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彼女と刑事の除霊事件簿  作者: ゆずさくら


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麗子の暴走

 生徒は食事の時間になっていたが、麗子は一人で部屋に残っていた。

 考えても考えても、悪い事しか思いつかない。

 もう自分が行くしかない。麗子はそう考えた。地縛霊なら、除霊の(すべ)は知っている。

 扉が叩かれ、橋口が戻ってきた。

「先生が、食事は取っておくから食べれるときに来なさいって言ってたんだケド」

「ありがとう」

「?」

 橋口は、何かを見つけたように窓際に歩いて行く。

「どうしたの、かんな」

「何かがこっち見てる、と思ったんだケド」

「いるの?」

「……」

 橋口は窓の外を見つめたまま黙り込んでしまった。

 すると部屋の扉をノックする音がした。

「冴島」

 先生の声だった。

 さっきの命令(コマンド)によって連絡を入れに来たに違いない。

 麗子は扉を開けて、廊下にでる。

「松木先生が探しているが、まだ見つからない。慰留物もない」

「わかりました。先生がたはどなたか滝に行かないんですか?」

「何が言いたい?」

「私を連れて行ってください」

「だめだ」

 麗子は手のひらを先生へ向け、命令(コマンド)を入れる。

「連れて行きなさい」

「できない。今滝の近くに行くのは遭難者を増やすだけだ」

「……」

 流石に教師だ、と麗子は思った。心の奥底から生徒のことを大事に思うから、私の『命令』を無視して拒否するのだ。真に生徒のことを思っている証拠だ。

 ここから歩いて行くには遠すぎる。

 タクシーでもバスでも、とにかく道路に出ればいい。麗子はそう考えて傘も持たずに施設を飛び出した。

 学校の施設から県道まで走ると、来ていた部屋着は乾いている部分がなくなっていた。

 麗子は真っ直ぐ伸びる、真っ暗な県道を見て絶望する。

 本当に真っ暗なのではない。灯りはついているのだが、走る車がないのだ。

 普段暮らしている街ではタクシーが拾えないことはない。田舎(ここ)を完全に甘くみていた。

 少し道をいくと、バスの停留所らしい目印が置いてある。麗子は目に入ってくる雨を拭って、バス停に走った。

「だめか……」

 終バスが出たばかりだ。そのバスも駅に行くだけで、目的の場所は通らない。

 俯いた麗子の横顔を、照らす光があった。

「!」

 車だ。ただの車ではない。タクシー。麗子は慌てて手を挙げた。

 雨水を跳ね上げないようにか、タクシーはゆっくりと減速して麗子の前で止まった。

 運転手が頭を下げて、麗子の顔を見てから扉を開いた。

「すみません。滝の入り口まで行ってもらえますか」

「本当はそんなびしょ濡れだと載せたくないんだけど」

 ルームミラー越しに、運転手は麗子をジロジロと見ている。

 確かにシートが濡れ手しまったら、シートカバーを交換するとかそのままでは次の客を乗せられないだろう。

「ごめんなさい。お金は持っていますから」

 またルームミラーで麗子の姿を確認する。

「滝ね」

「お願いします」

 タクシーは走り出した。

 麗子は山崎と水谷が、心霊的な事故に巻き込まれたのではないかと心配していた。キツネの地縛霊。狩場に入った者を迷わせているのではないだろうか。

 走行中、外で雷が光った。

 その光のせいなのか、麗子はルームミラーに何かが映った気がした。

 タクシーの後ろの窓を振り返るが、何もいない。

 しばらく何事もなく車は進み、滝に降りる山道の入り口に着いた。

「さあ、着いた」

 麗子が料金を払うと、運転手はそれを納めた。

「……」

 ドアが開かない。

「あの、ドアが開かないんですが」

「ああ、なんか調子悪いんだよね。ちょっとこっちがわに寄ってもらえる?」

 運転手は運転席の後ろ側行くよう麗子に指示する。

 エンジンを止めた。

「ちょっとそっちに行くけどびっくりしないでね」

 ドライバーが助手席を動かして、後部座席に移動する。

「開かないんだよな。これ本当に」

 扉を開けようとしているのか、何か別のことをしているのか。麗子はドライバーの様子をじっと見つめる。

「特に俺の好みの客の時は、俺が満足するまで開かないんだ」

「!」

 振り返った運転手を見ると、ナイフを手にしている。

 この運転手は扉を開けようとしたのではない。麗子を襲いに来たのだ。

「大人しく言うことを聞いたほうがいいぞ。怪我もしないし、早く出られる」

「ふざけんな!」

 麗子は怒りにまかせてそう言った。

 すると運転手は麗子にのしかかってくる。

 麗子の胸にナイフを突きつけた。

「服を切ったらそもそも恥ずかしくて出れなくなるぞ」

 麗子は刃物を持つ手を握った。霊力を使って、握力をアシストする。

「?」

 おかしい。ナイフを持つ手を押し返せない。自分の腕に、何も霊力が働いていないのだ。

「お嬢ちゃんの腕力じゃ、どうにもならないよ。大人しくヤらせればいいんだ」

 運転手と争っているせいで、着ている部屋着がずり下がっていく。

「綺麗な肌してんな、それに若い匂いがする」

 胸に顔を押し付けられ、鳥肌が立った。

 そうだスマフォ。スマフォの緊急通報機能があったはず。麗子は声を出す。

「セリ、警察に通報!」

『声を認識。警察に通報…… キャンセルしました』

「どういうこと? セリ、警察に通報」

『声を認識。警察に通報…… キャンセルしました』

 おかしい、スマフォの処理が、緊急通報の確認メッセージまで行かない。

「通報したって、無駄無駄。近くの警察から、ここまでくるのに何分かかると思ってんだ。乱暴はしたくねぇけど、こりゃ一発叩き込まなきゃいかんかな」

 運転手は麗子に跨って左手を振りかぶると、麗子の腹に拳を叩き込んだ。

 麗子の体が『く』の字に曲がった。

 食事をしていたら、胃の中のものを吐いていたろう。

「さあ、ヤらせる気になったかな」

 こいつには霊がついている。麗子はそう判断した。だから霊力のアシストも効かないし、スマフォの動作がキャンセルされるのだ。もっと強い手段で対抗するしかない。

 運転手は麗子の部屋着の、下を脱がせた。

 車のルームランプで薄暗く照らされる中で、素足だけが白く浮いて見える。

 運転手は舌を伸ばして太ももを舐め始めた。

 麗子は、握り込んだ右手の親指を立て、人差し指を伸ばして銃のようにすると、運転手の頭頂を狙った。

「なんだそれ……」

「ちょっと痛いわよ」

「そんなもんが」

 運転手はそこで言葉を止めた。

 麗子の人差し指の先に、小さな光の粒が集まり、光り輝く大きな球が作られた。

「漫画じゃねぇんだ、ぞ」

「うるさい、どけ!」

 麗子は輝く球を放った。

 撃ったとも言えるが、麗子に撃った反動はない。タクシーのドアが外れ、吹き飛んだ。運転手も、路肩に転がったドアの上に飛ばされ、落ちた。

 麗子はタクシーから降りると、髪を解き、リボンで運転手の手を縛った。

 手で呪法を切ってリボンを固く、解けないように縛りつけた。

「しばらくここで雨に打たれて反省しなさい」

 麗子は事務所から渡されていたガラケーで警察に連絡した。




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