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社長室のあるフロア

 社長の震えるような声が掛かって、麗子達が社長室に入る。

 照明はついているのだが、全体に薄暗い。

 事を行う為に動かしたと思われるソファーには、社長の衣服が散らかっていて、剃っている方の秘書が慌てて片付ける。

 社長は大きなサイズの机の真ん中に反り返って座っているせいか、麗子達が立っているにも関わらず、机から顔だけが見える。

 左サイドにノートパソコンがあって、電源を入れているらしく周囲が明るかった。

 聞いていた年齢より若く見えるな、と麗子は思った。会長の息子で苦労していないとか、そういうのが肌の張りツヤに関係があるのだろうか。それより入ってきた私たちには興味がないかのようにパソコンを見ているのはなんなんだろう。

 入れ違いに社長にサービスをしていた女性が一人、出て行った。

 麗子は、一瞬、その女性の姿に梵字が浮かんで消えた。

「?」

 ミリ髪の秘書がドアを閉めると、社長に言った。

「こちらが除霊士の方です」

「まずはお話を伺いたいのですが」

 と麗子が言うが、社長はノートPCを見たままだった。

「どうでもいい。さっさと済ませてくれ」

「不安を呼ぶような霊のようですが、どんな不安が」

「不安? 何が不安なんだ。社長である私に不安などない」

 視線はずっとノートPCに向けられている。秘書も当然と行った感じで、その態度を注意しない。

 麗子が一歩前に出ようとすると、剃った頭の秘書が手を広げてそれを制した。

「お下がりください」

「この状況で除霊をしろと?」

 麗子は両手を広げて、アピールする。

「ええ。お願いします」

 麗子は橋口に目で合図する。

「社長、手を見せて欲しいんだケド」

「だめだ」

 と秘書が答えた。

 麗子が命令する。

「社長、パソコンを閉じてください」

 秘書も言い返さない。

 何か、不思議な雰囲気が社長室を包んでいる。

「今、閉じます」

 社長は大人しくなって、体を上げ、手でパソコンを閉じた。

 ようやく麗子達は、社長の胸から上の状況を見ることができた。

 社長は椅子を前に進め、机に肘をつけて指を組み合わせた。

「早くしてくれ……」

 急に表情に不安な様子が現れる。

 運動している訳でもないのに汗が流れる。落ち着かない感じで、指を頻繁に動かす。唇を何度も噛む。といった具合だ。

「大丈夫、大丈夫……」

 社長は俯き自らに言い聞かせるようそう言った。

 麗子はその様子を見て、顎を指で触れ、首をかしげた。

 これだけ霊による影響が強ければ、いくら金額がかかるとは言え降霊師の側に除霊、或いはもっと優秀な降霊を頼むだろう。悪徳降霊師から考えても、掴んだ金蔓を一回こっきりで終わりにするものだろうか。

「状況は悪化しているのではないですか? 最初からこんな酷かったんでしょうか」

「最初って…… だめだ、女を連れてこい」

 ミリ髪の秘書が素早く社長室を出ていく。

「ほら、女なんだケド」

 橋口が、社長の机に近づき、社長の手を取った。

「……あれ、社長さん、霊がついているように思えないんだケド」

 社長は橋口の手を振り払う。

「違う、違う、(これ)じゃない!」

「フン。人をバカにしてるんだケド」

 剃り頭の秘書が、橋口の肩を掴み、無言で押し戻す。

「あなたがバカにしてるんでしょ」

「麗子も触れてみればわかるんだケド」

 確かに外見や状況だけではわからない。除霊の現場では、近づいても分からない時は、触れると見えてくることがある。橋口のいう通りだ、と思い、麗子も素早く机に近づくと社長の手を握った。

「ちがーーーう!」

 橋口と同じように全否定された。

 麗子は考える。社長はセックス出来る女を求めているのであって、除霊士の手では満足できない。そう考えるのが自然だ。だが、もう一つ。社長に触れた時の霊的な感覚だ。橋口が言ったように社長に悪霊がついているとか、何か余計な降霊がされているように感じなかった。もし、降霊師の目的が降霊と除霊を繰り返し、金銭を巻き上げることが目的ではないとしたら……

