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呼び出し

 翌日の朝、K駅周辺は人で溢れかえっていた。

 そもそも宝仙院に通う学生が同じ時間帯に集まるので人が多いのだが、今日は心配をしている親が同行している為輪をかけて混雑していた。無事に学校に着いたことを確認する為か、駅で待っている親もいて、そういう親が何件かしかない駅周辺のカフェ全て満席にしていた。

 麗子は、電車を降りたあと、K駅周辺の木々のカラスの様子を見ていると後ろから肩を叩かれる。

「麗子、どう? 連日あんな面倒事はゴメンなんだケド」

「カラスも、他の鳥たちも平穏ね。大丈夫じゃない?」

 麗子は橋口を振り返る。

「そんなことより、いよいよ自然教室だね。服とか、靴とか、あとバッグとかも。もう用意した?」

 三泊四日で高原地帯にある宝仙院の宿泊可能な施設を利用して、集団生活や動植物の生態などを学ぶものだ。

「用意も何も、今年は全部アリモノで済ませるつもりなんだけど」

「なんか一つぐらい、新しいの買おうよ。買わなくても、私の買い物に付き合ってよ」

買い物(ショッピング)は好きだから付き合うんだケド」

「ありがとう」

 そう言って麗子が抱きしめると、橋口は少し頬が赤くなった。


 放課後、二人は私服に着替えて自然教室で着る服や、バッグなど、店を歩いてみて回った。

 あまりファッション性の高いものを持っていくと、学校指定のジャージに着替えさせられてしまう。教師からは地味に見えるが、可愛くて、格好いいものを探すのは難しかった。

 なかなか決まらないまま、店を歩き回っていると、永江事務所から二人に呼び出しがあった。

「呼び出しだ。なんだろう?」

「心当りないんだケド」

 二人はショッピングを止めて、永江事務所に向かった。

 Tヒルズに着くと、フロアの一角にある永江事務所に入った。

 挨拶すると、所長に声を掛けられてそのまま所長のところに向かう。

「昨日のOKホームから、橋口さん宛に荷物が届いてて、それを渡すのが一つ」

 橋口は何か思い当たることがあるようで、頷きながらそれを受け取った。

「ちなみにそれ何?」

 麗子が興味ありげに、その荷物を見ながら訊いた。

「個人的にバイトしないかって言われたんだケド」

「えっ? 何それ、除霊案件なら勝手にやっちゃダメでしょ」

「その件は確認したんだケド」

 永江所長が二人の中に割って入った。

「そうね。除霊や降霊の案件は事務所を通さないと違法になるからダメよ。けど、うちは、それ以外口出さないから」

「……」

 所長は二人の肩に手を掛け、事務所内にある自動販売機に向かった。

「何か奢ってあげるから、飲みながら話を聞いて」

 それぞれ、好きなドリンクを買ってもらい、三人は打ち合わせ用のテーブルについた。

「今日来てもらったのは、シフトの入っていない日の話」

「あ、それは自然教室なんです」

「何それ?」

 麗子は一通り説明する。

「そう。やっぱりね。そこらへんって別荘とかあるところよね」

「ええ、そうみたいです。山と川と森…… 牧場もあったかな?」

 麗子は言いながら所長の『やっぱり』という言葉に引っかかりを感じた。

「森や川で遊ぶなんて、いいじゃない。贅沢ね」

「さっきまで、その為の買い物をしてたんだケド」

「ああ、そんなタイミングで呼び出してしまってゴメンナサイ。その、自然教室で、ちょっと気になったことがあって、あなた達に電話器(これ)を渡しておこうと思って」

 いつもバイトの時に渡されているガラケーが二つテーブルに置かれた。

「これバイト用携帯電話ですよね?」

「そうなんだけど、自然教室の間、持ってて欲しいの」

「えっと、正直いうと学校に携帯を持って行くのは」

「禁止なんでしょ。マナーモードで、鞄か、出来ればポケットに忍ばせておくだけでいいから。使うときは万一の時だけよ」

 永江所長の言葉から、何か霊気が滲み出ている。

 嫌な予感。麗子はその予感が何なのかを考える。視界の隅で、橋口が体を竦めている。

「……ちょっと寒気がしてきたんだケド」

 麗子は橋口の様子を見て、所長に言った。

「私達の自然教室で何かある、ということですか」

「いや、ないとは思うけど、万一」

「かんなが震えてるって、相当のことです」

「いつ何があるかわからない。それは常に変化するの。だから、本当は今、この時も何かあっておかしくないんだわ。わからない状況に陥ったとき、私を頼って欲しいの」

 所長は麗子と橋口の手を握った。

「……所長」

 麗子はそう言ったが、橋口は唇が震えて、声が出なかった。

「……」

「大丈夫。今まで教えた通り対応すれば」

 携帯を受け取ると麗子は頷いた。

 橋口の携帯は麗子が手渡した。

 楽しくて、ワクワクしていただけの『自然教室』が、急に霊的案件が重なってきて、暗いイメージに塗り変わっていく。

 橋口の怖がり方が普通じゃない。けれど自分にはそれほどの危機察知能力がないのか、それほど深刻なものを感じていない。麗子はおもう。自分と橋口、どちらが正しいのか、実際に何かが起こるのか。全ては行ってみなければわからない。起こってみないと分からない。ただ不安だけが膨れて行くのが分かった。




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