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602 やれることはあるはずだから




「何事もやってみなくちゃ分からないと思う。それに、リースは彼女の婚約者だし……」




 自分で言っていてむなしくなってくる。どうして、その言葉を口にしてしまったのだろうかという少しの後悔か。いや、後悔というか、その言葉が自分の中から出てきたことに驚いていた。空しくなるとはまさにそうなのだが、それ以上に、婚約者ならどうにかしてくれるかもしれないという謎の期待があったのだ。その期待も、期待するだけ無駄だとなんとなくわかっているのに。どうしてか、期待してしまう。いや、というよりもそう何かに願わなければ私はやっていけないと思ったのだ。




(トワイライトがその場で殺されるなんてこと、見たくない……から)




 全てはトワイライトのため。

 もちろん、リースに何かしらのハンデは負って欲しくないし、そのようなことがあるとすれば、私はきっと自分自身を許せなくなるだろう。誰も傷つかずに、誰も傷つけられずに終わってほしい。でも、きっとそう簡単にはいかない。

 アルベドの言うように、言葉でぶつかってあのエトワール・ヴィアラッテアが変わるとは思えない。そこに期待するだけ無駄だということも、なんとなく雰囲気で分かる。

 リースは、私の言葉を受けて、ハッとした表情になった。




「そうだな、婚約者の言葉になるのか……」

「そう……聖女様がその言葉を素直に受け取ってくれればいいんだけど。そう簡単にいけばの話だけどね」

「……ぶつかってみるしかないだろうな。普通に、聞き入れてくれないような気もするが」




 と、リースは、自分で言っておきながらなんだが、というような前置きののちにそういうとため息をついた。


 リースも言っても変わらないだろうと予想しているらしい。私も全くその通りだと思う。でも少しでも、エトワール・ヴィアラッテアの注意を逸らし、その間に、トワイライトのもとに行くことができればいいほうだと思う。それもまた、簡単にいくとは限らない。

 エトワール・ヴィアラッテアは、何故か自分ではなく、騎士や魔導士たちに攻撃をするよう頼んでいる。それは何故か。




(騎士たちが倒せなくて、特大の攻撃を食らったのちに、自分がやっつけて英雄になろうとしている……?)




 私のほうこそ、妄想が広がっていく。エトワール・ヴィアラッテアなら、こう考えるだろうという考えが広がって膨らんで。それがあっているかどうかはもはや問題ではない。

 彼女がそう思っていないにしろ、その行動をとることで、結果的に周りの人間がどのような感情になるかという話だ。

 そう、彼女が倒すことによって、聖女の偉大さがさらに世間に知れ渡ることとなる。また、妹のように可愛がっていたトワイライトを自身の手で殺してしまわなければならないという悲劇のヒロインの属性も手に入れることができると。

 彼女がどこまで計算しているか分からない。でもその可能性は視野に入れてしまう。




「とにかく行って来る。そうでなければ、動けないだろう」

「リースは……」

「ステラは、彼女を助けたいのだろう。その間の時間稼ぎくらいはする」

「リース」




 言葉がいらずとも、彼は理解してくれた。それは、まるで昔に戻ったような気分だった。彼は、颯爽とその場を離れていってしまい、私たちは雨が降る闇の中取り残された。

 騎士、魔導士とトワイライトへの攻撃は続けている。それは止まぬ雨のようだった。

 耳を刺激する悲痛な叫びが聴こえ、私はそのたび、黒板に爪を立てられるような不快感を胸に抱いた。

 リースが説得してくれるのを待つのではなく、こちらも何かしなければ。




「アルベド」

「んだよ」

「何でそんなに怒ってんの?」

「いや、別に怒ってねえよ。ただ、状況が最悪だと思ったんだよ」

「それは、しかたがないというか。なんでこうなっちゃったのか、私も皆目見当つかない、かも……」




 アルベドは、リースが走っていった方向を見つめていた。

 そして、大きなため息をついて背伸びをする。彼の髪の毛はほどけそうで、横顔を見ても傷がついていることに気づいてしまった。

 私は思わず手を伸ばす。




「いてっ」

「……っ、ごめん。傷が気になって」

「だからって、いきなり治癒魔法かけんなよ。反発のこと忘れてんのか?」

「忘れてた……けど。そっか」




 バチバチッと魔法が反発して音を鳴らす。

 私と、アルベドの魔法は正反対に位置する光と闇。だからこそ、反発といって、その魔法を受け付けられないと弾いてしまうのだ久しぶりに治癒魔法なんて使うものだから、加減も忘れていたし、そのこともすっかり忘れていた。

 何よりも、彼とはその反発の壁を越えていたために大丈夫だと思っていたのだ。

 でも、久しぶりであるからか、反発は起きてしまい、結果、アルベドの頬はさらに赤くなる。




「お前の優しいところは好きだぜ。あの皇太子にもしっかりと役割を与えてやったんだろ?」

「役割を与えるっていうか、彼にしかできないことだから。私が言っても神経逆なでして終わるだろうし」

「そりゃそうだが?」

「リースに少し賭けているかも。でも、無理だっていう可能性のほうが高いから、それ以上は何も思わないようにしてる。トワイライトを助けられるのは自分だけって。その間の時間を稼いでほしい」




 他人にすべてを求めてはいけない。委ねることも、期待することも。期待をかければかけるほど、それを裏切られたときに、立ち直れなくなるから。

 アルベドは、私の言葉に納得したようだった。そして、そのように考えられるようになった私に対して、フッと笑う。

 この考え方ができるようになったのは、アルベドのおかげでもあると思った。元から、期待することなんてしなかったが、よりいっそ、周りを見る、自分の判断を大切にするという気持ちがアルベドといるうちに生まれていった。アルベドは、ほとんど一人で行動していたし、だからこそ、信じられるのは自分だけだとしっかり自我があった。

 誰かに流されるでも、求めるでもなく。そして、自分についてきてくれる人だけを信じた。その考え方は、かつての私にはできないものだった。だから少しだけ羨ましく思う。




(リースが説得してくれるっていうのは一番ありがたいというか、求めてはいるけど。エトワール・ヴィアラッテアがそう簡単に折れるはずないもんね)




 エトワール・ヴィアラッテアの頑固さというのはよく知っている。

 頑固というか、自分中心に思考を回している女だから、周りの意見を取り入れないだろう。




「私たちも、やれることをやろう。あの肉塊が、どんな風なのか分からないけど、トワイライトをあの肉塊から引きはがす必要があるから」

「核がお前の妹だったら?」




 私が早速動こうとしたとき、アルベドが不意にそんな言葉を投げかけてきた。

 私が、考えないようにしようとしていたことだったため、脚が止まる。私の顔から笑顔が消えたのは言うまでもないだろう。このタイミングで言って欲しくない言葉だった。




「……核を潰さなきゃ、あの肉塊は再生する。それは、きっと、他の肉塊と条件は一緒だと思う。だとしても……いや、でも、方法を探りたい。考えなかったわけじゃないよ?私も」




 アルベドは、私が考えていないだろうと思っていったのではないだろう。考えているだろうけど、どうなんだと、再度確認したかっただけだ。

 アルベドの顔を見ることができなかった。もし、トワイライトがあの肉塊の核だったら。彼女を殺さないとすべて解決しないとしたら。

 だったとしても、他の方法を探したいと私は思ってしまうだろう。




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