「!」

 麗子は橋口の方を振り返った。

「除霊するのは社長(こっち)じゃないのかも」

「意味わからないんだケド」

「かんなが先に気づいているんだと思った」

 すると、ミリ髪の秘書と一緒に、別室に待機していた女性が二人ほど入ってきた。

「来た。ほら、何か感じない?」

 さっき女性が出て行った時に感じた何か。おそらくこの女性たちに秘密がある。麗子はそう思っていた。

「セクシーな衣装なんだケド」

 社長が『早くこい』とばかりに女性に向かって手招きをしている。

「それだけ?」

「逆に、麗子が何を感じているのか教えて欲しいんだケド」

「……」

 麗子は入ってきた女性に近づき、

「握手していただいてよろしいですか?」

 長い髪の赤いドレスを着た女性は無言で手を差し出した。

 麗子はその手を握り考える。

 霊的なものを感じない。普通の人と同じだ。

「そちらの方も」

「社長が呼んでるんだけど……」

「すぐ済みますから」

 短髪で黒いボンデージ風の衣装を着ている女性の手を握る。

 一人だけでは役に立たなくても、二人を合わせれば、何か意味があるのかもしれない。

 麗子は必死に何かを感じ取ろうとしている。

「ちょっと、いつまで握ってるの」

 手を振り切られた。

「シャチョーお久しぶりぃ」

「おお、頼むぞ頼むぞ」

 社長の机の下に潜ってしまい赤いドレスの女性は見えなくなった。

 ボンデージの女性は社長とキスを始めた。

 社長が空いている手で、秘書に指示すると、秘書が言った。

「済みませんが、除霊を進めてもらってよろしいですか」

「この状態で?」

「失礼ですが、永江除霊事務所は優秀な除霊事務所と聞きました。社長はお忙しく、後日という訳にはいかないのです。このまま進めてください」

 麗子は腕組みした。

 この女性達と触れている、繋がっている時は妙に落ち着いている。

 そして女性達がいないと不安がっている。

 さっきもパソコンを閉じたら突然、不安気になった。

「ちょっとパソコンを見せてもらいたいんですが、あのさっきのままの画面が見たいんです」

 秘書が社長の机にあったパソコンの向きを変える。

 麗子がパソコンを開いてみると、画面にはポルノ動画が表示されていた。

「うーん」

 麗子は橋口の手を取って、社長室の端に連れていく。

「どう思う」

「どう思うって言われても」

「触れてみても、社長に悪霊はついていない。女性達にも悪いものは憑いていない。だけど、社長は女性に触れていないと不安でしょうがない」

「そうだとすると、普通と普通を足しても普通にしかならないんだケド」

 本当に、普通と普通を足しているのだろうか。

「とすると、ただのセックス依存症になっちゃう。私たちの出番はない」

「本当に除霊案件じゃなければ、なんだケド」

「そう、そうなんだよね。私も何か引っかかるんだよ。除霊案件なんだよ絶対」

 麗子はもう一度、社長の机に戻り、パソコンを見た。

 藁をもつかみたい気持ちでパソコンを操作した。

 調べてみたが、サイト名も有名なポルノサイトらしい。

 ブラウザの閲覧履歴はポルノの作品名ばかりで、手がかりにならない。

 麗子が操作していると、操作をまちがえたのか、何かのダウンロードが自動的に始まった。

 円形の進捗状況を示す表示が、次第に進んで百パーセントになって消えた。

「……」

 なんだろう。今の感じ。麗子は考えた。

 ダウンロードの進捗を示す表示が、何かのヒントになる気がしたのだ。

 円の中身が抜けている。それが、ダウンロードが進むと、どんどん足し算されていく。だけど本当はそうじゃない。次第に送り元の状態に近づいているのだ。むしろ最初の段階は、欠けている状態だ。

「もしかして」

 麗子は橋口に耳打ちした。




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