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復讐の鐘が鳴る時  作者: 柊なつこ
一章 荒れ狂うは雷の刃
18/28

少年?

少し手直しに時間が掛かってしまいましたが何とか今日中に仕上げる事が出来ました。

「...具申(ぐしん)、よろしいでしょうか?」


『何だ?』


「...魔力の源(オド)を摂取すればその魔力の源に含まれている能力を得る事が出来るのであれば、最近の情勢に詳しい者の魔力の源を摂取すればわざわざ依頼を出さなくとも良いのではないのでしょうか?」


『それは出来ねぇ。魔力の源に宿ってんのは記憶(・・)じゃなく記録・・だ。一生を()して磨いた技量。毎日喋っている言語や書いている文字。そういったものが長年、脳内に漂う記憶の魔力が魔力の源に染み込んでいく。だから具体的な記憶はいくら喰っても手に入らねぇ...んな事より』


「...どうかいたしましたか?」


「おい、あいつ...」


「たまんねーぜ」


視線がだんだんとフリージアへと集まっていく。それと同時に下品な言葉が耳に付くようになってきた。明らかに酒を目的に来た訳ではない者も多くいる。席に着かずに立って此方に視線を送る人がいるのがその証拠だ...。


「...」


少し集まりすぎじゃないか? さっきから階段の方の床がぎしぎしと軋む(きし)音が聞こえてくる。気持ち悪いとか吐き気がするとか感じた事は無いが――


『こ‘‘のクソ‘‘ボケ共がァ』


――ご主人様が爆発寸前である。


「...ご主人様。どうか落ち着いてください」


『これが落ち着いていられるか! お前は俺様の物なんだぞ! それをゴミ共がジロジロ見やがってぇ...』


目立たない様手早く依頼をして直ぐに二階のなるべく隅のテーブルに着いたのにも関わらず徐々に人が集まりだしてきた。さっきも言ったが、たとえ小鬼(ゴブリン)に身体中を舐め回されても如何(どう)とも思わないがもし、そんな事があったとしたらご主人様が小鬼(ゴブリン)どころか小鬼(ゴブリン)の住んでいる森ごと消し飛ばしてしまうかもしれない。いいや、絶対する。前置きが少々長くなってしまったが、つまり私が何が言いたいのかと言うと...。


「...ご主人様。御身の身体(魔槍)から魔力が溢れだしております」


『後一分、この状態が続くなら場所移動すっぞ。このままじゃ町ごと消し飛ばしちまいそうだ』


ほらやっぱり。


「...かしこまりました」


このまま目立ち続けるとこの場所にいる全員をご主人様が皆殺しにしかねないのだ。


「一度でいいからあんな女とやりてぇ」


『うっせぇ。バーーーカ!! この肉団子共が! こっち見てんじゃねぇ殺すぞ!』


「...落ち着いてください。ご主人様の御声は普通の人には聞くことは叶いませんので、そう喚き散らしても意味の無い行動だと判断します」


『うっせ!』


「...ご主人様」


『んだよ! 今めしゃくしゃしてんだから話しかけるんじゃねぇ!』


「...ほんとうに、今夜あの兄妹達を...」


『殺す、か? 俺様の言った事は絶対だ。俺様は、昨日の夜容赦しないって言った。なら、お前がやらなきゃいけない事は決まってるよな? いいな? もうないな? じゃあ、話かけんじゃねぇ!』


「...お手を煩わせて申し訳ございませんでした」


私はどうすれば良いのだろうか...。殺せるのか? あの兄妹達を...。いいや、殺せるのかじゃない、殺さなければならないのだ。今更、人間を殺すのに何の躊躇もありはしない。その証拠に最初に人間を殺した時、驚く程何も感じなかった。後悔も恐怖も喜びも...。なのに何故だろうか。ルークとマリア、あの兄妹達を殺すと思うと胸の奥がざわつく。このざわつき一体何なのかは分からない。しかし、ご主人様の命令を完璧に遂行するのに邪魔になるのは明らか。突き止めなくてはならない、このざわめきの原因を......。


『っち! ...オメェに良い事を教えてやる』


「? なんでしょうか」


『殺す時は何も考えない事だ。戦いに一番邪魔なものは一に感情、二に余計な思考。どうしたら効率的に殺せるか。どうしたら俺様の命令をこなす事が出来るか。それだけを考えて生きていけ』


「......はい、しかと胸に刻み込んでおきます」


『よし...ならいい加減ここから出ようぜ。本気でこの連中殺したくなってきた』


「...はい」


魔槍を持ち直しドレスに付いた埃を払うと、立ち上がり入り口に向って歩み始めた時――。


「依頼を受注していたフリージア様! 任務を依頼された冒険者がいらっしゃいました。受付までお越しください!」


タイミングよく、受付嬢の声が聞こえてくる。二度手間にならずに済んだ事を安堵しつつ、歩みを再開する。一階に続く階段の所にたむろしていた人だかりが綺麗に二つに割れ、フリージア達の通る道が出来た。その道を悠然と歩く姿は、まるで何処かの王族の様な勇ましさを感じた。それが、冒険者達にも伝わったのか舐め回す様な下卑た視線に加え、尊敬や畏怖といった視線も混じり始めた。


