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1話 昇級祭

 王都冒険者学園が月に1回開催する【昇級祭(フェスティバル)】の新人戦。

 開始から3時間が経った今、いよいよ終盤を迎えつつあった。


 学園の広大な敷地の地下には様々な地形(ステージ)があり、対人、対魔物を想定した訓練場が存在し、そこが昇級祭(フェスティバル)の戦場となる。

 新人戦は1年生の希望者で争われ、今回の参加は50人だった。


 冒険者たるもの、恩恵(ギフト)がないと厳しい戦場を生き抜くことは出来ない。

 皆、様々な恩恵(ギフト)を駆使し、この昇級祭(フェスティバル)で凌ぎを削っている。


『マリア・ナードの攻撃でジョージ・サンダースが失格となりました。残り9名です』


 昇級祭(フェスティバル)運営委員のアナウンスを聞きながら、コル・バルールは独り言ちる。


「さすがマリア……」


 参加者には計測器(メーター)と呼ばれる魔道具が渡され、生命力の半分を割るか戦闘不能、又は封鎖区域への立ち入りで失格となる。 

 そして参加者上位5人に報酬が出るので、基本的にパーティーを組んで参加するのが主流だ。

 前衛、遊撃、後衛、回復と、各々の弱点を補い合う構成が最も多い。


 級位と呼ばれるものが報酬となり、学園内での待遇改善、ランクアップ、試験の免除に活用される。


 そんな中、マリアはソロで参加してここまで圧倒的な強さを見せつけていた。

 失格者41名の内、マリアがキルしたのが25人。

 今回の昇級祭(フェスティバル)新人戦における大本命が彼女なのだ。

 入学から4か月、マリアは前回、前々回と2連覇している。


 そしてもう1人ソロで参加しているのがコルだ。

 初参加でなおかつE(ランク)のコルなど誰が気に留めようか。

 底辺(ランク)のくせにソロでの参加と言う意味では目立っていたのかも知れないが。 


 しかし今現在になってみると、観衆は否応にもコルを無視できなくなった。


 コルがE(ランク)で生存している事もあるが、開始からずっと同じ場所で狙撃を繰り返していたからにほかならない。

 圧倒的な力量で他を斬り伏せる王道剣士のマリアとは対照的な戦闘スタイルだ。

 コルをあなどっていた者たちには信じがたい光景でもあった。


 昇級祭(フェスティバル)はいたる所に精霊を配し、その視野を映写機(ビジョン)と言う魔道具に反映し共有している。

 これにより観衆は参加者の動きを把握でき、様々な視点で観戦できるのだ。


 学園のカフェに設営された大型ビジョンで観戦する生徒からは疑問の声があがっている。

 何故ならS(ランク)クラスのマリアとは正反対に、最低のE級クラスに所属するコルがここまで戦えているのが不自然であるからだった。


「ちょっと待て、あのバルールって奴は確かE級だったよな?」

「ああ、あいつは確かにEだ。なんでそんな奴があんな狙撃できるんだ……」

「きっとあの銃がものすごい性能なんだろう。いや、そうに違いない」

地形(ステージ)が封鎖されればすぐにキルされるだろ。運が良かっただけだ」


 学園でも最底辺クラスのコルが、好成績で生き残っている現実を受け入れられないようだ。

 マリアには及ばないものの、コルはそれに次ぐキル数を稼いでいる。

 しかもその戦い方は常軌を逸している。

 とてもじゃないがE(ランク)恩恵(ギフト)によるものとは考えられないのだろう。

 だから超人並の狙撃は、それを可能にするライフル銃が凄いとの結論が多勢を占めた。


 そんな事などお構いなしに、またしてもコルの精密遠距離狙撃で脱落者が増える。


「見つけた」


 風魔法で索敵を行っていたコルは敵の気配を感知する。

 市街地と隣接する森林地形(ステージ)に人影が見えた。コルとの距離はおよそ600メートル。

 普通の銃使いではライフルであっても弾丸を到達させる事すら不可能だろう。

 ビジョンを通して見てもそれは明確に判断できる。


 コルは流れる動作でライフルを構え、間髪いれずに引き鉄を引く。

 その瞬間、銃口と標的を結ぶように風魔法による道ができた。


