出会い side翔誠
辺りはもう真っ暗だ。
どれほどあの公園で黄昏ていただろうか。
「はぁ…」
門限をまたすぎてしまった。これから家に帰ってまた殴られると考えると頭が痛くなる。俺の家は母親が小さい頃に浮気して出ていってから、父、姉、俺、弟の4人で暮らして居る。その姉も、来月には県外へ嫁ぐんだが。父と血縁関係の無い姉と俺は幼い頃からずっと暴力を振るわれていた。当たり前だと思っていた。お父さんのパンチは教育だ、殴られて当然のことをした自分が悪い、お父さんの機嫌を損ねてはいけない。そんな異常な家庭環境に異常だと気付いてから1年は経った。弟は甘やかされて育ったから当然の様にクソガキだ、すぐに俺と姉をハメる。そんなクソみたいな生活でも、姉と2人だったから苦しくても乗り越えてこられた。正直姉がいなくなったらとてつもなく淋しいが、姉もようやく父からの束縛から解放され、将来が見えてきたのだから、何としても応援したい。
「俺って、なんで生きてるんだ?…」
異常にきずけたはいいものの、父に逆らえるはずがない。進路までも自由に決めさせて貰えず、お年玉も全て奢らされた。遊びになどは2ヶ月に1回行けたらいい方だ。基本家事をやらなければいけないのだ。
『ブーーーーーン』
蝉が横切った。大きな声で鳴いていた。
俺は蝉にすらなり損ねた。何年も何年も耐え抜いたのに、結局は翔ぶことすら出来なかった。飼われる蝉のように、籠の中で生涯を閉ざすのだ。
それならばいっそ、自分で幕を閉じた方が、自由に生きられたと言えるのではないか。
信号は赤く光り、過ぎ去る車は夜道を照らす。
(綺麗だなぁ…)
俺は目を閉じ、大きなため息をひとつつき、ゆっくりと目を開け、その鮮やかな赤に吸い込まれるように道路に足を踏み入れた。