経験
遅れてしまい大変申し訳ございません。
「...これはまずい」
私、エリエス・フォンフィールドが団長に認められ、聖騎士団に入団から長い時が経った。
そして様々な相手と戦ってきた。
禁忌に触れた魔術師、腐った貴族、逃亡騎士.....。どんな敵でも私達の相手ではなかった。
どんな敵でも私達は勝利してきた。神に認められ力を授かった団長の下、権力、力、何をもにも屈しない無敵の騎士団、それが聖騎士団。
「...残り二人」
「副団長殿! お逃げください!!」
「黙りなさい。数分前に魔法弾を打ちました。それに団長が気付かない筈が無い」
「しかしッ! ―――グァァアアッ!!!」
「...残り一人」
聖騎士団の騎士一人の戦力は帝国の騎士十人を一人で相手できる程の力を保有している。
それがほんの数分で六人。
奴はまるで熟練の騎士が町のごろつきを相手しているかの様に易々と殺していった。黒い鎧は血潮で真っ赤に染まり、その血は槍の先まで滴っている。
あの巨体で黒い鎧、あの野太い声、こんな騎士は今まで聞いたことが無い。
聖騎士団の騎士を虐殺出来るほどの実力を持つ騎士。聞いたことが無い。噂すら聞いたことが無いなんておかしい。
「...承知しています。この敵で最後、まだの白の気配は探知可能。十分追跡できます...それより彼女は女性ですが殺しても宜しいのですか? ......はい、申し訳ありません」
「貴方の目的は何ですか?」
話かけたのと同時に斬りかかって来た。咄嗟に攻撃を剣で受け止める。
「クッ! 予想以上に重い」
踏ん張っていても後ろに押し出される。
受け止めてはダメだ、避けないと。
刀身から振動が伝わってきて手がジンジンと痛む。
もはや私一人で如何にか出来る相手ではない。幾ら巨体だからと言っても人の行使できる力の限界なんて高が知れている。こいつの力は明らかにその限界を逸脱していた。
こんな力を平然と行使できる人物など一人しか知らない。こいつはまるで―――
「―――せ、聖騎士ッ!」
「...脆弱な」
「グァ!」
エリエスは後方に大きく吹き飛ばされてしまった。その衝撃で手から剣が抜け落ち丸腰の状態になってしまう。それを見て勝利を確信したのかゆっくりとエリエスの倒れている所に歩き出す。
「...これで最後―――ッ!」
「申し訳ありません団「それはいけませんね」...長?」
エリエスが死を悟ったその時、両者の間に閃光が走った。黒騎士が後退する。そして、その閃光が晴れた時いる筈の無いもう一人騎士が姿を現す。
「貴方には私の右腕として働いていただかないといけません」
明らかに今までとは違う雰囲気を放っている。純白のマントを靡かせながらアリシアと対峙する。
『臭うぜ...クソ野朗の匂いがプンプンしやがる』
「......聖騎士」
自然と魔槍を持つ手に力が入る。こいつがご主人様を追放した外道共の仲間の一人か。
「エリエス貴方は例の盗賊の巣にいる本体と合流しなさい」
「子供達はどうします?」
「今は放っておきましょう。見つけようと思えば何時でも見つけられます」
そう言うと聖騎士は腰に挿してある二本の剣の内の一本を剣帯ごとエリアスに投げ渡した。突然の事にエリアスは落としかけながらも両手でしっかりと受け止め手早く腰に装着する。
「了解しました」
『アマを逃がすなよ!』
「はい」
フリージアは上に大きく跳び、逃げようとするエリエスに向って魔槍を投擲する。
「おっと」
ガギィィィィ!!
