼は、攻略キャラである以前に、公爵家の子息で暗殺者なのだ。貴族というよりか、暗殺者という方が全面的に表に出ているため、そう思ってしまうのも仕方ないと思う。

 黄金の瞳は、人を殺せるぐらい鋭く、まるで獣の牙みたいだった。




「てか、なんで賭けの内容をそれにしたのよ……」

「ああ、まあ……キスしたら、お前の間抜けな顔見れると思ったからな」

「はい!?」




 此奴は本当に性格が悪いな。


 キスされるかもってドキドキしていた自分が馬鹿らしくなるじゃないか。


 此処まで、意地悪だと腹が立つ。

 理由がそんなのじゃ、私だってキスされたくない。そもそもに、好きでもない相手にキスなんてされたくない。




(あーあ……ほんと、性格悪すぎて頭痛い)




 そう思ったら、頭痛がしてきて私は頭を抑えた。アルベドは大丈夫か?と半分心配、半分笑っているような表情で私の方を見る。

 こいつの笑顔を見ているとムカムカしてくるのは何だろう。私は、彼の手を払いのけて立ち上がる。

 そして、そのまま歩き出すと、アルベドは慌てて立ち上がり私の名前を呼んだ。




「おい、エトワール」

「何よ、また勝手に何処かに行くなって言うなら、アンタがついてこれば良いじゃない」

「いや、俺まだ飲んでる」




 返ってきた返答は思いもよらぬものだった。というか、何故その言葉が返ってきたのか本当に不明である。




「そんなの、知らないわよ!」




 私の言葉に、ラムネを片手に持ったまま彼は呆れたようにため息を吐いた。




「勿体ないだろ。これ、そこに流せって言うのか?」

「なんでそうなるのよ。あーもう、分かったから、早く飲んで」

「急かすなって。せっかちか」




と、アルベドはニヤニヤ笑いながらラムネを一気に飲み干して私をチラリと見る。


 その目はやっぱり獲物を狙う肉食獣みたいな感じで、私を射抜くようだった。

 日も良い感じにくれてきて、あたりの街灯がぽつぽつとつき始めてきた頃、朝と比べるとドッと人が増えてきたような気がして、先ほどまで静かだったこの場所もあっという間に人で一杯になってしまっていた。


 そういえば、今日が星流祭最終日である。

 星流祭の最終日は、花火が上がるとも言っていたし、何処で上がるかは知らないけれど良いところで見たい。




(昔は、祭りにも行けなくて、家から花火の音しか聞えなかったんだっけ)




 そう、昔のことをぼんやり思い出していると、ふとまた1つ思い出したことがあった。




(――――って、星流祭最終日に花火一緒に見た男女は結ばれるんだった!)




 そんな事を思い出して、思わず隣にいる彼をちらりと見ると、彼は私を見て怪しげな笑みを浮かべていた。その顔は、私の考えていることなどお見通しとでも言うような顔だった。

 もう、いろんな事が重なって色々抜け落ちているところはあるけれど、確か花火にはそういう意味があったはずだったと。

 それに、先ほど耳にした話では花火が上がると同時に星栞の櫓に流星が落ちてき、その中から書かれた願いが1つ叶うとか何とか。




「星栞に書いた願い叶うといいな」

「アンタは何て書いたのよ」

「それ、さっきも同じやりとりしたろ?教えねえって。まあ、お前が教えてくれるなら、教えてやっても良いぜ」

「それじゃあ、いい」




 つまんねえなあ。とアルベドはぼやく。


 私は、リュシオルと星栞をつるしたときのことを思い出しながら、自分の願いについてもう一度考えた。

 いや、書いたとおりなのだがもしかなったとして、本当にリースの心の声が聞えるようになるのだろうか。もし、そうなったとしたら、私はリースに何をしてあげられるだろうか。

 そこまで考えて、あんなに何千何万とつるされた願いの仲から自分のが選ばれるはずがないと私はフッと鼻で笑う。


 こんなことを考えているとアルベドに知られれば、アルベドはまた面白くないとでも言うだろう。一応、アルベドとのデートであるのだから。




(まあ、システムというか、イベント的にアルベドとこうしてきているんだけど……)




 全く思えば、これは事故だった。事故から始まる疑似デート……何て、一冊本が書けるぐらいだ。とまた自分で笑う。

 自分の意思で、アルベドとデートしているわけじゃない。そう、コレはイベントで、ボタンを押し間違えた私の落ち度である。

 でも、楽しくないと言えば完全に嘘になる。




(って、私、全攻略キャラと星流祭まわってることになるじゃない!)




 思い返してみれば、初日にリース、次の日にグランツとルクスとルフレ、3日目は雨で行かなかったし、4日目はリュシオルといったと思ったら、ブライトとあって……そうして、日にちをまたぎながらアルベドと。

 確かに、アルベドだけ好感度が上がるはずだった今回の祭り、ブライトをのけて殆どの攻略キャラの好感度が大幅……とは行かないものの上がった。

 結果的には良かったのだが、本当に良かったのだろうかと、今更疑問が浮かんでくる。


 だって、私は別に逆ハーを求めているわけではない。


 リュシオルに前、こっそり聞いたところではエトワールストーリーで、逆ハーはバッドエンドらしいから。




「そんじゃまあ、人増える前に良い場所に移動するか」

「え、もう人多い気がするけど……って、何処に行くの?」

「花火見るんだろ?良い場所しってんだよ。だから、道混む前にな?」




 空になったラムネの瓶をゴミ箱に投げ捨て、背伸びをするアルベド。風が吹き揺れる紅蓮の髪は、やはりいつ見ても綺麗だった。




(黙っていればイケメン……)




「いいよ、見られれば……」

「どうせ見るなら良い場所で見てえだろ?」




と、アルベドは私を立ち上がらせて手を掴む。


 その手は、少し暑いこの場の空気よりも熱く感じられた。





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