01 転生したら女神。
ハロハロハロ
久々に乙女ゲーネタです。
青い神様は、あのキャラ!
誰だかわかった人はすごい!
20181126
「この世界の女神になって」
「はい?」
「ありがとう!」
「ちょっと待って! 今のは疑問形!」
それは朧げな視界。
青いという印象を抱く幼子の姿の神様と会話した。
顔はよく見えない。でも男の子だということはわかった。
「僕、色んな世界を掛け持ちしているんだよね。だから今回は転生者に女神になってもらうことにしたんだ。おめでとう、選ばれたのは君だ! 生前、君が愛した物語の世界だから大丈夫! 君なら愛せるよ。頑張ってね。じゃあね」
待ってください!
そう言いたかったのに、声は出ない。
それから記憶は、途切れた。
待って? 私が転生者ってことは死んだの?
まずは死の告知からしてください、神様!
そして承諾を得てください、神様!
ああ、神様!
愛されたい人生だった。
けれども、誰かを愛せるほど器用ではなかった。
そして、あまり自分を好きになれなかった。
鏡に映る自分は、嫌いだったのだ。その顔嫌い。
自分を嫌う自分自身も嫌いだ。すごく嫌い。
目を背けるように、物語を読み更けた。物語に触れている時だけが、至福の時だった。そして、愛せるものを見付けた。物語だ。
マンガやゲーム。様々なものが、私の目を輝かせてくれた。
美しい景色、熱い友情や愛情。体験させてくれたのは、物語だけだった。
だから、私は物語を愛した。きっと、人生で使う分の愛を注いだ。
特に一番愛したのは、RPG型乙女ゲームの世界。
冒険をしつつも、恋愛シュミレーションが出来るゲーム。
ゲームの名前を【紅い満月のグラナルナ】、その世界の名前を【グラナルナ】という。
ーーーー私は、紅い満月から落ちた。
血のように深紅の大きな満月から、落下していく。
でも地上に着く前に、カッと光が瞬いた。
世界中に広がっていくように、光が包み込んだ。
気付けば私は、草原に横たわっていた。
くすぐったい草の上。でもなんだか眠くって、私はゆっくりと意識を手放す。空は夜明けなのか、赤みを帯びつつ青さが呑み込んでいく。その光を目にしながら、瞼を閉じた。
次に目を開いた時、私はベッドの上にいた。
木造の家の部屋にいるようだ。
起き上がってみれば、自分の身体が小さいと知る。
幼子だ。幼い女の子の姿になっている。
小さな手足。服はダボダボのシャツなのだが、大きすぎてオフショルダーのワンピースみたいになる。その中には、深紅のタンクトップを着ている。
髪の毛はお尻に届くほど長く、毛先は真っ赤、全体的に月光のような淡い白い髪色。
頬のお肌は、ぷにぷにのもちもち。
ちょっと熱っぽいのは、子ども故だろうか。
とりあえずここがどこかなのかを調べようと、ベッドから這い出る。
短い足で床に立つ。素足なので、木造の感触を直に味わった。
横に赤いブーツがある。私のだろうか。履いてみれば、ぴったり。
唯一あるドアに歩み寄り、ギリギリ届く高さのドアノブを掴んだ。
「おっ! 目が覚めたぞ!」
「よぉ、お嬢ちゃん! 大丈夫か?」
「立ってるなら平気だな!」
ドアを開いた先にあったのは、店だった。
丸いテーブルがいくつも並んであって、椅子に座っているのは大柄な男の人ばかり。ビールみたいな匂いがした。呑んでいるようだ。なんか酔ってしまいそう。
「あ、あの、私……」
「お嬢ちゃん! よかった、目が覚めたんだね! “黄昏の草原”に倒れたって、覚えているかい?」
ウエイトレスなのか、トレイを持った赤毛のお姉さんが話しかけてきた。そばかすを見て、どこか覚えがあるように感じたが思い出せない。
でも“黄昏の草原”は思い出せた。ゲームの中で表示されていたエリアの一つだ。
この世界が私の愛した【グラナルナ】だという事実を呑み込んだ。
そして私はーーーー女神だ。
「しっかし、あの光はなんだったんだろうな?」
「謎の光だよな」
「原因探そうとしたら、このお嬢さんがいたんだよな」
放心している私に、視線が集まる。
「お嬢ちゃんが魔法か何か使ったのか?」
