同類
今日の朝、何時ものように団長達が商売の為に国と国とを渡る商人達の荷物を奪いに山を降りていった。
僕が仲間になった時は十人程度だった盗賊団も今五十人以上はいるであろう大所帯になった。
普通は国境近くで盗みを働いていたらあっという間に騎士達に見つかり殺されてしまう。しかし、魔瘴の森なら話は別だ。
魔瘴の森は空気中に漂っている魔力が他の森より極端に高く。凶暴な魔物や魔獣が住み易いのだ。
当然、そんな危険な所に騎士達が入ってくるわけもなく。今まで捕まる事無くいられると言う訳だ。団長が魔瘴の森の抜け道を見つけたのが山賊を始める切っ掛けになったらしい。
そんな何年も山賊をやっていた団長が全身血まみれになりながら帰ってきた。そして、『出口を見張れ』だの『悪魔がくる』だの訳の分からない事を喚き散らしながら洞窟の深く、頑丈な扉で閉ざされている財宝の部屋に逃げるように入っていった。
何時もなら見張りなんてつけないのだが今日はは団長の命令で交代で見張りを担当することになった。
そして、団長が帰ってきて少したった頃―――
――――天使のような悪魔が現れた
「なんだよこいつ! 何なんだよこいつ!!」
「しるかよ! さっさと撃て」
「矢も剣も効かねぇ...ば、化け物だ」
「...はい、この方達で最後―――いいえ、まだ反応が二つ存在します」
「ひぃ!」
「死にたくな――」
前触れもなく現れた彼女は屈強な男相手に顔色一つ変えず不思議な色をした槍一本で倒していく。一人また一人と死んでいく山賊達。
余りの強さで山賊達は戦意喪失してしまい、降伏の印なのか持っていた武器を捨て洞窟の奥へと逃げていった。きっと抜け穴から逃げていくのだろう。
僕は恐怖の余り足がすくみ逃げることが出来ない。そして、とうとう僕の目の前に立ち止まり槍を―――
「...彼から黒を感じます......たしこまりました」
―――殺されなかった? なぜ? いや、今はそんなことはどうでもいい。
「神よ感謝します」
僕はまだ死ねないあいつに復讐するまでは
『あーつまんね。どいつもこいつも雑魚ばっかりだな』
「......彼から聞いた情報ではこのドアの様です。―――開くことが出来ません」
『そりゃ宝隠してンだから鍵くらい掛けるだろ普通』
押しても引いてもビクともしない。鍵を掛けられているようだ。普通は鍵を探しにまた引き返して探索しに行くのがお約束なのだが私にはそんな事知ったことではないので手っ取り早い方法でやらせてもらうことにしよう。
『それじゃあ鍵を―――』
バキィィンッ!!
「―――開きまた」
『お前少しは雰囲気を楽しもうと思わねぇの?』
「...申し訳ありません。現在感情が欠如している為楽しいと感じることができません。しかし、ご主人様の命令とあれば次回から鍵の掛かった扉は蹴破らず鍵を探すことにいたします」
『...お前、俺様が言わなかったら鍵の掛かっている扉蹴破って開けようとしてたのかよ......』
「はい」
部屋に入ってみると金貨に銀貨、酒樽に宝石etc...etc...。正に本に出てくる金銀財宝の数々が山の様に乱雑に置かれていた。血の足跡があるのを見るとこの中に誰かが逃げ込んだのだろう。
「この財宝を全て強奪するのは先程入手した革袋の大きさを見て不可能だと判断します」
『別に全部頂くわけじゃねぇよ。取り敢えず袋一杯になるまで詰めて無くなったらまたバカな奴らから奪えばいい』
「かしこまりました...ではこの女性達はどういたしますか?」
財宝とは別に直ぐ側にある牢に三人の女性が閉じ込められていた。その内の一人は妖精種だ。
『そうだなぁ...まぁいいんじゃねぇの? 放っておいて』
「殺さなくて宜しいのですか?」
『この世界の女は全部俺様のもんなんだよ。生き返った暁には神殿を新しくしてしばらく楽しみてぇから出来るだけ女は殺すな。いいな?』
「......かしこまりました」
『なんだその間は...もしかして妬いてンのか?』
「妬いていません」
牢の扉を引きちぎり手に付けられている枷を壊す。後は各々好きなように逃げるだろう。そんな事を考えていると突然ご主人様の焦り声が聞こえてきた。
『マジかよおい...近くで感じる、懐かしい魔力の波動......近くに俺様と同類の奴がいるぜ』
「...と言いますと?」
『一々確認すんじゃねぇ! 邪神の気配がするっつってんだよ。さっさと動けのろま!!』
「...ですが財宝のほうは『放っておけそんな物こっちが先だ! 速く!』...かしこまりました」
『転生してすぐに同類に遭えるなんて俺様はついてるな』
邪神の気配を感じながら木と木の枝をつたいながら追跡する。
さっき洞窟の山賊達の魔力の源を食べてきたので魔力は十分。弱い敵としか戦っていないからか不完全燃焼である。早く戦いたい...早く...早く。
林を抜け草原に出ると目の前に少年が少女の手を取り走っていた。その後ろに騎士達が追走する。
『あのガキの剣から感じる。やっぱり封印されてるな...』
「少年たちの背後に十五人の騎士達を確認できます」
『理由はわかんねぇが俺様の知ったこっちゃねぇな』
「...それでは」
『ガキ以外は殺せ』
「かしこまりました...魔力を開放、鎧の限定的な展開を解除します...鎧を再度全身に展開」