山賊
...申し訳ありません。
魔犬の前に佇む黒騎士。
「おかしい......」
片手に携えた槍には魔犬の物であろう血と肉片がこびり付いている。そして驚くべことに黒騎士の鎧に噛み跡が一つも無いのだ。通常、戦闘になれば鎧の何処かに傷が付く筈なのだが彼女の鎧にはそれが無い。つまり彼女は一度の反撃も許さずに一撃に魔犬を葬ったと言うことになる。当の本人も驚いている様子だ。
『ただ槍を横に振っただけでクソ犬がぐちゃみそになったことがか? オメェその身体に入る前言ったろ。大抵のやつは小指で倒せるぐらいぶっ飛んでるってな』
「...あれは何かの比喩かと思っていました......」
槍に付いた汚物を振り払うと魔犬だった物を見る。槍を一振りしただけで肉塊になってしまった。牽制で軽く振ったつもりだったのだが魔犬の骸の後ろの木々が重機に押しつぶされたかのように崩れていた。
「...ご主人様」
『何だ?』
「先の戦闘において鎧を装備していることで機動的な問題がある事を判明しました」
『だから脱ぎたいってか?』
「いえ、もし脱ぎ捨てて良いのであれば迅速に敵を排除する事が可能であると申し上げたかっただけですのでもしご主人様がこのまま戦えと言うのであれば私はそうします」
『分かってると思うがその鎧は特別製だ。その鎧を着ていればまずお前の正体はばれネェし声も男の声に変えることだって出来るんだぜ? それに重たいなら鎧に魔力を通して念じてみろ『軽くなれ』ってな』
「分かりました...魔力を開放...鎧に伝達......」
ご主人様に言われたとおりに魔力を鎧に流してみると全身を覆っていた鎧の一部が無くなり全体的に軽くなった。
ガサガザ
『...おい』
「分かっております」
自分の身体に気を取られて気付かなかった。
「嬢ちゃん。ここは嬢ちゃんみたいないい所の者が来るような森じゃねぇぜ?」
上半身裸の明らかに盗賊ですよって言う顔の男が森の中から錆びた剣片手に下卑た笑みを浮かべながら此方に近づいてくる。それを皮切りに私の逃げ場を潰すように私を中心に六人の盗賊が姿を現した。
「お頭! こいつかなりの上玉だぜ!」
「早く身包み剥がして楽しみてぇな」
こう言う場面では悲鳴を上げて逃げ惑うのが普通なのだろう。しかし、私の頭は自分の身体に備わっている能力の確認でいっぱいだった。はなから私には心が無い。殺されるかもしれない恐怖も自分の身体に超能力が備わっていると言う高揚もありはしない。だから、例え瀕死の状況があったとしても命乞いをすることもないしなくことも無い。
そう言う訳で―――
「―――能力の確認をさせて頂きます......」
「あ? ぐぁ!」
近づいてきた山賊の頭らしき者の頭を鷲掴みにし後ろで呆然としている山賊に放り投げた。
「お頭!」
「ひぃ!! ば、化け物!」
やっと状況を飲み込めたのか短剣や弩を私に向けた。しかし、その時にはすでに遅く山賊たちは何が起こったのか分からずにこの世を去っていくのであった。。