黒ノ底ニテ
連載を始めて早々インフルエンザでノックダウンしました。申し訳ございません。不定期とは書いていますが出来るだけ早く執筆して投稿したいとは思っていますので、これからもよろしくお願いします。
それではどうぞ。
全てが黒に染まった世界に少女の様な眠れる少年。葉と紫紺に輝く火の玉がいた。まるで無重力空間の中のいる様に身体がプカプカ浮いている少年と華奢な体には余りに不釣合いな黒い鎖に両手両足を縛られている。
肌に食い込み少しずつ、血が鎖に滴り下へ、下へと滴っていく。痛々しい光景だ。
「......ッ!」
『あぁ? 起きたか』
「...はい」
『オメェがぐーすか寝てる間俺様死ぬほど暇だったぜ』
「...そうですか」
葉の頭の周りを蝿の様にすばしっこく回りながらドスの利いた男性の声で話掛けて来る。
また、あの夢だ。僕があのクラスメイト共に裏切られて一体どれだけの時間が経っただろう......。あいつらは向こうの世界で上手くやっているのだろうか? もしそうだとしたら恨めしい。この手で殺してやりたい程憎たらしい。あぁ、グチャグチャにしてやりたい。
四六時中ずっと鎖に繋がれ、どっちが上か下かも分からないこの場所にいると何かが身体の中から抜けていく様な感じがする。
それに、心の底に押し込めてあった黒い何かが溢れ出し。自分が自分でなくなってくるのだ。
『あー暇だー...おい、何か暇潰せる事ねぇか?』
「寝るのが一番の暇つぶしです...話掛けないで下さい」
『辛辣だなお前。HAHAHA!』
説明しておくと、僕が今話している火の玉は僕が此処に連れて来られてからしばらくたった頃に何処からともなく現れた。火の玉の様な形をしていて僕の周りを飛ぶもんだから偶に鬱陶しくなるけど......まぁ、これはこれで立派な話し相手だ。
『そういやオメェ......何でその鎖解かねぇんだ?』
「解けるんだったらとっくに解いてますよこんな物」
そう言いながらもう一度千切れないか試しに暴れて見せる。それを見た火の玉は大きな声で笑いながらふわふわと葉の目の前に止まると、笑いながらまるで世間話をするかの様に言うのだ。
「俺様はどうでもいいけどよ。そのままだとオメェ――」
――死ぬぜ
火の玉の言葉にピクリと身体が反応する。死ぬ、シヌ、しぬ......か。
ここに連れて来られるまであれだけ生に縋り付いていたのに、今になったらもう生きるも死ぬもどうでも良くなってきた。こんな所で永久に繋がれるよりいっそ死んだほうが楽なじゃないかな。
どうせもとの世界には戻れないんだ。出来るのならあいつらに復讐してやりたかったが、それももう叶わない......。今思えば普通の生活をしようと必死になっていじめに耐えていた頃の自分が馬鹿馬鹿しく思えてくる。
「もうこのまま死んでもいいや」
『へぇーふぅん。いいのか? お前復讐したいんじゃなかったのか?』
「ッ!? 何であんたがその事知ってるんだよ」
『おいおいそう怒んなって。俺様が折角お前に復讐する機会をやろうと思ってんだ。ここは良い子にして聞くのが正解だぜ?』
「チッ!......」
一々言動に腹が立つ。......でも、もう失うものが何も無いこの今ならこいつの話を聞く価値もあるだろう。そう思った葉はぐっと堪える。全ては復讐の為だ。
『イーねイーね! 従順な奴は嫌いじゃねぇぜ。......じゃあまず俺様の要求を呑んでもらおうっかなぁ』
「...何ですか? その要求って」
『まず第一にお前をこのまま向こうに飛ばすのは無理だ。だから魂だけ引き抜いて向こうの世界に用意してある肉体に入れる。そんでもって虚無牢に残ったオメェの身体は俺様が頂く。第二。俺様をこのクソ溜めから解放しろ。なぁに安心しろ、向こうのオメェの肉体はかなりブっ飛んだ作りしてっからよ。そんじょそこらの奴らに小指で勝てるくらいつえぇぜ。HAHAHA!! ...おっと話が反れちまったな。最後の第三。向こうで転生が成功したその瞬間。お前の魂、お前の肉体、髪の毛一本から爪一欠けらまで俺様の物になれ。ここまでで何か質問あるか?』
聞けば聞くほど胡散臭い。明らかに何かを隠して僕を利用しようとしている様な気がしてならない。