「...これは」
本気で投げたのに弾かれた。今の私の投擲は過去の英雄の力そのもの、例えそれが神の祝福を受けた聖騎士だからといって顔色一つ変えずに弾くことなんて出来ないはずだ。
「どうやら君は我が団を壊滅させられる程の力を有しているらしいね」
『この野朗防ぎやがった』
「...その様です」
『その様ですじゃねえこのボケ! 魂と身体が完全に結合するまでは最低でも後三時間はいる。それまでお前は最強じゃねぇんだぞ。そんな状態であのキザ野朗ぶっ殺して逃げたアマぶっ殺してそんでまた逃げたクソガキ二人捕まえ来ること出来んのか?!』
「私の全力の投擲...それを平然と防ぐ目の前の聖騎士......ご主人様のご要望を全て満たすのは......不可能です」
『クソがッ! 良いか? あのクソガキの剣に俺様の仲間が封印されてんだよ。今はそれしか仲間の居場所はわからねぇ、このチャンスぜってぇ逃すんじゃねぇぞ! 分かったか!?』
残りの魔力は後六割。
二割を切ったら通常の戦闘は出来なくなる。こうなるんだったら殺した騎士達から魔力の源を食べておくんだった。
今更後悔しても時は既に遅く、先程の攻撃を防がれエリエスは逃がしてしまい、今はまだ感知している子供たちの気配はどんどん微弱になっていくのが分かる。
最優先に排除すべき存在は目の前の聖騎士騎士団長。こいつをどれだけ早く片付けられるかが鍵になってくるのだ。
「...貴方は?」
取り敢えず時間稼ぎだ。
今まで殺した騎士の位置を見て素早く魔力を補充してから戦う。戦いの手順を整えた所でフリージアは敵に感ずかれない程度に微弱な魔力を魔槍に向って流す。
「私は、監視と秩序の神プログノーシスが選定せし聖騎士セルマ・フォンフィールド。カルッソス帝国所属の聖騎士だ。君の欲しい情報は提供した。次は私の希望する情報を提供してくれ」
「......それは無駄だ」
「ほう...その理由を聞かせていただいても良いかな?」
「...貴方は今ここで死ぬからです」
心の中で来いと魔槍に命じると物凄い勢いで此方に向かって飛んでくる。そしてその槍と私の間には聖騎士セルマ。幾ら強くても真後ろから飛んで来る魔槍はかわせない。
「私が死ぬ? もしかして後ろの槍で私を刺そうと言うのですか」
キィィン!
「...何故?」
完全に後ろから刺したはずなのに何故防がれたのか。その言葉が出なかった。またしても弾かれた槍は今度はフリージアの手の中に飛んでいき、コーンと言う音をが響く。
『考えが甘ぇよ』
「......」
『相手は一応あのクソの神の一人の化身だ、俺様がお前に与えたように、何かしらの権能は貰ってんだろうよ。プログノーシスっつったらお前に似て無口なクソアマだな。クソ! どいつもこいつも面倒臭い真似しやがって!』
「どうやら君の策略もこれで打ち止めのようだ」
セルマはゆっくりと歩きながらフリージアに近づいていく。先に仕掛けたのはセルマだ。左手で魔槍を掴みフリージアの攻撃を封じると首を狙うように斬り付けた。しかし、紙一重の所で魔槍を離し、後ろに仰け反り相手の攻撃を避ける。
「君には力もそれを扱うだけの技術もあるようだ。しかし――――」
―――経験が足りないようだ。
「ッ!? ガハッ!」
仰け反った一瞬の隙を狙ってセルマの蹴りがフリージアのわき腹を捉えた。
ベキベキと嫌な音を立てながら割れる鎧、その隙間から黒い煙が溢れ出てくる。
セルマはそれを見てから目を細めると後ろに飛びフリージアから距離を取る。セルマは黒い煙の正体を知っていた。それと同時に本能が警告を発している。
「ほう、興味深い。何故人の身体から瘴気を発しているのか」
「......」
ヘルムの間から血が垂れる。しかし、フリージアはうめき声一つ発する事無く再び目の前の障害に対峙する。
『あークソ! クソ! おいフリージア!』
「...はい」
『オメェの身体貸せ!』
「...は―――ッ!!」
答える前に身体全体にゾワゾワとした嫌な感じが駆け巡った。次の瞬間、私は意識を失い地面に倒れてしまう。
そして、次に目を覚ました時には辺り一面地獄と化していた。