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7月7日の憂鬱   作者: 塩ウサギ
23/27

最終話 私のエピローグ

遂に最終回です。今まで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございます。多分番外編書くので終わりはしませんが。

瞼がやけに重い。眠い、とかそういう意味じゃない。腫れているせいで開きづらいのだ。当たり前だ、何しろ昨日は身体中の水分が目から流れ出たのだから。

7月8日の月曜日。学校に行かなければいけない時間なのは分かっているが、どうにも気が向かない。失恋ってこんなに辛いものだったのか。……でも、そんなことは言っていられない。私は由梨ちゃんの親友なのだから。

「行ってきます」

昨日の大雨が嘘のように晴れた空の下、私は家を出た。

LINEの通知が鳴った。画面を見てみると、ハルちゃんからだった。

『何で笠木君の机が無いの?転校したの?』

……笠木君って、誰だろう。クラスメイトの顔と名前を思い出せる限り浮かべてみたが、「笠木君」らしき人はその中にはいなかった。

『ごめん、わかんない』

私にはそう返信するしかなかった。駅前のスーパーの前を通ると、カボチャコロッケの美味しそうな匂いがした。確か、由梨ちゃんに好きな人がいると聞いた日に買った。でも、あの日は食べ損ねて……あれ、何で食べて損ねたんだっけ。

何故だか思い出せなかったが、そのうちどうでもよくなって私は学校に向かった。

学校に着く。カボチャコロッケの匂いのせいで、私は妙にお腹が空いていた。購買で何か買おう。そう思って、制服のポケットを探ったその時だった。

「真帆ちゃん、食べる?」

小鳥の鳴くような綺麗な声に、黒糖の香ばしい匂い。振り向くと、やっぱり由梨ちゃんだった。購買で人気のかりんとうドーナツの袋を持って嬉しそうに笑っている。綺麗だ。可愛い。大好き。──いや、そんな言葉じゃ足りない。

「食べる!」

今の私にはその気持ちの名前が分からない。仕方なく今出来る精一杯の笑顔で言った。ちゃんと笑えてますように、と願いながら。


教室に入ると、明らかな違和感があった。真帆の席の隣に机が1つ足りない。笠木君の場所だ。どういうことなのか真帆にもLINEで聞いてみたが、彼女も分からないらしい。後から教室に入ってきた他のクラスメイトも、まるで何も無かったかのように振る舞っている。

確かに彼は不思議な人だった。変な時期に転校してくるし、いつ見ても寝癖が酷い。でも、流石にこれはおかしすぎる。何故みんな彼を忘れているのだろうか。そして、何故私だけ彼を覚えているのだろうか。何故笠木君はいなくなってしまったのだろうか。私の心臓の高鳴りだけを残して。

──こんなことなら、忘れたかった。

この淡い気持ちが恋なのか、私にはまだ分からなかった。

「おはようハルちゃん!かりんとうドーナツ食べる?」

ドアの開く音と同時に由梨の呑気な声が私を呼んだ。その隣にいる真帆の目は何故か腫れている。

「……うん」

この気持ちの名前が何なのか、私には分からない。

まだ由梨ちゃんを諦められないのに、彼女の幸せを願わずにはいられない気持ち。

突然いなくなったクラスメイトを待たずにはいられない気持ち。

大好きな親友達と一緒に美味しいものを食べられることへの幸福。

たった1つだけ、しっくり来る言葉はあった。ただ、それは口にするにはあまりにも恥ずかしくて、またあまりにも甘ったるいものだった。

──愛してる。

私はその言葉と一緒にかりんとうドーナツを口に入れた。目の前にいた二人も同じような表情をしていたのは、きっと気のせいだ。多分。

最後の方の「たった1つだけ~」が誰視点なのかは特に決めていません。色々当てはめて読んでみてください。

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