表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/38

企業案件

 支給されている折り畳み式の日本固有携帯(ガラケー)で地図を見ながら、橋口かんなが言った。

「ついたんだケド」

 ガラスの継ぎ目が少ない、お金が掛かっていそうなビルだった。

 麗子は外に立っているビルの案内を見る。ビルの名前自体が、依頼主の住建の名前になっていた。

「自社ビルなのね」

 ビルを見上げる。十五、六階だろうか。この場所にこのビルを維持するのだから、案件の金額ももっともらって良いはずだ。と麗子は考えた。

「とにかく受付に行くよ」

 橋口が先にビルに入っていく。麗子はそれを追って入っていく。受付のあるフロアは広く、簡単な商談なら仕切られた反対側でできるようだった。橋口が受けつけの女性に話すと、紙を渡されて麗子の方に戻ってくる。

「どうしたの? 案内の人が来るまで待ってろって?」

「違う。荷物搬入口に回れって書いてあるんだけど」

 この仕事の性質として、依頼する企業側として、あまり表立って動かれると困る場合が多い。そう言う場合は平日夜間や、土日になるのだ。平日日中に依頼する場合は、こうやってこっそり入る必要がある。

 麗子達は地下駐車場から通用口を通り荷物搬入口につく。

 搬入口にある貨物エレベータが開くと、体格の良いスーツの男が二人乗っていた。

 一人は完全に剃ってしまっている坊主頭で、もう一人もほとんどミリの状態に刈り込まれた髪をしていた。

 秘書と聞いていたが、秘書兼ボディ・ガードなのだろうか。街で出会えば、○暴の人と思うに違いない。

 麗子達が威圧され気味に言葉を失っていると、ミリの髪をしている男が口を開く。

「永江除霊事務所の方ですか?」

「はい」

 麗子と橋口は名刺を渡し、事務所から渡されているIDカードも見せた。

 ミリの髪の男が何度もIDの写真と顔を見比べる。

「お若いようですが……」

「除霊経験は豊富ですのでご安心を」

 麗子はスーツの二人が見ている先に気づき、橋口を振り返る。ウインクして、指でまるを作っている。

「こら、そういうのやめなさい」

 麗子が橋口の手を隠すように抑える。

「……」

「(ほら、信用が落ちちゃうじゃない)」

 橋口は反省する様子が全くなかった。

「では、こちらにどうぞ」

 秘書のスーツ二人と、麗子達は荷物用エレベータに乗った。

 途中のフロアは通過するようになっているのか、全く止まることなく最上階についた。

 剃っている方が先を歩き、麗子、橋口と続いて、ミリ髪の男がしんがりを歩いた。

 通路を通っていると、ドアのない部屋に派手な服の女性が大勢いた。色やデザインが派手なのもそうだが、胸元のカットが大胆だったり、太ももが見えてしまうような服装だった。コスプレと思える服の女性も含まれていた。

 麗子はチラリとその部屋を見て、視線を戻したが、後ろの橋口は立ち止まって、出入り口から首をつっこんでしまった。

「ここは関係ありません。先に進んでください」

 強引に通路に引き戻された橋口は、麗子に耳打ちした。

「(何だと思う? あの女性達)」

「(やめなさいよ)」

 橋口はむくれて、しんがりのミリ髪の男(スーツ)に訊いてしまう。

「すみません、あの女性達は?」

「依頼した仕事に関係ないので答えられません」

「本当に関係ないですか?」

 ミリ髪スーツのこめかみあたりが引き攣ったように見えた。

「黙って前を向いて。そこが社長室だ」

 頭を剃っている方のスーツが、社長室をノックする。

「下田です。除霊士の方を連れてきました」

 麗子は正確には『除霊士見習い』なんだけど、と思った。資格を持った人間だけが『除霊士』と呼ばれる。一応、委託されているので『準』除霊士ではあるのだが。

「シ、下田! ちょ、ちょっと待て」

 とドアの奥から声が聞こえた。

 床の絨毯と、十分な厚い扉で声は小さくしか聞こえなかった。

 しばらく待っていると、橋口がスッと前に出て、おもむろに社長室の扉に耳を付けた。

「こら、やめたまえ」

「……」

 橋口は剃っている方、下田秘書にすぐ引き戻された。

 静かな廊下で、絶対に周りに聞こえるという状況で、麗子に耳打ちする。

「(社長の息遣いと、女性の喘ぎ声が聞こえたんだケド)」

 秘書の怒りが溜まっていくのがわかる。

 二人の秘書は目で会話したのか、頷いた。

「少し補足が必要と思われますので、そちらへ」

 曇りガラスで区切られた一角に入り、席に着くとミリ髪が話し始める。

「社長は問題の降霊をされてから、不安感ばかりが大きくなってしまって」

 剃り頭が続ける。

「何もしていないのに、額から汗をかき、イライラと指で机を叩き始めてしまいます」

「その不安感を抑えるためか、性サービスを呼んでしまって」

「医者が…… その『依存症』だと」

 なぜ交互に話すのかわからなかったが、話が終わったと思ったところで、橋口が口を開いた。

「ああ『セックス』依存症ってやつね」

 言うだろうと予想していたが、麗子は笑いを堪えようと俯いてしまう。

「声が大きい」

 秘書は手で抑えるような仕草をした。

「そうか、あの部屋の女性はそのサービスの方なのね。あんなに大勢待機させてたら、お金掛かりそう……」

「だから声が」

「かんな、やめなさい」

「……ですから。ですから、除霊を依頼しているのです。しっかり霊を落としていただかないと」

「ええ、しっかり除霊させていただきます…… ただ、念の為に言っておきたいのですが、もう一つの依存症に関しては、こちらの分野ではないので、除霊したからと言って改善するか分かりませんよ」

 机の上で握り込んだ、秘書の拳が震えている。

「……わかっています」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