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徴兵選別

俺はこの小さな宿屋で働くごく普通の一般人。唯一変わってるのは宿屋の主人である父さんの本当の息子じゃない、つまり養子って事くらいだ。でも幸せだったよ。ーーこんな所に連れて来られる前まではな。



「おいレイマ、今日は徴兵選別の日だぞ。早く起きて教会に行ってこいよ」


そう、この王国では15になると年に一度教会で行われる徴兵選別に行かないといけない。内容はシンプルで神官様に魔力適正レベルを診断してもらうだけ。そしてレベルグリフィンなら見事魔法訓練学校へ、ペガサスなら一気に上級兵士に、フェニックスなら戦争で死ぬ事はほぼない、ドラゴンなら英雄レベルだ。まあ、俺達みたいな普通の人間はグリフィンの下のレベルゴブリンと診断される。だがいくら最低レベルと言っても近くのものを動かしたりと使える魔法もある。稀に神官様に金を渡してゴブリンと診断されたグリフィンの人を見る事もある。

つまりは兵士となるか国民となるか診断するというものだ。


「じゃあ行ってくるよ父さん」


「どうせ落ちるだろうから気楽に行ってこい」


準備を済ませた俺は皮肉に苦笑いを零し、レンガ造りの宿屋を飛び出す。教会に着くとそこにあるのは町中の15歳男女の大行列だ。父さんによると選別が始まる3時間前から並ぶ人もいるらしい。仕方なく最後尾の方へと足を進め、目的地の見えない行列の人並みを見て俯く短い黒髪の少女の後ろへと並んだ。



「あ、あの、たくさん並んでますね〜」


1時間ほど経ってもまだゴールが見えない。そこで俺は少しでも暇つぶしをしようと勇気を出して黒髪の少女に話しかけてみた。

ーー返事がない、おそらく聞こえなかったのだろう。女性に話す機会ことなど宿屋に泊まりに来るおばさん達の雑談に付き合うくらいしかなかったものだから、俺の退屈に気まずさと虚しさまで押し付けられ、心が蝕まれていくような気持ちになった時だった。


「すいません、さっき私に話しかけました?」


少女に言葉が届いていたことにほっとし、異様に体が軽くなった。


「えっと、退屈すぎてそろそろ限界だったからさ」


「そうでしたか、実は私もです。あと3時間はかかるんじゃないでしょうか」


今まで並んだ時間のさらに3倍もかかるなんて、もう低い声で笑う以外なにもできなかった。なぜそこまで時間がかかるのか少女に訪ねると、少女は今までの退屈を発散するように手を大げさに使いながら説明してくれた。なんととある魔法使いの一団がこの町に引っ越してきたらしい。その数が3000にも及ぶとのことでその少なくとも100人は今年15となり、彼女もその1人らしい。それに魔力適正レベルが高いほど診断に時間がかかるらしく、さすが世界最大の王国だ。


「そういや名前聞いてなかったね、俺はレイマ。君は?」


「ソフィアです。よろしくお願いしますレイマさん」


よろしくと言われてももう会うことはないよな、そう思いつつもソフィアと話しているとすぐに教会が見えてきた。

ここまで達成感を得たのは初めてかもしれない。


「そこの君、名前は?」


「え、あ、レイマですけど」


「そうかレイマ、一緒に来てくれ」


訳の分からないことを言い出す金色の髪の女性は、そう言うと俺の腕を握り走り出した。魔法を使っているのか異常に速く感じる。俺がいなくなった空間はすぐに埋まる、だがソフィアは妙に落ち着いていようだ。幾多の景色が流れて行き、気付けば国の中心にあるはずの巨大な白い城が目の前に建っていた。


「場合によっては殺されることになるかもしれない、幸運を祈るよ」


金髪の女性はそう言って俺を鉄の鎧を着た兵士に連れて行かせる。その言葉に俺は行列から外された時のショック状態から正気に戻る。兵士にどういうことか聞くも全て無視された。そして連れて来られた部屋には神官の服に似た服装をした男が座っていた。


「おいあんた誰なんだよ。俺はどうされるんだ?」


「質問に答えるなら私の名はシェイド、ジェネス王国の神官達を束ねる大神官の1人だ、君はレイマといったかな? 君はこれから大神官から直々に魔力適正レベルを診断してもらうんだ」


