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彼女と刑事の除霊事件簿  作者: ゆずさくら


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魅了

 お風呂の時間を挟んで、食事をした。

 部屋に帰ってくると、山崎と水谷の争いのようなものは一旦収まっていた。

 各自が課題をこなすと、消灯の時間近くになっていた。

 麗子は橋口を誘っておトイレに行った。

 鏡を向いたまま、並んでいる。

「ごめんね」

「何?」

「弘恵と優香が喧嘩腰だったのは、私のせいなのよ」

「なんで麗子が関係してるの」

「……話し始めると、ややこしいから、あまり説明したくないけど」

「そういうの気にしないから、別にいいんだケド」

「ありがとう。本当にかんなには感謝してる」

 橋口は、麗子の顔をじっと見た。

「多分だけど。麗子は霊圧が高いんだと思う」

「何それ?」

「字の意味そのままなんだケド」

「良くわからない」

「圧力が高くて、漏れてるのよ。漏れている霊力で、魅了される者がいる」

「……」

「麗子も普通の降霊師がしてること、知ってるでしょう」

 この前の企業案件で問題となった『降霊師』だが、悪徳ではない降霊師は、人の能力を高めるために、優良な霊を降してきて憑けるのだ。

 するとその人物は仕事が出来るようになったり、カリスマ性をもったり、新しい発想ができるようになったり、霊の力を借りて能力が高まる。有名企業のカリスマCEOや、プロのスポーツ選手などにも降霊してから頭角を表す者も多い。本人はともかく、憑けた降霊師側には守秘義務があるから、絶対に誰に憑けたなど公開しない。だが、噂は広まる。

 噂が広まれば、降霊師には次の案件がくる。あくまで噂だから、良い降霊師ではなく、悪質な者に騙される人も大勢出てしまうのだが。

「あれと同じ。麗子の中の霊力が漏れ出て、人を魅了しているって訳だケド」

「……かんなは? かんなの霊力は漏れ出てないの?」

「そんなにあちこちには漏れ出てないみたい。まあ、霊感の強い後輩()がいて、勉強教えてたら押し倒されたことがあるんだケド」

「それはそれは……」

「ここはしっかり言っとくケド。エッチな関係にはならなかったから」

「私達は互いに惹かれ合わないよね」

「もっと麗子の霊圧が高ければ、やばかったかもしれないけど。結果から推測するに、二人の間にはどちらかが一方的に魅了されるほど力の差はないってことなんだケド」

「今回のことで思ったんだけど、人を好きになるって性別はあまり関係ないんだなって」

 いろんな場面で想定しておかなければいけない。必ず異性を好きになるとは限らない。おじさんが若い娘を好きになるだけでなく、おじさんがお爺さんを好きになったり、おばさんを好きになるかもしれない。女性だって、同性を好きになるかもしれないし、同性が好きだからと言って、異性が嫌いとも限らない。

 年齢も性別も超えて愛し合う。愛は、正しく真実を見極めなければならないのだ。

「そんなの当然なんだケド」

 鏡に映る橋口に向かって、麗子は頷いた。

「あっ、早く戻らないと、また二人が喧嘩になってるかも」

「ちょっと待って、麗子。漏れ出ているものを押さえるコツを覚えないと、私が後輩に押し倒されたように危険な目に合う可能性高いんだケド」

「それ、どうすれば」

「それこそ自分で考えるしかないんだケド」

 真剣な橋口の表情に、麗子は戸惑った。

 わざと漏らしている訳ではないのだ。どこをどうすれば、霊力が漏れないのか。自分で意識しながら、少しずつ探っていくしかない。

「き、気をつける」

 二人は部屋に戻った。

 扉を開けても声がしない。山崎も水谷も静かで、寝ているようだった。

 明日は山を登り降りするので、出発時間が今日より早い。食事の後に、指導の先生方が何度もそのことを言っていたから、二人ともその指示に従ったのだろう。

 麗子は自分のベッドに潜り込むと、自分の霊力が出ているのかを自分で意識しながら眠りについた。

 疲れていたのか、すぐに眠りに落ちた。


『先輩、自習室で勉強教えてくれませんか』

 先輩、と言っていることから、後輩のはずなのに、水谷そっくりだった。

『優香?』

『勉強を教えて欲しいんだケド』

『弘恵はなんでかんなの口癖になってるの』

『勉強を教えてくれませんか。この口に教えてくれませんか』

 水谷の格好をした後輩が、目を閉じて顔を近づけてくる。

『こっちにも教えて欲しいんだケド』

 橋口の口癖を使う山崎も、同じように頭を傾げ、キスを求めてくる。

 この空間には、とろけるような甘い果実の匂いが漂う。

 体に触れられるのも、触れるのも不快じゃない。むしろこのまま、こうしていたい。麗子は思った。いつまでもこの状態ならいいのに。

『先輩』

『欲しいんだケド』

『麗子。漏れ出てる』

 橋口が片手を腰に当て、指さしながらそう言った。

『ごめんなさい』

 麗子は頭を抱えて、しゃがみ込んでしまった。

 だめだ、今のままじゃ、けれど柔らかくて、いい匂いがする。ふわふわして暖かい。お日様に干した後のお布団みたいだ。

「……こ」

「……いこ

「……れいこ」

「……麗子!」

 ようやく麗子は、呼ばれていることに気がついた。

 夢だった。後輩のような優香、橋口の口癖の弘恵。心の奥底で、夢だと、なんとなくは分かっていた。

 そして、目を開けると、見えてくる。

 橋口が、何か賢明に合図している。なんだろう、と思って周りを確認する。

「!」

 山崎と水谷がいる。

 いるどころではない。麗子のベッドに入り、ピッタリとくっついて、頬を擦りそうなぐらい近くに寝ている。

「(ど、どうして)」

 麗子は慌てて二人を押して離し、距離をとる。

「(出し過ぎなのよ)」

「(漏れ出てるってこと?)」

「(それ以外、理由ないんだケド)」

「……」

 仕方ない。麗子は山崎と水谷に、自らの霊力を使って術をかけることにした。

 寝てしまえばまた漏れ出てしまうかもしれない。そうしたら、また二人が寝ぼけたままこの布団に入ってくるだろう。目は閉じていても熟睡は出来ていないだろう。明日は早い。こんなことがある度、起きてしまう橋口にも迷惑をかけてしまう。明日の為、皆んな十分な睡眠が必要なのだ。

 麗子は目を伏せ、精神を集中させる。

「(自らの寝床で眠れ)」

 右手と左手で、それぞれ山崎と水谷の額に、人差し指を『ちょこん』と触れると、二人は目を閉じたまま、動き出し、フラフラと自らのベッドに戻っていく。

 麗子は安心したようにため息をついた。

「(事務所に戻ったら所長にお(ふだ)をもらおう)」

「(この自然教室で持ってなきゃ、意味ないわよ。皆んなで寝ることなんて、今後しばらくないんだケド)」

「(だ、だって、普段から漏れてるんでしょ)」

「(まぁ、そうね。所長に相談したらいいんじゃない)」

「(うん。そうする。おやすみ)」

「(おやすみなんだケド)」

 麗子は腕を目の上に置いた。

 なぜこんなことになったのか。もっと早く気づくべきだった。確かに後輩達の態度が騒がしいとは思っていたが、自分に原因があったとは……

 橋口には出来ていることなのだ。なんとか対応方法を見つけないと。

 そんなことを考え疲れて、麗子は寝てしまった。




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