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復讐の鐘が鳴る時  作者: 柊なつこ
零章 準備運動
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転生ノ儀

カタカタカタ。(何か違うな...)ケシケシケシ。その繰り返しです。

「ここ何処だよ...」


「クソッ! 携帯つながんねぇぞ」


喚き散らすクラスメイト。ここが何処かなんて少なくともこのクラスの生徒、僕を含めて三十五人には分からないだろう。上を見ても、下を見ても、左右三百六十度を見渡しても白、白、白......。一面真っ白な場所だ。


「......ねえ、よーくん。一応確認するけど、私たちさっきまで教室に居たよね?」


「...うん」


珍しく怖がる紅葉。周りを観察していると後ろから抱き着いてきた。僕より頭一つ分大きい身長の紅葉が僕に抱きついてきたら必然的に紅葉の大きな二つのお山が僕の肩に乗っているわけでありまして......一応僕も男だ、このままで居ると色々とやばいから離れて欲しい。

そんなことなどお構いなしに紅葉は体全体を擦り付けてくる。


「あの。そろそろ離れてくれませんか?」


「えー......やだ」


「やだって」


『皆様、呼びかけに応じていただき感謝します』


「「「「「ッッ!」」」」」


突然僕達の目の前に一人の少女が現れた。何も無いところからいきなりだ。


『皆さんはどうしてこんなところに居るのか疑問を覚えている様なので|向こうの世界に連れて行く前に《・・・・・・・・・・》少し説明させていただきます』


そう言うと手に携える杖でコンコンと地面を叩く。すると彼女の直ぐ後ろに音も無く玉座が現れた。彼女はその玉座へと静かに腰を落とすと、一片の曇りの無い空色の瞳で僕達を向き合い。


『わたくしの名前はサルハルテ。貴方達の住んでいる世界とは異なった世界を統べる三十九の神々を束ねる最高神です。今回異世界から貴方達を呼び出したのは他でもありません......わたくしの世界を助けていただく為です』


「は? ふざけんなよ!」


「そ、そうだ! 何で俺達があんたの世界守らなきゃいけないんだよ!」


「家に帰してよ!!」


サルハルテと名乗る女神に駆け寄る生徒達。しかしサルハルテは全く動じることなく右手を今にも飛び掛りそうな生徒達の目の前にかざし、そして、ゆっくりとチャックを閉めるような動作をする。


すると、さっきまで問い詰めていた生徒達が黙った。いや、黙ったと言うのはおかしい。正しく言えば黙らされたといった方がいいだろう。駆け寄った生徒達のその全員の口が開かなくなったのだ。


『わたくしに問いたい事があるのは承知しております。しかし、今はわたくしの説明を優先させて頂きます』


「「「「......」」」」


『結構......。話を続けます。わたくしが統べる世界に今までに無い危機が迫ろうとしているのです。元々わたくし世界では魔物や魔族、魔王と言った人々の平和を崩そうとする者達はおりました......魔物や魔族は人が力を合わせれば倒すことが出来ます。しかし、魔族の上位、魔王などの強力な者達は人々は太刀打ちできません......』


この数分間の中で起きた奇想天外な事のお陰で殆どの生徒達は呆然としながら女神の話を聞いている。そんな中、一人の生徒が女神の話に水を差した。


「貴方は何が言いたいのですか? 貴方の愚痴を聞くために僕達が呼ばれたとは思えません。無駄な話は良いので何からその世界を助けて欲しいのかを先に聞かせてください」


誰かは知らんが中々根性のあるやつだ。名前は覚えてないけど...。眼鏡掛けてるからメガネ君で良いかな。

メガネ君の言葉を聞き、何かを考えるように目を閉じると小さな声で「わかりました」と言い話を再開した。


『悪しき者から人々を守る為、神々より選ばれた三十九人の聖騎士。その約半数20人が......裏切りました』


「そいつらを捕まえろって言うのか?」


『いいえ。殺してください』


「は?! 俺達に人を殺せって言うのか! 冗談じゃねえぞ」


「それに神様に選ばれてってことはすっごく強いんでしょ? そんな奴らにどうやって勝てって言うのよ」


『最高神たるこのわたくしが貴方達に恩恵を授けましょう。そうすれば悪くても互角に持っていけるだけの力を手に入れる事ができます。―――確かに人を殺した事がない貴方達に殺せと言うのは酷な話。しかし、彼の者を断罪しない限りわたくしの世界に平和が訪れないのもまた事実......そこで、わたくしは貴方達が見事裏切りの聖騎士達を断罪することが出来た暁には報酬として。サルハルテの名の下に、何でも一つの願いを叶えましょう』