「そんなに強いのならお前がその肉体を使えば良い。なのに何でそんな回りくどい事をして僕を助けてくれる? 騙すんならもっとマシな嘘つけよ」
もうこれ以上騙されたり裏切られたりするのはごめんだ。
葉は火の玉の悪魔の囁きを聞くまいともう一度瞼を閉じて夢の中に逃げようとするも、またもや火の玉の馬鹿でかい笑い声により阻まれてしまう。
『HAHAHA! そりゃお前。俺は男なんだぜ? そんな男の俺様が何で女の肉体にはいらねぇといけねぇんだよ。それに、その女の肉体はな俺様が下界に降りた時に護衛兼ご奉仕用に作った顔から体まで俺好み造ったんだ。一度は味わってみてぇだろ? HAHAHAHA!!」
「最低ですね......ん? 今下界に降りたときって...」
「あ? 言ってなかったか。俺はあのクソアマの世界で邪神の最高神やってるガルバルディアってんだ。んな事どうでもいいからよ、契約するのか? しねぇのか? さっさと選びやがれ」
質問はあるかって聞いたくせにさっさと決めろって、めちゃくちゃだなこの玉。自分の事を邪神と名乗るこの火の玉が何をしたいのか分からない、知りたくもない。しかし、もう一度この世に生を受け、自分を陥れた者達に復讐を果たす為なら―――
「――契約す...します。どうか僕に復讐をする為の力を、復讐を果たす為の機会を下さい」
「決まりだな。じゃあ早速始めようかねぇ」
そう言うとガルバルディアは鎖で繋がれた葉のちょうど口元に移動する。
「俺様を一口食え。それで契約完了。晴れて新しい肉体を手に入れて復讐を果たす事ができる」
「え? 食べ「いいんだよ、早くしねぇと向こうにいけねぇぞ?」......分かりました」
火の玉を口に入れるのは抵抗はあったがこれで生き返る事が出来るのならと勢い良くぱくっと口に含んだ。
魔力とは
魔力の源によって生成される生きとし生ける者の生命の源。体を動かすにも呼吸をするにも魔法を行使する時も魔力が必要。体内の魔力が枯渇すると意識を失い、最悪の場合は死亡する。現在、魔力を回復する手段は自然回復しかない。一説には、竜種や妖精族などと言った幻想種は空気中の魔力を吸収することが出来るらしい。
何処かの国の何処かの森。その奥の奥に廃れた神殿がある。石材で出来た支柱は崩れ落ち、昔の面影が無い程崩れており、外から来訪した人を何人も近付けさせないほどの不気味なオーラが漂っている。そんな死霊が出そうな神殿の中の祭壇、その下に隠されている階段を降りて行くと一つの部屋に行き着く。その中に入ると、古びた棚には多種多様な色をした薬品が陳列され、武器や鎧と言った物まで置いてある。そして、その隠し部屋の中心にそれはいた。
不自然に置かれたベットの上に眠る少女。何千年もの間。放置されていたにも関わらず少女は数千年をまるで昨日のようかの様にそこにいる。そして、ゆっくりと開かれる瞼、その中に隠されていた瞳は左右に動かす。災厄が誕生した瞬間である。
「...こ、こ、...此処はど、こ? あれ? 」
声が出しづらい。しかも声が...そうか、私は女になったんだ。手に収まりきらないほどの二つの山と股間辺りに違和感を覚えながら起き上がり周りを見渡した。真っ暗でよく見えないがあの場所じゃない。自分の足で立てる、腕やが鎖につながれていない。
「...い、生き、かえっら......」
......ん? 私? 何で私は私って? あれ? 何故か自分の中での一人称が変わっている。それに、何だろう嬉しいはずなのに笑えない。と言うか嬉しいってどんな感じだったっけ? 分からない、思い出せない。悲しい、苦しい、憎たらしい......。
「...がん、じょう...ない?」
無機質で美しい声が小さな部屋に木霊する。
『大せーかい! HAHAHA!! その様子だとうまくいったみてぇだな』
「...ご、ご、主人様...」
不意に聞こえてくるご主人様の声。虚無牢では火の玉とか玉と呼んでいたのに勝手に声が出てしまった。
『言い忘れたがその肉体な...まだ未完成なんだわ』
「...それでは、何も感じないのも...」
『あぁ。性能的な面では完成してんだがな。ん~どれどれ......感情とあと五感の幾つかは全く機能してないな。それに魔力の源が入ってねェから魔力も生成で出来ねぇ』