訳が分からない。たかが一般人の診断をなぜ大神官が行うのか、さっきの女性が言っていた殺されることになるかもとはどういうことなのか。シェイドの指示するまま彼の目の前の席に座ると、彼は俺の手を取り診断を始めた。しばらく時間が経ちシェイドの顔が徐々に不気味な笑みに変わっていった。すると終わったのか席を立ち、


「残念ながら君は存在自体が危険な存在らしい、本当に残念だよ」


「どういうことだ! ちゃんと説明しろ!」


シェイドは質問に答えず、横にいた兵士に指示を出す。暴れても拘束はとれそうにもない。ーー連れて来られた先は地下牢。俺はその檻の中に投げ込まれ、鍵をかけられた。


なにがどうなっている? 俺が何をした? 存在自体が危険? なぜ牢の中にいる? 俺は何者なんだ? 無限に疑問が湧き出る。他の牢には囚人もいない、おそらくあえて1人にされているのだろう。


「お腹、空いたな...」


このまま餓死してしまうのか、たった1日の出来事で俺の日常は崩れさった。いつも通りなんてちょっとしたことで簡単に消え去る、永遠など存在しない。それをただただ思い知らされる。外の様子も時間も分からない閉ざされた空間でいつの間にか眠りについていた。



ーー静寂に包まれた地下室に軽やかに走る足音が響き渡る。


「あなたがレイマ? ねえ、ここから出してあげよっか」


声のする方へ視線を送ると、その先にいたのは豪華な赤いドレスに身を包んだ上品な見た目の少女だ。それにしても彼女をどこかで見たことがあるような気がするが...。


「君、迷子? ここには来ない方がいいよ」


「そんなわけないでしょう! あたしはジェネス王国の王女、エリシア・スカーレットよ、この城で知らない場所なんてないッーー」


顔を真っ赤にして叫んでいた彼女が何か言ってはいけないことを言ってしまったかのごとく口を両手で抑える。おそらく王族ということがばれたくなかったのだろう。「どうするの」とやや不機嫌に選択を急かされ俺はつい了承してしまった。彼女が鍵穴に手をかざすと牢の鍵が開き、扉が開かれる。魔法だろうと思うが1つ不可解な点があった。


「えっと、魔法って詠唱がないと発動しないはずだよな。どうやったんだ?」


「あたしを他の魔法使いの雑魚共と一緒にしないでくれる? 魔力適正レベルが高いとこの程度の小魔法は詠唱なんて必要ないし、マナも消費しないのよ」


エリシアに手を取られると、次の瞬間俺たちはどこか知らない草原に立っている。転移魔法、しかもここが王国の外だ。これほどの距離を移動するのにも詠唱が必要なく、マナも消費しないらしい。聞くと王族、スカーレットの一族は代々魔法適正レベルが”フェニックス”だという。


「知らない場所に連れて来られたことは置いといて、協力って言ってたけど王女様の何に協力すればいいんだ?」


「あの、それは大したことなんじゃないんだけど、王国転覆を手伝ってもらえないかしら、いえ、手伝ってもらうわよ」


エリシアは笑いながらとんでもないことを言い出す。ジェネスは治安も良く、税金がないにもかかわらず医療費が全て無料、住居の家賃を免除など、住むには最高の国である。


「こんな非の打ち所がない国の何が不満なんだ?」


「その非の打ち所がない事が問題なのよ、あなた、そんなに国民の負担を肩代わりしてる王国がどこから収入を得てるのか考えた事がある?」


「確かに疑問だが貿易で得てるんじゃないか」


「貿易だけでそこまでできるわけないじゃない! 軍事力で脅して他国から大量の税金をとってるのよ、自らの国が、国民が幸せなら他の国はどうなってもいいわけがない。だから、あたしはあたしの父を殺して、王国を殺して、全ての人達を平等に幸せにしたいの」


エリシアの眼差しは輝いていた。しかし俺たちにはそれを成す程の力がない。たった2人で何ができるというのか。それにエリシアはまだしも俺は普通の人間、その輝きを霞める存在でしかない。


「それにシェイドから聞いたわよ、あなた魔力適正レベルが”ドラゴン”の数倍あるそうね」

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