第十話 どうして
1日に二話も投稿しましたが、話はそんなに進んでません。文章書くのって難しいですね。
私が自分の席に座らず呆然と立ち尽くしていると、背後で教室のドアが開く音がした。反射的に振り返ると、そこにいたのはハルちゃんだった。
「…ハルちゃん、」
苦しい。辛い。分からない。助けて。言いたいことはたくさんあったのに、そのどれも口から出ることはなかった。
私に向けられていたクラスメイトの視線が、一気にハルちゃんに向いた。さっきまであんなにうるさかったのが嘘のように、教室は静まり返った。
しかしハルちゃんはその視線を薙ぎ払うように私の席まですたすたと歩き、花瓶を持って教室を出ていった。
─嘘だろ、あいつ。空気読めよ。春川さんだっけ?良い子ぶりっ子かよ。
さっきと同じようなざわめきが、私の脳を揺らした。やっとの思いで顔を上げると、さっきまでいたはずのデネブがいなくなっていた。
…ハルちゃん、どうして。
私はそこでようやく教室を出た。花瓶を持って出たということは、水を捨てるつもりなのだろう。水飲み場に行くと、案の定ハルちゃんがそこにいた。
「ハルちゃん」
私が呼び掛けると、彼女はゆっくりと顔を上げてこちらを向いた。
「…真帆?何で?」
「何でって…ハルちゃんこそ、どうして…」
私なんか助けたの、と続けようとしたが、ハルちゃんは遮った。
「真帆。あれ、何?」
彼女の言う「あれ」が何を指しているのかは、察しの悪い私でも容易に分かった。クラスメイトの反応、私が同性愛者という出所の分からない話、机の上に置かれた菊の花。恐らくその全てだろう。
「わかんない。でも、もう私に近付いちゃ駄目だよ」
「…どうして」
どうして、と言われても私にもよく分からなかった。まず、誰が私が同性愛者という話を広めたのか。これは私の他にはデネブしかいないはずだ。…いや、そんなことどうでもいい。彼女が聞いているのは「どうして近付いちゃ駄目なのか」だ。
デネブは私にも危害が及びそうになったと分かった途端、私から離れようとした。きっとそれと同じだ。自分が辛い思いをしているなら、周囲に同じ思いをさせたくないと思ってしまうのだろう。何より、彼女は私の友達なのだ。
「ハルちゃんもああなるのは私も嫌だ」
今の私にはそれしか言えず、何とか笑ってみせるしかなかった。
「…私だって嫌だよ」
今にも泣きそうなのに泣かないハルちゃんを、私は結局どうすることも出来なかった。
「そういえば、真帆」
「何?」
「笠木君ってその…オカルトとか好きなの?」
「…は?」
予想外の言葉に、私は間の抜けた声を出してしまった。
「さっき笠木君、私のこと呼び止めて『クラスメイトが天界に洗脳された』とか『春川は大丈夫なのか』とか変なこと言ってて…」
「洗脳…」
私はことの全てを理解した。つまり今朝の一連の出来事は天界からの宣戦布告に過ぎず、彼らはクラスメイトを使って私を殺す気なのだろう。
「大丈夫だよハルちゃん。あいつ、変だけど良い奴だから」
そう言って教室の方へ体を向けると、ひどい目眩に襲われ──意識が遠のいた。
ここにいなかったはずの由梨ちゃんの声が聞こえた気がした。