「...ご主人様。黒の気配を感じます」


『トリエラとはまた違う気配だな。...うん! 人としちゃたいしたもんだ! 久しく感じなかった感じだ...是非とも会ってみたい』


確かにトルエラの様などす黒い気配とはまた違った綺麗な黒色。


「...ご主人様の求めるものは私の求めるもの。...しかし、今は情報を集めるのを優先させて頂きたく思います。情報収集完遂後、気配を探し、会いに行きましょう」


『わぁってるよ。それぐらい俺様も心得てる』


階段を降り終えると受付の方へ視線を移す。すると、どこか見知った顔が受付嬢と共にフリージア達を迎えているではないか。


『おいあいつって...』


「...はい。おそらくご主人様の思われている事は私の思っている事と一致しています」


目の前には盗賊のアジトで出会った青年が立っていた。


「ッな! 貴方は!」


青年の方もフリージア達の事を覚えているらしく、驚愕の顔を露にする。


「...彼がその冒険者ですか?」


「はい! こちら、ミハエルさんです」


「...どうも。ミハエルです......」


何ともバツの悪そうな顔で視線を外し、此方に向ってお辞儀する。


「...分かりました。では、後はこちらで行いますのでこの方を連れて行っても宜しいでしょうか?」


「...え? あ、はい! こちらの手続きは既に完了しておりますので、後はミハエルさんにお任せします!」


「...では、ミハエル様、此方にお越しいただけますか?」


「え? ...うん」


ミハエルと呼ばれる青年の手を引くと自分の顔の直ぐ側まで寄せる。そして、そっと耳元に顔を近づけ――


「――先の件についてはご内密でお願いします」


「ッひ! ...あ、え、その...分かりました」


周りに聞こえない程度の小さな声で話しかけると同時にミハエルの答えを聞かずにそのまま手を引き、集会場を後にした。


「それにしてもおかしな依頼だったな。一般常識を教えて欲しいなんて......」











「あの...君の依頼は集会場でも出来るんじゃない...かな?」


「...あそこでは人の目がありますので」


「じゃあ何処で話を...」


『適当なカフェにでも入れ。出来るだけ目立たない所でな。もうあんな事はごめんだ』


「......付近で出来るだけ目立たない場所、知っていますか?」


「えぇー。行き成りそんな事言われても。――あ」


何かを思い出した様な顔で赤らめるミハエル。気の抜けた声で何かを思い出した。ちらちらとフリージアと地面を交互に見てもじもじしている。


「...何か考えでもあるでしょうか?」


「あ、いいえ。ある事にはあるんだけど、その...」


『聞いてるだけでイライラしてくるな。思った情報が手に入らなかったらあいつぶっ殺そうぜ』


「...答えがあるのであれば早急な回答を」


「えーと。僕の泊まってる宿であれば人は目は入りません...けど――すみません! すみません! 知らない男の泊まっている部屋なんて嫌ですよね! 今のは聞かなかった事にしてください!」


「...ご主人様」


『そこでいい。さっさと済ましちまえ』


「...はい。そこにしましょう。案内をお願いします」


「え? ほんとうに良いんですか?」


「...貴方に下心はありますか?」


「ありませんよ! そんなもの」


「...なら、問題ありません。さ、案内をお願いします」


「...あ、はい...分かりました」


歯切れの悪い返事をすると、目的の宿に向って歩き始める。


「...貴方は男性? ですか」


「え! あ、はい。...一応。よく間違えられますけど」


改めてミハエルの身体を見てみると嘘をついているのではないかと思うほどだ。男性とは思えない華奢な体躯、生まれてくる性別を間違えたのではないかと思ってしまう程だ。そこに、低身長もあいまって本格的に女性に見えてしまう。それも、美人な部類の...。そんな、男装をした女性と、ドレスを纏った美少女。その二人が一緒に歩いているとどうなるか。火を見るよりも明らかな事だ。


「...もう少し、早くお歩きくださいますか?」


「は、はぁ...。分かりました」


「...あまり目立つのはよろしくありませんので」


道行くあらゆる人間が二人の少女。いいや、一人の少女と一人の少年に見惚れ、振り向き、目を釘付けにしていた。二人の美貌もさる事ながらその風貌も人の目を惹き付ける要因になっている。一人は男の姿をした少女。一方、もう一人は目に見て分かるような高価な衣装(ドレス)を身に纏い、手には何やら見た事が無い様な材質で造り上げた槍を携えている。その少女に似合わない大きな槍が人の目を惹き付けるだけで留まっている様だ。


「ねぇ、何であの子槍なんか持ってんの?」


「さぁー。見る限りだとどっかの貴族のお姫さんじゃねぇか? ほら、御付の子供もいるし」


「いや、でも御付が子供一人って...。しかもあの子男装してるけど女の子って事ばればれだし」


「そんな事俺が知るかよ。さっさと買うもん買って次の任務(クエスト)備えよう」


「はーい」


「...」


「...あの。すみません、何か変な誤解をさせてしまって」


「...構いません。それより、貴方が宿泊している宿と言うのは何処ですか?」


「えーと。...はい、ここです」


ミハエルが指差した方向を見てみると一軒の宿屋が目に入る。外見は見るからにボロく、所々の窓ガラス割れている。前回の様な男達が窓ガラスから飛び出してきたからではなく単に経年劣化によるものものだろう。


「...入りましょう」


「すみません。お金が無くてこんな宿しか借りられませんでした」


「...構いません」


ミハエルは受付の老婆から鍵を受け取ると階段を上り、一番奥の扉の前に立つとぎこちなく鍵を差し込み、回すと部屋に入っていった。その後ろにフリージアが付いて行き、狭い廊下を見渡すとそのまま部屋へと入っていく。















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