 『パシュッ!』っと微かに聞こえる銃声。


 結果、1秒の間も置くことなく標的に弾丸が命中した。

 風を上方に拡散し銃声を限りなく無音に近づけている。


『コル・バルールの攻撃でヨアキム・トッドが失格となりました。残り8名です』


 その瞬間、カフェで観戦する生徒の間に何回目かのどよめきが起きた。


「見たかよ今の……あの距離で狙撃を成功されたら無敵じゃねえか、しかも銃声もしないんじゃどこから撃ったのかも分からないぞ」

「本当にあいつはE(ランク)なのか?」

「もしかしたらマリアは3連覇できないかもしれないぞ」

「いやいや、さすがにマリアには勝てないだろう」


 驚くのも無理はない。

 魔法ですら最大射程は精々200メートル。

 一般的な銃使いの狙撃で250メートルが限度なのだ。

 当然であるが、射程が伸びればそれに比例して命中精度は落ちる。

 それに命中したからと言って、ダメージを与えられるとは限らない。


 コルが見せた能力は誰もが目を疑って当然だった。


 外野のざわめきをよそに、昇級祭(フェスティバル)は佳境を迎える。

 市街地地形(ステージ)の一番高い廃墟アパートの屋上にコルは隠れていた。

 そこから平原は丸見えで、山岳地形(ステージ)も射程圏内だ。

 森林の中は見えないが、それでも隙間を縫って射撃を通す事ができた。


 これまでに封鎖された地形(ステージ)は、平原、山岳、渓谷。そして今は市街地が主戦場になっており、残すは森林のみとなる。

 制限時間を過ぎて封鎖区域に留まる事はできない。


 廃墟アパートに隠れコルは風魔法での索敵をかけた。

 姿こそ見えないが、森林への最短ルートに敵がいる。

 これまでの状況から推測するに、近接戦闘に特化した4人組のパーティーだろう。

 うかつに近づけば、魔力(マナ)の揺らぎで感知されかねない。


『あと1分で市街地地形(ステージ)が封鎖されます』


 戦場にアナウンスの声が響く。

 コルはギリギリまで4人組が移動するのを待ったのだが、どうやら彼らにその意志はない。市街地から森林へ逃げ込む参加者に狙いを定め、迎撃かあるいは妨害をする作戦なのだ。

 そう判断したコルは、少しだけ考えてから行動にうつす。


「最後にこいつを試すか」


 そう一言呟くとジャケットの内側から銃弾をひとつ取り出す。

 通常の銃弾ではなく魔法を封入した属性弾だ。

 ボルトレバーを手前に引き薬莢を排出させて装填した。 


 距離はおよそ300メートル。狙うは4人組の背後。

 精神を鎮め集中し、スコープを覗き指先を引き鉄にかける。


 短く息を吸いこんで呼吸を止めた。


 次の瞬間、静かに引き鉄が引かれたのとほぼ同時に、4人組の背後で爆発が起きた。

 まるで中級の炎魔法でも使われたかのような威力だ。


 衝撃を受けたパーティーは市街地ステージへと吹き飛ばされる。

 それを確認したコルはライフル銃を背中に回し、アパートから飛び降りた。


『コル・バルールの攻撃でジェフ・マッキンリー率いる【漆黒の牙】計4名が失格となりました。残り4名です』


 風魔法で衝撃をなくし、何事もなく着地する。同時に自分が攻撃した4人全員の失格を確認した。


 そして間髪いれずに次のアナウンスが流れる。


『マリア・ナードの攻撃でジョナタン・スペーサー率いる【乙女組】計2名が失格となりました。残り2名です』


 この時点で、コルの目標は達成されたと言っていい。これ以上の戦闘は意味がなかった。


 事前に交わしたマリアとの約束があったが、コルにそれを守る気はないし、そもそも約束の了承もしていないのだから。

 とは言え、この後マリアに詰問されるくらいは覚悟しておく事にする。


 そんな事を考えながら、コルはその場に留まって時間が来るのを待った。


『封鎖ステージ侵入によりコル・バルールが失格となりました。優勝はマリア・ナード!』


 こうして3連覇を果たしたマリアは更なる名声をあげ学園の話題を独占した。

 そしてE(ランク)で2位になったコルにも、少なくない注目が集まるのだった。

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