魔力の源とか性能面とか良く分からない事を言ってくるので取り敢えず聞き流す。自分の今の姿を確認しようと近くにあった体全体が写る程大きな鏡の前に立ち、埃を軽く払うと――
「――...こ、れがわらしなので、すか?...」
『おうよ。俺様の自信作だ。町に出た日には男共全員いちころだぜ。っま、触らせんがな。HAHAHA!」
元の葉と同じくらいの身長だが元の身体よりはっきりと括れが出来ている。そして、この小さい身体に不釣合いに大きい二つの果実。何と言うか...うん、歩く時に邪魔だな。次は顔だ。余りに整いすぎている。小さな顔には琥珀色の濁った半目と桃色の唇。全体的に整った目鼻立ちの美少女だ。どれをとっても最高のパーツで多くの時間を掛けて作り上げたのが分かる。
「...ご、主人様...魔力の源とは一体何なんでしょうか?」
『この世界に生きる奴らには魔力の源っつう魔力を生成して溜めておく機関があんだよ。魔法使うにしても普通に生活するにしてもぜってぇ魔力は必要になってくる』
「...では魔力の源の無い私は?」
『何時間かしたら衰弱して死ぬだろうな』
まさかの転生して早々余命宣言である。感情の無い今の私には驚きも死ぬ恐怖も無い。感じない。それにご主人様の事だ、きっと何かしらの対策はとっているんだろう。そう信じて裸だったことに気付いた私は部屋の中に着れそうな服が無いか探す。
『ここに来る前に俺様の身体食わせたの覚えているよな?』
「...はい。余り美味しくはありませんでしたが」
『誰が味の感想いえっつったよ。目的はさっき言った魔力の源の代わりになる機関を埋め込む為だ。因みに俺様の声が聞こえるのも食ったからだぜ? やっぱ俺様って天才だなよなぁ。HAHAHA!!」
「...流石ですご主人様」
『分かってるじゃねェか。だが代わりっつっても魔力を貯蔵するだけで魔力は生成できねぇ。そればっかりは外から取り込んでもらうしかねェな』
クローゼットの開けると中には黒のドレスが一着入っていた。幾ら性別が女に変わったとはいえ、ドレスを着るのはやっぱり抵抗がある。ご主人様の話そっちのけで考えていると『お前が着る為に作っといたんだ。とっとと着ろ。ガーターとニーソ忘れんじゃねぇぞ?』と言ってきたので少し手間取りながらドレスを着た。
『でだ、生成は出来ねェがお前には俺様の権能たる簒奪の力を使う事が出来たはずだ。その力でそこいらに漂っている魔力取り込むめ。まずまずの魔力溜める事が出来ると思うぜ。それか動物だか人間だか、取り敢えず生きている者を殺って胸の中にある魔力の源を直接腹ん中に入れるかだな。因みに後者の方が魔力は多く獲れる』
「...死なないのであれば私は何でもかまいません。それより、ここに置いてある武具の類は使用してもよろしいのでしょうか?」
『何でも持ってけ。お前の体には色んな英雄やら勇者の因子がはいってっから、大抵の武器は使いこなせるはずだ』
壁に立てかけてある物を見る。槍や剣、弓と言った一般的に兵士達が使うような物から戦斧、鎌、ハルバート兎に角、色々な種類の武器、そしてそのところ狭しと並べられていた武器の真ん中には漆黒の鎧が置かれている。しばらく迷ったが槍と鎧を持っていくことにした。
『さて、最終的な目的はあのクソアマをぶっ殺すことだが当面の目的は仲間を増やすこと。そんでもって敵を減らすことだ』
「...たしこまりました」
鎧を着たせいか少し思い足どりで地上へと続く階段を登っていく。嗚呼、戻ってきた。私の生きていた世界とは違うがあいつ等の生きる世界にこうして生き返ることが出来た。おそらく私は二度と元の世界に帰ることはないだろう。葉としての身体は、もうガルバルディアの物となってしまった。今の私はあいつの奴隷。フリージア。私は復讐の為に生きる。金も名誉も元の身体も友も家族も求めない、ただただ復讐を―――
『人間に虐げられし者達を救い黒の芽を育てろ。人間を殺し白を潰せ』
「対象は白。そして白の使徒である三十四人。これより行動を開始します」
白の女神達が支配する世界。アークウィクス。その世界にかつて陥れた黒の邪神、その最高神たるガルバルディアが復讐を果たす為一人の災厄を産み落とした。
女神によって転生した彼らが知るのはもう少し先の事になるだろう......。