「何でも...一つ」


「マジかよ......」


『何でも願いが叶う』。この言葉に人殺しがどうとか言う奴らは全員黙った。ついでにメガネ君も黙った。


静寂が白い空間を支配する。


良く考えれば御伽噺で出てくる勇者にそっくりだ。人々を困らせる悪いドラゴンを倒す為に強い勇者が王様の頼まれ戦いに行く。そして、見事悪いドラゴンを退治し、そのご褒美として美しいお姫様と結ばれることが出来た。

ドラゴンが聖騎士に、勇者が僕達に代わっただけだ。それに勇者は一人で強力なドラゴンと戦うが、僕達は最低でも互角に渡り合える力を手に入れ、相手が20人、こっちは35人、力も人数も圧倒的に有利なのだ。

つまり、異世界で人間を裏切った人間を確実に殺せる力を貰って敵より多い人数で殺しに行く簡単なおつかい(・・・・・・・)

それに、倒せば世界中の人々が悪者を退治した勇者達を称え、賞賛し、何百年も語り継がれるほどの英雄になるだろう。しかも、神様からも報酬として何でも願いを叶える事ができる。至れり尽くせりの話だ。この話を聞いても尚、行きたくないと言う人は居るだろうか? しかし、彼らは平和な世界から来たただの子供、争いとは無縁の世界で過ごしていた彼らに人を殺す勇気は無いだろう。いや、正確に言えば人は殺せる。ただ、自分から行くとは言えないだけだ。人を殺しに行くとは言えないからだ。言うのはみんなで、行くのはみんなで。


「...や......やるよ...」


『今何と仰りました?』


「やってやるよ! 何でも叶うのなら聖騎士だろうが何だろうがぶっ殺してやるよ!!」


唐突に静寂が終わりを告げる。


「そうだ...な。だって正義の為に戦うんだから」


「こんなのチャンスこの先絶対来ない...願いが叶うのなら」


僕を苛めていたいじめっ子Aの声を皮切りに一人、また一人と賛成していく。人殺し云々言っていた奴らも一緒になってだ。お前らさっきの威勢は何処にいった。


しかし、みんながみんな自分達が行おうとしている事を正当化しようとしている中、僕は見逃さなかった。サルハルテが不敵な笑みを浮かべているのを。






ー―――嫌な予感がする






「よーくん...」


紅葉も何かを感じ取ったのか何時もの笑顔は完全に消え、代わりに怯えきった表情で僕の右手を握りに来る。僕は少し見上げ紅葉を見つめる。安心させようと自分で精一杯の笑顔を作り、握り返した。久しぶりに笑ったからきっと不細工だろうが紅葉なら許してくれるだろう。


『......決まったようですね』


後になって気付た。


『それでは―――』


女神の真の目的を。


『転生の儀を始めます』


コン


杖で地面を一度鳴らす。すると、サルハルテの後ろに大きな門が二つ現れた。一方は神が呼び出したとは思えないぐらい禍々しく、黒い門。それとは対照的に一方は見ているだけで安心させてくれる、門の隙間から神々しい光が差し込む白い門。


おかしい、何かがおかしい。全身から汗が吹き出す。


『これから貴方達には選んでいただきます』


「何を? もしかしてどんな能力が欲しいかとかですか?」


メガネ君の質問に首を横に振り否定するサルハルテ。みんなが疑問に思っている中、サルハルテは僕達を指差し、予想もしていなかった一言を口にする。









































『誰を犠牲にして、私の世界に転生するか......です』














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