1.コマドリの歌
冬の童話祭2019提出作品です。よろしくお願いします。
あるところに”逆さ虹の森”と呼ばれる森がありました。
その森の空には、それは美しい七色のすじが入ったお椀のような逆さの虹がかかるのです。
昔からの言い伝えでは、逆さの虹が出るとよいことがあるといわれています。ですから、逆さ虹の森では動物たちが、とても平和にくらしていました。
そんな動物たちの中に、クマとキツネが住んでいました。
クマは茶色のかたい毛でおおわれた大きな体をしていました。お尻には短い尻尾が生えています。反対に、キツネは柔らかな黄金色の毛並みで、体は小さく、長いしっぽを持っていました。まったく、大きさの違う二人でしたが、クマとキツネはとても仲良しなのです。
ところが、ある日、キツネが友だちのクマの家に遊びに来た時のことです。
「あ~ん、あ~ん、悲しいよぉ」
クマが大きな体をゆらして、泣いているではありませんか。キツネは驚いてクマに駆け寄りました。
「クマくん、どうしたの。 なんで泣いてるの」
「アライグマくんが、ぼくをいじめるんだ。お前はそんなに大きな体をしてるのに、どうして弱虫なんだって」
たしかに、クマの体は、一見しただけでは、とても強そうでした。それなのに、心はとても優しく、しかも怖がりやだったのです。ですから、暴れん坊のアライグマにいつもいじめられてしまうのです。
お人好しのキツネは、クマをどうにかして助けてあげたいと頭をひねりました。
「う~ん」
すると、いいことがひらめきました。
「クマくん、どんぐり池に行ってみようよ! あの池には水の神さまが住んでいて、どんぐりを投げ込んで、お願いすれば、願いがかなうって噂だよ。そこで、”怖がりやが治りますように”って、お願いするんだ」
「どんぐり池? でも、どんぐり池に行くには薄暗い森の道を歩いてゆかないといけないんだ。それに正直者でないと願いはかなわないんだって噂だよ」
「この森でクマくんは一番の正直者じゃないか。クマくんなら、ぜったいに大丈夫!」
「そうかなぁ、でも、薄暗い森の道で、お化けが出ないかなぁ。やっぱり怖いなぁ」
「おいらと一緒なら、怖くなんてないよ。今から、おいら、綺麗などんぐりを集めてくる。だから、クマくんは出かける用意をして待ってて!」
* *
キツネとクマは、キツネが集めてきたどんぐりを籠いっぱいににつめて、どんぐり池をめざしました。
出がけに降った雨はすぐに止んで、空には綺麗な逆さの虹が見えていましたし、森の道は少し暗いくらいでお化けも出ませんでした。
「この道って、二人でおしゃべりしながら歩くと思ったより、怖くないね」
キツネとクマはそういって顔を見合わせて笑いました。
……が、やっかいなのは、どんぐり池の入り口にある”ねっこ広場”という場所でした。
ねっこ広場には、天をつくような大きさのとても古い木があって、その大木のねっこが、広場じゅうに広がっていました。広場の地面を突き破って地上に出ている、たくさんのねっこは、まるで、巨大な老人の指のようで、とても不気味でした。
おまけに、そこで嘘をつくと、太いねっこに捕まってしまうのです。
ねっこ広場の入り口に来た時、キツネがいいました。
「クマくん、ここでは、ぜったいに、嘘をついてはいけないよ。ねっこに捕まって二度と放してもらえなくなるから。でも、おいらは心配だなぁ。話しているうちに、うっかり嘘をついてしまいそうだ」
「キツネくんは、そんなに嘘をつくの? そんな風には見えないけど」
「う~ん、時々は……ね」
そういって、キツネは頭をかきました。なぜなら、キツネは、すでに、ここに来る前に、クマに嘘をついてしまっていたのですから。
『おいらと一緒なら、だいじょうぶ! 何があったって、怖くなんかないよ!』
と、いってクマを元気づけたものの、キツネは本当は怖かったのです。とくに、このねっこ広場は。
もじもじしているキツネ。それを見かねてか、クマは口もとに両手をあてて、いいました。
「なら、こうやって二人とも口を手で押えて、ねっこ広場を抜けようよ。これだったら、うっかり嘘をつくこともないでしょ」
「いいね! けど……ちょっと待って、口を押えてたら、嘘はつけないけど、話もできないよ」
それもそうだと、クマは恥ずかしそうに笑いました。
クマがいいました。
「そうだ、いいこと思いついた。何か楽しい歌を歌おう!」
キツネもいいました。
「そうか! それだったら、嘘もつけないし、元気もでるよね。何の歌を歌おうか?」
その時、二人の頭の上に、歌上手なコマドリが飛んできて、こんな歌を歌いだしたのです。
♪さかさ虹の森は不思議の森
ねっこ広場で嘘つかず
どんぐり池にどんぐり投げて、
ねがいをかければ 奇跡がおこるよ♪
二人は、その歌をとても気に入りました。そして、コマドリと一緒に大きな声でその歌を歌いました。




