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【本編完結】乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います  作者: 兎束作哉
第三章 拗れ始める関係

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19 真っ直ぐな言葉




 リースの言葉は意外だった。


 でも、それと同時にリースの気持ちがぶれていないことに気づき私は、ふと彼の好感度を見た。彼の好感度はいつの間にか91パーセントになっており、どうやら私への想いはかなり強いようだ。


 フラれても尚思い続けられるその精神に感心しつつ、雰囲気的にもう一度告白してくるのではとすら思った。


 そんなことを考えていると、リースがこちらを見ていて目が合う。

 ルビーの瞳は美しく輝いており、夜空の星をうつしさらにその輝きを増していた。そして、吸い込まれそうなほど澄んでおり、そこに私がうつっていたのだ。



 店員は私達の雰囲気を察したのか、兄ちゃん頑張れよ。とリースを後押しし、私達は射的屋を後にすることになった。 

 そうして、大きな広場の噴水の縁に腰掛け、私はリースから貰った兎のぬいぐるみを膝の上に乗せていた。

 可愛らしいピンクの小さな耳と、つぶらな青い目が特徴の白い兎のぬいぐるみだ。私は、そのぬいぐるみを抱き締めながらリースにお礼を言うと彼は優しく微笑みながら、気にすることはない。と一言だけ言った。気にすることは……とはきっとさっきのことを言っているのだろうと。


 すると、リースは真剣な顔つきになり、私の方を見ると口を開く。




 ―――……好きだ。




 そう告げられ私は思わず息を呑む。彼の目は本気だと物語っており、真っ直ぐ私を見つめている。

 それは、散々前世で言われてきた言葉だったはずなのに、こう真剣に言われるとどんな顔して彼を見れば良いのか分からなくなってしまう。

 それに、どうして急にこんなことを言い出したのだろうか。




「お前は、俺のことどう思ってる?」




 突然の問いに私は戸惑う。好きかどうかと言われれば嫌いでは無いとこたえるだろう。しかし、恋愛感情なのかと言われるとよく分からない。


 三年……いや四年付合っていて、恋人らしい事が一回も出来ず、あんな別れ方をして。

 四年間、いつの間にか彼がいるのが当たり前になってきて、それこそ家族みたいに思っていた。私にとっての家族はただの名前だけの存在で、両親は私に興味がなかったわけだし、仕事ばっかりでそうし実質家で一人暮らし状態だったわけだし、そんな中遥輝は何度も家に来てくれた。でも、きれくれただけである。


 家事やら掃除、時には料理を作ってくれてそれこそ家政婦みたいな、出来る恋人には変わりなかったのだが、それをしてくれるのが当たり前になりすぎて、恋人という認識がなかったのかも知れない。


 いや、私が恋愛に疎いせいで、恋人のあり方や当たり前がわからなかったのだ。

 恋人と友人、その他関係の線引きが上手くいっていなかった。




「嫌いじゃ、なかった……でも、分からなかった」




 私の答えはそれだった。


 正直、今でもよくわからない。彼のことは嫌いじゃないけど、恋愛対象として見たことが無かったのだ。だから、今までずっと付き合っていたけれど、それが当たり前で、特に意識していなかった。


 私の言葉にリースは少し残念そうな顔をしていたがすぐに笑顔になった。そして、そっか。とでも言うように私の頭を優しく撫でる。

 本当にその顔を見ているだけで辛くなった。ピロロンと悲しげな機械音と共に彼の好感度が下がったんだなと思うと同時に私は、やっぱり彼とよりを戻すのはまだ無理だと思ってしまった。


 私が私の気持ちに気づけない、リース……遥輝についてどう思っているのか曖昧な私が今答えを出すのは違うだろうと。

 嫌いじゃなかった。でも、好きが恋愛感情の好きだったのか分からなかった。


 だって、私にとっても彼が初めの恋人だったから。




(なのに私は、推しのライブチケットを破られただけで別れるなんて言って……)




