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彼女と刑事の除霊事件簿  作者: ゆずさくら


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残りの見学

 お城の見学の後は、お寺の見学だった。

 お寺の近くの博物館を見終えると、バスの駐車場近くにある観光センターで食事になった。

 テーブルのレイアウトせいで、麗子の後ろが橋口の席になった。

「かんな、ちょっといい?」

 麗子は橋口と一緒に、窓際に行った。

「あのバスとバスの間、シルバーの車、見える?」

「あの車がどうかした?」

「昨日の弘恵と優香の話覚えてる?」

「私もソフトクリーム食べてみたいんだケド」

「……」

 麗子は窓枠に手をついて、俯いた。

「かんな。私が、その前に『シルバーの車』って言ってたでしょ。その流れで、ソフトクリームの話を思い出すのはなぜ?」 

「落ち込んでそうだからボケただけなんだケド」

「疲れるから、変なボケやめて」

「城の見学の時も同じナンバーの車がいたんだケド」

「かんなも見てたのね」

「……」

 橋口は無言で、威張るように胸を張った。そもそも胸が大きいので、余計に体を反っているように見える。

「うちの学校のバスをつけてきてるのかも」

 橋口は頷いた。

「さあ、食事にするから全員席について」

 先生に言われ、二人は席戻った。

 後ろの席の橋口が、麗子に言う。

「麗子。ここの食事はあまり食べない方がいいんだケド」

「えっ、どういうこと」

 この後に何か、ヤバいことが起こるとか、そう言うことだろうか。

 麗子はゆっくりと橋口の方を振り返った。

「次の見学先の『お菓子工場』。お菓子試食し放題らしいんだケド」

「……なんだ、そんなこと」

「すごい重要な情報を伝えたつもりなんだケド」

「いや、ありがとう。本当にありがとう。私、かんながいてくれて良かったって、今、本当にそう思ってる」

 麗子は口にした通り、本当にそう思っていた。もしかしたら、気のせいかもしれないことをあれこれ心配するのもほどほどにしないと、本当に何かある前に心が、気持ちが参ってしまう。

 だから、神様が橋口を通じて『落ち着け、まだ慌てる時間じゃない』という意味を伝えてくれているのだ。

「えへん」

 橋口は椅子に座ったまま、胸を張って威張ってみせた。

 食事を終えると、麗子たちはバスに乗り込み高速道路に入った。

 麗子の周りの班員は、少し椅子を倒して寝てしまっていた。

 なんとなく寝る気になれなかった麗子は、ぼんやり外を見ていた。トンネルに入って、出ると日差しが差し込んできた。村地が明るいせいか声を出したので、麗子は窓のカーテンを閉めた。

 追越車線に何か見えた。

 カーテンを少しめくって、追越車線側の車を素早く確認する。シルバーの車。ナンバーは……

 再びトンネルに入った光の変化と、車の速度でナンバーまでは見えなかった。だが、形は今朝から見ているものと同じ。車に詳しければ弘恵が見た車と同じなのかわかるのに。

 麗子はその後も何度かカーテンをめくって、外を見るが、その車を見ることはなかった。

 高速を降りると、白樺の林の中を走り、美しい清流に沿った道を抜け、山裾に立つお菓子の工場についた。

 広い駐車場はガランとしていて、数台の車が止まっていた。

 まさか、あの中に。麗子はバスの窓から止まっている車を必死に見ていた。

 後ろから、ポンと肩を叩かれる。

「入る時に警備の人が立ってたし、工場は予約しているウチの学校しか見学できないはずなんだケド」

「かんな」

 確かに警備の人が立って門を開けてくれた。

 工場側の人も、学校の見学だけでも大変なのに、一般の見学は入れないだろう。

 バスが工場の近くの駐車場に止まると、生徒たちが順番に降りて班ごとに点呼をとっていた。

 麗子も村地たちと一緒にバスをおり、林の中にある工場へと歩き始めた。

 車はいないはず。けれど、何かが引っかかる。

 鳶が上空に飛んでいる。

 小鳥が囀っている。木々の隙間から差し込んでくる日差しは明るく、何も問題ないように思える。

 そうだ。何も問題ない。麗子は首を振り、一度忘れることにした。

 工場はほとんどが自動化されていて、人がいるところは、機械の調整をしたり、最後の最後の検査をするところだけだった。次第に完成していく様子を見ながら、見学していくとあっという間に時間が過ぎた。

