空気椅子ウンコぶっしゃー
日比野健司は学校でつまらない授業を受けるとき、椅子から尻を少し浮かせて腹筋を鍛えることを日課としていた。
ずいぶん暑い日だった。額からは汗がボトボト落ちてくる。真夏の日差しが健司の額をキラキラと輝かせている。隣の洋子ちゃんが、小声で言ってくる。「健ちゃん、カッコいい」
そうだろう。そうだろう。そんなことは知っている。僕はこの教室、いや、この学校で最もカッコいいのだ。健司は心の中でつぶやく。常に自己研鑽を怠らない、選ばれた人間、それが自分なのだと。
洋子ちゃんの声によって力が増したのだろう。いつもより長い時間、自ら課した試練に耐えている。もう5分近くになろうとしていた。その時だった。
グゥ!! なんだ? 何かがおかしい。何かが体を駆け巡る。体中を電気が走る感覚。汗が急速に冷たくなっていくのを感じる。ふと、こちらを見ている洋子ちゃんの顔が目に入る。とても端正な顔立ちをした美少女である洋子ちゃんはクラスで一番の人気者だ。健司は洋子ちゃんに気に入られたいという思いで、この厳しい試練を自らに課したのだった。
洋子ちゃんの顔がゆがむのが見える。ブリュリュリュリュリュリュリュ!ブシュウウウウウウウウウウゥゥゥ。自分の体が激しいロックを奏でていた。洋子ちゃん、今日だけ僕はイギリスのロックミュージシャンだよ。最後は悲しくて切ないメロディーで余韻を残すんだ。奏でる音楽がずっと脳裏に焼き付くように。
洋子ちゃんの顔が優しくゆがみ続け、今にも泣きだしそうな感動の余韻を醸し始めた。
ああ、洋子ちゃん。大好きだ。最高のミュージックを聴いて感動してるんだね。
僕は世界一のロックスターで、世界は僕のものだ。
クラスのみんなが僕の音楽に驚愕しているようだ。全員が僕を見ている。僕の音楽に陶酔しているのだ。