憎キ白ヲ求メテ
『先程邪神の魔法を感知した』
「分かっています......」
『なら何故』
『貴方様は何もしないのか』
『疑問ですな』
白の世界に響き渡る老若男女の声は玉座に座り何かを考えるように目を瞑るサルハルテに問いかける。
「でもそんな筈は...彼は今虚無牢に牢獄されているはずです」
『我らが投獄した』
『しかし、彼の者の魔力の波動を感じたのは事実』
『虚無牢から抜け出したのかもしれぬ』
『有り得ない!』
『あれは創造神様が御造りになった物。それを一世界の邪神程度が破れる訳が無い!』
「ではどう説明を出来るのですか? 確かに私は感じました彼の魔力を......」
そう言いながら玉座に背中を預け空を見上げた。
『...あの牢獄を破ることは不可能』
『であれば、答えは一つ』
「...協力者」
数時間前の事を思い出す。三十四人を自分の世界を助けさせる為に生贄にした一人の名前を。
「葉」
『何にせよ探らなくてはな』
『彼らに調査に向わせよう』
悪しき者は排除しなくてはならない。その為には調べなくては、本当に彼なのかを。もし、そうだとしたら彼らで倒せるかどうか...。
「......使徒達に調べさせます」
私の世界に悪しき者は必要ない。裏切り者の聖騎士達も魔王も魔族も全て消さなくては。
聖騎士とは
特別な力を持った三十九人の騎士を指す称号。一人ひとりが一騎当千の力を持ち、どの国でも王と同等の権限を行使することが出来る。聖騎士が死んだ場合。誰かがその力を受け継ぎ新たな聖騎士となる。尚、『エイセルクロイツ条約』により新たな聖騎士が見つかった場合は三十九神を奉る神殿にいるそれぞれの三十九人の教皇が『聖都オルトリニア』に召集され、最終的に聖騎士に迎えるか否かを審議する。
森の中、道なき道を進む一人の影。漆黒の鎧を身に纏い、紫紺に光る槍を携え突き進む。
『技術と力はその身体に入ってるが心はお前のまんまだ。てな訳で早いとこ人間一人や二人ぶっ殺して殺しに慣れときな』
と言うご主人様のお言葉に従って、人の住む所を探して道なき道を進行中。
前の身体の時は高校のマラソンを完走する事出来なかったのに、今の身体は疲れるどころか汗一つかいていない。
「......白の気配を感じます」
『大分近くなってきたんじゃねえか?』
壊れた神殿を出て五時間。幸い、白の魔力をなんとなく分かるので、白くもやもやとした感じを頼りに進んでいる。すると、突然目の前からうめき声が聞こえてくる。
「...ご主人様。あれはいったい......」
『ここいらの森はよ、そのより漂っている魔力が濃い。だから雑魚の魔物でも少しはマシに成長するってこった』
あれで少しか...。
二メートルを優に越える程の体躯。フリージアが纏っている鎧と同じぐらい黒い体毛は逆立っており目も血走っている。
歩きながらご主人様に聞いたのだが生き物は魔力で生きているから空気中に漂っている魔力が多い分体内の魔力と共鳴し身体全体が活性化されるらしい。
結果、人はより強靭な肉体に、動物や昆虫、植物はより大きく育つ。しかし、目の前の動物? は聞いていたのより―――
『でかいか? 普通の人間には殺せない訳だがお前にとっては蟻と同じだ。とっととぶっ殺して先を進むぞ』
「はい。ご主人様」
「GUAAAAA!!!」
「貴方から黒の気配を感じません。よって殲滅対象です...魔槍に接続、魔力を開放します」
こんな所で止まってはいてられない。