 見学の通路を歩いていくと、先を行っていた生徒たちの話し声が聞こえてきた。

「今度は、あれ食べよう」

「こっちのこれ、めっちゃ美味しいんだけど」

「あっ、ようやく食べ放題のコーナーについた」

「こら、走らないよ」

「子供じゃないんだから」

 班員は急ぎ足で、試食が出来るコーナーに入っていった。

 試食ができる場所にも様々な窓があって、工場内の見学が出来た。しかし、生徒たちは工場の作りなどにはめもくれずに、試食可能なお菓子や、アイスに群がった。

 ここにくる頃には、麗子も朝からついてきている車のことは忘れていた。

 いくつか食べた中で一番気に入ったアイスをもう一度食べながら、工場の外を見ていた。

 晴れた空に映える高原の木々や山々。

 窓は開けられないが、きっと爽やかな風が吹いているに違いない。

 息を吸い込み、麗子は目を閉じた。

 銀色の車、そこから少し進むと、木に梯子がかけられている。

 梯子に登った男の後ろ姿。男は長いレンズのついたカメラを構えている。

 その先…… その先にはお菓子の工場が見える。

「!」

 カァ吉だ。麗子は思った。カラスのカァ吉が、ストーカー男を発見したのだろうか。

 麗子は窓からまっすぐ目を凝らしてみる。太陽の光をキラリ反射するものが見えた。

 ストーカー音がそこにいる。なぜ執拗に追ってくるのか。何が目的なのか。

「麗子はアイス何個食べた? 私これで十五個目。工場の人に『お腹壊しませんか』て言われたんだケド」

「やっぱりついてきてる」

「どこ?」

 麗子は、さっきレンズが光った方向を指さした。

「流石に見えないんだケド」

「そうよね。こんなに離れてるんだから、大丈夫よね」

「……」

 橋口が急に顔色を変えた。

「えっ? 何、どうしたの?」

「お、おトイレ行ってくるんだケド」

 橋口はお腹を押さえて、ゆっくりと歩き始めた。

 麗子は俯き、体を曲げ、膝に手をついた。試食可能だからって、食べすぎなんだよ……

「……さっさと行け」

 橋口のおトイレが少々長かった以外、お菓子の工場見学は無事に終了した。

 生徒が順番にバスに乗り込むと施設へと出発する。

 麗子は窓際の席で外を見るが、一般道なので、見えるのは対向車線だった。

 施設に着くとまた二階の窓際から外の風景を眺めた。

 麗子は今日の出来事を回想していた。

 カァ吉が見せてくれたストーカー男の後ろ姿から考えると、午前中、城で出会った男は別人だ。

 車で追いかけてくるストーカー男の目的はなんなのか。

 城で会った髭の男はなぜ『お前さえいなければ』と言ったのだろうか。

 最近のことで言えば、反感を買ったとすればバスに乗り込んできた刃物男、企業案件で逮捕に協力したマキタとかいう性的サービスのマネージャーの二人だ。どちらも髭の男とは別人。あるとすれば刃物男だ。麗子は有栖刑事の言っていたことを思い出す。これは生霊の仕業で『まだ事件は続く』と言っていた。

 もし包丁男が言っていたように『学校』に恨みがあったら、学校に取り憑くことはできない。だから包丁男のように別の誰かに取り憑いて、その人間が災いをもたらしている。そう考えると、同じ者の怨念がたまたま城にいた髭の男に取り憑き、私を襲わせた。それなら『お前さえいなければ』という意味は通じる。

 車で追いかけてくるストーカー男が生霊そのものだろうか。それともそいつも『生霊』に取り憑かれた被害者なのか……




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