 今思えば、子供だったと思う。感情にまかせて怒鳴り散らし、酷い言葉で別れを告げた。

 そう一人で落ち込んでいると立ち上がったリースが手を差し出し、帰ろうか。と言う。

 その手を握り返しながら私は、うんと小さく返事をした。リースの手は温かく、大きかった。


 私がぬいぐるみを抱きしめたまま一歩前に踏み出すと、遠くの方からきゃああああ!という悲鳴が聞こえた。

 なんだろうと思い振向くと、こちらに向かって黒いローブの男がナイフをちらつかせながら走ってくるのが見えた。皆ナイフの男を避けるように道を空けると、男はスピードを上げこちらに向かって走ってくる。その男が走るたびに赤紫色の鬼火のようなものが宙を舞い、屋台や人に燃え移っていた。幸い、火事にはならなかったがあちこちで熱いと泣き叫ぶ声が聞えた。


 十中八九、闇魔法の使い手だ。


 私は直感的にそう思い、どうにかしないとと足を踏み出す。しかし、リースは、私を庇うようにして前に出て走ってくる男を睨み付ける。




「ダメ、相手はナイフを持ってるの。今の私達は丸腰……ここは、魔法が使える私が」

「お前が怪我をしたら如何する」

「それなら、アンタだって皇太子のくせに怪我なんてしたら!」




 私達が言い争っているうちにもどんどん距離が縮まっていく。




「ああ、もうダメッ!」




 私はこのままでは、二人ともダメになってしまうのではないかと思い光の弓を作りナイフの男に照準を合わせる。




「ダメだ、エトワール。もし外しでもすれば、町の人達に当たってしまう」

「で、でも……」




 リースの言葉は一理あった。光の弓はきっと闇魔法の者達にとっては毒であり、かなりのダメージを与えられるはずだ。だが、それは当たった場合にだけあって、光の弓で放たれた矢は一般人にも当たってしまう。光魔法とは言え、殺傷能力がないわけではない。それに、この距離で当たれば皆かすり傷では済まないだろう。

 私は如何するべきかと、リースと顔を見合わせ男を見ると、男はニヤリと笑い次の瞬間分裂したのだ。そして、そのままこちらに突進してくる。



 リースは、私を守るように腕の中に入れ込み、防御の体制に入るが、私達には攻撃を防ぐ術はない。

 そして、ナイフが私達に突き刺さろうとしたその時、カキンッ!という金属音と共にナイフが弾かれ、分身の一人は切り裂かれ消滅してしまった。




「グランツッ……!」




 目を開けばそこに、亜麻色の髪を揺らし颯爽と現われたグランツが私が以前渡した剣を構えて立っていた。

 グランツはチラッと私の方を見てから、また男に向き直る。その目は鋭く、ガラス玉のような翡翠の瞳は怒りに満ちていた。 

 グランツは男に向かって駆けていくと、男も負けじと闇魔法の炎属性であるだろう鬼火で対抗してきた。周りにいた町の人達は悲鳴を上げながら離れていく。こんな町のど真ん中で戦闘に入れば皆そうなるだろう。




「ほう、お前の護衛はなかなかやるんだな。魔法を斬る魔法か」

「そうよ!私の護衛だもの……って、なんで魔法を斬る魔法って分かるのよ」

「魔法の鑑定は得意でな」




と、リースはグランツの動きを見ながら言った。


 魔法を、ただあの一瞬鬼火を斬っただけで分かるのだろうかと思いつつ、そういえばリースの強みは瞬時に状況を把握し全ての事柄を有利に進める頭のきれだったなあと。

 推しへの愛が足りないと私は壁に頭を打ち付けたくなる気持ちを抑え、男を圧倒するグランツの動きから目が離せなくなっていた。 


 グランツは男の攻撃を的確に裁きながら、着実にダメージを与えていった。そうして、最後は峰打ちのように相手の首筋をトンと一撃加えると、男は気を失ってしまった。 


 グランツは剣を鞘にしまうと、男を縄で縛り上げ、後から駆けつけた治安維持隊に男の身柄を受け渡していた。

 町の人々からは拍手喝采が起こり、中には涙を流す人もいた。私は、そんなグランツを呆然と眺めていると、グランツがこちらに気付き近寄ってきた。


 すると、周りの人々は道をあけて、まるでモーゼの十戒の海割れのようだ。

 グランツは私達の目の前に来ると、膝を折り頭を垂れた。




「お怪我はありませんでしょうか、エトワール様」





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