表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学芸院凰雅の華麗なる日常  作者: 枕返し
1/16

学芸院凰雅と妹1

俺の名前は学芸院凰雅がくげいいん おうが。どこにでもいる普通の高校生だ。

しつこいようだが、普通の高校生だ。

特別な生まれでもなければ特殊な能力も持っていない。

隠れた天才でもないし異世界に転生もしない。

それと、初めに言っておくが普通の穏やかな生活こそが俺の望みだ。

だから目立つようなことは好きじゃない。俺は精々、筋トレさえできれば後は身の丈に合った普通の高校生活を送りたいだけなんだ。

だが運命ってやつはそんな俺にこそ事件と関わらせたがるらしい。やれやれだ。

これは平和で穏やかでありふれた生活を送りたい俺が運命と折衝していく話と言えるだろう。

 学芸院凰雅の朝は早い。毎朝6時には起きる。

 学校に行く前に軽く体を動かす習慣がついているのだ。

 毎朝の日課となっているのでやらないと気分が悪いらしく、そこでしっかりと体とコミュニケーションをとってその日のコンディションを確認する重要な時間と位置付けている。


 7時頃にそれを終えて自室で着替えていると部屋をノックする音が聞こえた。

「お兄ちゃん、朝ごは、・・うはっ、えほっ、あはっ、ごほっ。」

 そう言って凰雅の部屋に入ってくるなり盛大にえづいているのは中学生の妹だ。

 子供の頃は何をするにも兄の後を着いていくお兄ちゃん子だったが、成長するとそれだけではなくなるものだ。

「ご、ごめんなさい。私、もう、うえっ。」

 彼女は部屋から少し離れてから

「はあ、はあ、朝ご飯、できたので、すぐ、来て下さい。冷めない、うちに。」

 と釘をさす。凰雅がリビングに行くと妹の手作り朝食がならんでいた。


 兄弟の両親は、海外出張に行っているんだか何かの研究をしてるんだか、店を営んでいるのか経営している会社が忙しいのか、既に死んでいるのかなんだかよくわからないが、とにかく家に帰ってこない。

 そんなわけで兄弟二人で暮らしているのだが、凰雅は家事が得意ではないため学芸院家の食卓は小学生の頃から妹に任されていた。そのせいか、今では家事全般完璧にこなす出来た妹になったわけだ。学芸院家の生活はこの妹がいないと成り立たない。

 そのうえこの妹は中学校では生徒会会長で学級委員長でバスケ部部長である。成績優秀にして学業優秀、友人も多く非の打ち所がない。その割には天然というか妙なところで抜けていたり、ふとした時に兄に甘えたがるところがある。正に妹の鑑のような妹だ。

 その当の妹は既に自分の分の食事を済ませていて、凰雅が食べるのを見ながら冷めたお茶をストローで飲んでいる。まるでガスマスクのような大仰なものをつけながら。これも学芸院家の毎朝の光景だ。



「前から思っていたんだが、そのマスクは口にストローが入るような穴が開いていてちゃんと機能するのか?」

「はい。鼻のところとは区切られていますから。普段は口のところも閉められますし。ほんの少ししか開かないから食事とかはできないんですけどね。」

 できた妹はそのお手製のマスクの奥でニヘッと笑った。と思う。見えないからよくわからない。

 できた妹は時折マスクからフコーフコーと音をさせる。不気味だ。



 しばらくして妹が学校に行く時間になる。

「行ってきます。」

 鞄を手に取った妹は凰雅に頭を突き出す。

「こんなところ、学校の子に見られたらどう思われるだろうな。あの学芸院さんが、ってなってしまうんじゃないのか?」

「いいんです。私は私ですから。皆が勝手に私のことをしっかりしてると思ってるだけで、私は全然しっかり者ではありませんから。」

 凰雅はやれやれと言いながら突き出された頭を優しく撫でる。

 これも毎朝のことだ。その度マスクからひと際大きくフコーフコーという音が聞こえてくる。これも毎朝のことだ。

「このマスク、うるさいですよね。凄く邪魔だし、匂いもわからないし。きっともっといい物を作って見せます。」

「ああ、そうだな。それに、他にも何か方法があればいいんだけどな。」



 妹がこんなマスクをしているのには理由がある。

 昔はいつも兄の凰雅にくっついて体を擦り付け、凰雅の匂いを嗅いでは喜ぶ妹だった。

 だが小学生の高学年になったころから凰雅の匂いを嗅ぐと咳き込むようになってしまった。

 年頃の娘は繁殖において避けるべきである遺伝子的に近い父親等の匂いを臭いと感じるようになるというらしいが、どうやらその延長線で兄の匂いがダメになったようだった。

 この妹はその度合いが尋常ではなく、毒ガスでも吸ったのかというくらいの拒絶反応を示す。

 それでも兄の事を嫌いにならずにいるのだから不思議だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