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ささくれ黙示録 ~ショートショート集・ソノ1~

ショートショート038 事前調査

作者: 笹石穂西

 ひとりの男が、ある民家への侵入をたくらんでいた。目的はもちろん、泥棒のためだ。


「半年がかりの計画だ。ぜひとも成功させなくては」


 男は、下水道のなかでそうつぶやいた。これまで、ねらいの家のことを探ると同時に、苦心して下水道の構造を調べてきた。そうしてようやく、この侵入ルートを見つけたのだった。


「ちょうど正午だな。父親は会社、母親は友人とのお茶会で、子どもは学校。いまは誰もいない頃合いのはずだ。念のために、もう一週間もここに潜伏して様子を見た。そろそろ大丈夫だろう」


 男は、調査は完璧なのだ、見つかるはずがない、うまくいくさと言いながら、ハシゴをのぼって慎重にマンホールを開け、頭を出して周囲の様子を探った。そこは小ぢんまりとした一軒家の庭で、あたりには誰もおらず、しんとしていた。事前にしっかりと調べており、分かっていたこととはいえ、男はほっと胸をなで下ろした。


 ゆっくりと下水から這い出て、背負っていた道具を使い、庭に面しているガラス戸の鍵を開ける。この時間帯は、周囲の家も人の出入りが少ない。男は当然そのことも調べており、だからこそ、この時間を選んだのだ。


 無事に侵入に成功した男は、いちばん奥にある部屋へと向かった。ドアや窓のない部屋で、そこのタンスの奥に秘密の金庫がある。窓がないから、ここが安心だと思ったのだろうが、運が悪かったな。父親がバーで酔ってしゃべり、おれのような人間に盗み聞きを許してしまったのが、失敗だったのだ。


 タンスの奥をあさると、あんのじょう金庫があった。鍵の構造を見てみたが、さいわい、解錠はかんたんにできるタイプだった。


 開けるのに特殊な器具がいるタイプだったら、一度撤退して準備をととのえなければならないところだった。当然そういう可能性も想定していたのだが、これはついている。侵入という大きなリスクを負う回数は、なるべく少ないほうがいいからな。


 そんなことを思いながら、男は金庫を開けようとした。


 そのとき、どこからか人の声が聞こえてきた。


 男はびくっと体を硬直させ、何事かと身構えた。耳をすませると、表のほうがなにやら騒がしい。何を言っているのかまではわからないが、ずいぶんとものものしい雰囲気が伝わってくる。どうやら、おおぜいの人間が走っているようだ。


 もしや、ばれたのか。いや、そんなことはありえない。事前調査は完璧だし、このタイミングでばれるはずがないのだ。だが、もしそうならば、今すぐ逃げなければならない。


 男はそんなふうに焦っていたが、かと言ってどうすべきかはわからなかった。なにしろ、侵入してきた下水の入口は、声が聞こえるほうにあるのだ。安易に脱出をはかれば、それこそ捕まりかねない。


 外の様子をうかがってみたいところだが、この部屋にはあいにく窓がない。それに、外をのぞけば、不法侵入がばれる危険がある。何があったのかはわからないが、もう少し、様子を見るべきだろうな。


 それに、あんがい、近所の子どもが盛大ないたずらをして、怒られただけかもしれない。きっと、そんなところだろう。事前調査は完璧なのだ。こんなところでへまをやらかすはずがない。


 男はそんなふうに考え、その部屋にじっと身を潜めた。声はすぐに聞こえなくなったが、それでもしばらく警戒を解かなかった。


 そうして数分がたったそのとき、突如としてまぶしい光が男の目を焼き、そして全身を焼いた。




 数時間後、国中がその報道で大さわぎとなっていた。


〈……住宅街で今朝十時ごろに発見された大型爆弾は、昼すぎに爆発し、半径百メートルの住宅が破壊されました。テロの予告を受け、ほとんどの住民は昼前には避難を完了しており、また解体処理班も爆発直前に脱出できましたが、残念ながら、家屋の中から一名分の身元不明の遺体が見つかりました。時間が足りず、在宅者の調査にもれがあったのではないかと見られ、警察では原因の究明にあたっているとのことです……〉 

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― 新着の感想 ―
[一言] 読ませていただきました。 これは事前調査ではわからないことですし、運が悪かったのは泥棒の方でしたね。
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