「まっさかー!!」
否定して笑い声が上がった。
「あ、あのっ!!!」
私は勇気を振り絞って、告げる。
「私はこの世界の女神ですっ!!!」
思ったより大きな声を出してしまい、店内は静まり返った。
ドキドキと心臓が高鳴って、それが響いてしまいそう。
そんな胸を押さえた。しかし。
どっと沸き起こる笑い声。
店内は、また賑わった。
「お嬢ちゃんがこの世界の女神だ? あはは!」
「面白いことをいうじゃないか!」
「オレ達女神を拾ってきたのか! 何か幸運が起きればいいな!」
ゲラゲラと笑う大人達は、冗談だと思っている。
「あのっ! 本当に私、女神なんですけどっ」
どの辺がと問われては答えられないが、私は神様からこの世界の女神を賜った。そういえば、女神って何をすればいいのだろうか。
私の声は届かず、あっちこっちで沸き起こる笑い声に掻き消されてしまう。
そこでウエイトレスのお姉さんが、目の前でしゃがんだ。
「お嬢ちゃん、名前は?」
「名前は……」
名前なんてない。前世の名前が一番に浮かんだが、それも嫌いだ。
そうだ。名前なんて好きに使ってしまえばいい。例えば、ゲームに使っていた名前なんてどうだろう。
「私はリシー」
「そう、リシーの親はどこにいるの?」
「……親は……いない……」
笑い声が、どんどん消えていく。
「なんだ、お嬢ちゃん、孤児か」
誰かが言った。
一人の男の人が歩み寄ってきたが、私は顔を伏せている。
寂しいと思った。親がいない。家族も友だちもいないのだ。
もう会えないのだ。
その事実がどうしようもなく、胸の中を引き裂く。
愛してほしい人生ではあったが、その存在があったことに感謝している。
ああ、どうしよう。泣いてしまいそうだ。
「顔を上げろ、リシー。オレにはお前と同じくらいの子どもがいるから、泣かれると困るんだ。ほら、笑った顔を見せてくれ」
頭の上にそっと置かれた掌。
顔を上げて、見覚えのある顔にポッカンとした。
「ん? オレの顔に何か付いているか?」
強いて言うなら、顔がついています。
いや何を言っているんだろうか。
「アレックスさんに惚れちゃったんじゃない?」
なんてウエイトレスのお姉さんがからかう。
「悪い、オレ妻がいるんだわ」
ニカッと笑って見せる顔。
私が一番心惹かれた“彼”のものとそっくりだ。
でもアレックスなんて名前ではない。
海の底のように深い青の髪、爽快な青空のような明るい色の瞳。
攻略対象の一人であり、私が愛してやまないキャラクター。
ノーティス・ルナーレ。
その人にとてもつもなく似ていた。かっこいいよりも綺麗と表現する方が、しっくりくる顔立ち。
アレックスと名前、そして私の知っているノーティスよりも歳上らしい。それから推測するに彼はきっと。
「も、もしかして、息子さんの名前はノーティスですか!?」
「なんでオレの息子を知ってるんだ? ああ、友だちなのか? オレ似なんだよな、ノーティスの奴」
またニカッと、今度は嬉しそうに笑った。
衝撃を受ける。この人、私の愛しのノーティスの父親だ。
「じゃあここって……“ナナリーの鍋”!?」
「あれ、知ってるじゃん。そうあたしの店だよ」
「!?」
ニィと笑って見せるウエイトレスのお姉さんが、女亭主のナナリーさん。
しかし私が知っている姿と異なる。もっと豊満な体型だった。どん! どん! どーん! なボディーだったのだ。そばかすは同じだけれど。
「どうしたの? 驚愕したって顔しちゃって」
ナナリーさんは首を傾げた。
「つまり……ギルド、【満月の夜】!?」
「そう! オレ達ゃ、かの有名な【満月の夜】ギルドだ! そしてオレはこのギルドのマスターをやっている、アレックス・ルナーレだ!」
ノーティスの父親であるアレックスさんが、胸を張って見せた。
冒険者が集うギルド。
「有名かぁ?」とツッコミと笑いがそこかしこで聞こえてくる。
ああ、有名だとも。【紅い満月のグラナルナ】に登場するギルドだ。
そしてアレックス・ルナーレは、歴代最高のギルドマスターと名高い人。
ゲームの中ではーーーー……彼は死んでいるのだ。