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復讐の鐘が鳴る時  作者: 柊なつこ
一章 荒れ狂うは雷の刃
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説明会

あ、暑い...

宿に戻ると既に二人は寝ていた。置いておいた食べ物はちゃんと食べたらしく、空のバスケットだけが棚に置かれている。バスケットを取り、代わりにトルエラを置く。そして、狭い部屋の隅に移動し魔槍を立て掛けると、直ぐ側に自身も三角をつくり、座り込んだ。


「...」


どうする...。流れ的に明日、トルエラと戦わないといけない。ご主人様によればマリアかルーク、どちらか、あるいは両方と既に接触しているらしく。トルエラの反応を見る限り間違いはないだろう。つまり、明日、マリアとルークを――


「――殺す...」


『いくら俺様と同じ邪神つってもトルエラの契約者はあのガキのどちらかだ。戦いになんねぇかもな...』


「...ご主人様達にとって契約者はそんなにも重要なのですか?」


『何当たり前なこと言ってやがる。(ただ)のガキに良い武器持たせても訓練された野朗に勝てる訳ねぇだろ』


「...しかし、相手は貴方様と同じ邪神。油断するのは迂闊な判断なのではないでしょうか......」


『オメェそれは相手が人間だった時の話だろ? ......あーオメェには色々と教えといてやらにゃいかんな』


「...」


ガルバルディアの発言に無表情な顔で固まってしまう。少し、補足させて貰うといつもは僅かな表情の差で感情を表現しているフリージア。(その僅かな表情を汲み取ってくれる人は今の所いないが)からしてみればこれは驚きを通り越して驚愕の表情である。


『...なんだよ』


見ればご主人様は自分のやりたい事をやらしておいて説明をしてはくれない。『あーやれ』『こーやれ』と命令され、説明を求めると『うるせぇ!』だの『黙って言う事聞け!』だの兎に角、自己中心的なのだ。だから大っ嫌い...と言う訳ではないが......まぁ、...いい機会だ、分からない所を聞いておこう。


「...いえ、よろしくお願いします」


ワザとらしく咳払いをすると。意気揚々と説明を始めた。


『まずは契約者についてだが...さっき言ったとおり、唯の人間相手なら赤ん坊だってかまわない。ようは邪神の権能を上手く扱えるかどうかってっこった』


「...私はここに生まれすぐ戦闘になりましたが貴方様の権能をある程度扱うことが出来ました。他の契約者も私と同程度、あるいはそれ以上、扱う事は可能では無いのでしょうか?」


『いや、それはオメェが特殊なだけだ。お前を造る時に俺様の一部を組み込んであるから最初から達人並みに扱う事ができた...ほら、自分の身体動かすのに一々学んだり、考えたりしないだろ? 話は戻すが普通はどんな天才でも最初からあぁは上手く扱えない...最悪、魔力を食い尽くされて死んじまう。』


「...セルマと戦闘時、私は意識を失ってしまった時がありました」


『それは神降ろしの時だな』


「神降ろし?」


『その名の通り、自身の身体に神を降ろす事。通常、十崩器みたいに器を経由していれば権能を四割の力しか使うことが出来ないんだが神降ろしをやっちまえばほぼ十割の力を発揮する事が出来る』


「...ほぼ...とは?」


『あぁ、神降ろしにはちょっとした弱点があってな...まずは持ち主は自身の身体の制御を失う、あと並みの奴がやると一瞬で死んじまう』


じゃあ使えないじゃん。


「...私は死にませんでした」


『さっきも言ったがオメェは特別。神降ろしは物凄く魔力を喰っちまう。だから、並みの奴はすぐに魔力を吸い尽くされて死んじまう。つまり、お前が死ななかったのはどういう事かって言うと、無尽蔵に魔力を貯蔵するオメェにはあまりデメリットにはならない』


最後の切り札と言う訳か。


「...前々から気になっていたのですが、一欠けらの魔力の源(オド)に含まれる魔力はどれぐらいなのでしょうか?」


ベルトポーチから一欠けらの宝石、魔力の源(オド)を取り出しながらガルバルディアに問いかける。


魔力の源(オド)ってのは魔力を凝縮した塊みたいなもんだ。あー...人によってまちまちだからな。...そうだな。お前が今もっているおやつ(・・・)、あれ一つで生きるだけなら五日から一週間、戦うのなら一日ぐらいもつ』


そんなものか。多くもなく少なくもなく、まぁこんな物だろう。フリージアはおもむろにベルトポーチを外すと留め金を外し中身を床にひっくり返した。


『何だ?』


「...いえ、今どれだけ持っているのか少し気になりまして。私の貯蔵出来る魔力は無尽蔵なのですよね?」


『さっき言ったばっかじゃねぇか? ...あーあー成る程ね、どうして魔力の源(オド)を溜めておく必要があるのかってか?』


さすがご主人様。察しが良い。硬貨と魔力の源(オド)を仕分けながら頷く。


『この先オメェの魔力を吸収してくる敵が居ないとも限らねぇ、急に魔力を抜かれたら如何(どう)する? そんな事になったら自然回復出来ないお前は即ばたんきゅーーだ』


「...つまり、もしもの為の非常食だと?」


ひい、ふう、みい...全部で百二十個か。殺した聖騎士の魔力の源(オド)は人の物とは違って一回り程でかくて何だかお得な感じ...まぁそんな事はどうでもいい。当分はこれで大丈夫だろう。っと言ってもまだ旅は始まったばかりだ。何に備えて何を準備したら良いかも分からない状況だ。本当の所魔力の源(オド)がこれだけあって十分かどうかなんて分からないし。それに、今はどんな情報でも欲しい所。幸いにも明日は何もやることはない。町に出て情報を収集しに行こう


『そういうこった』


「...ご主人様。明日また、町に出ましょう」


『情報収集か?』


「...はい」


『また図書館に行くのか?』


「...明日は歴史や国の事ではなく、旅に何を備えないといけないのか、気を付けないといけない事はないか、また、この世界の常識や硬貨の価値。図書館にはない情報を集めに行きます」


『なら人の多い所だな』


「...はい。人の多い市場。それに、冒険者なる者達の集まる場所。そこいらを重点的に調べて行きます。ついでに今後の生活物資も買いましょう」


散らばった魔力の源(オド)(すく)い上げるとポーチの中にしまっていく。そして、残った硬貨も数えながら一枚づつしまっていった。盗賊から略奪する時、ある程度仕分けした甲斐もあって殆どが金貨、少し銀貨も交ざっている。


「...金貨が百十枚。銀貨が十二枚」


この世界の硬貨の価値は明日調べてみないと具体手には分からないがこれだけの金があれば物資を買うのには困らないだろう。それより――


「――...彼ら(裏切り者)はいつこの世界に来るのでしょうか......」


『そればっかりはわからんな。まぁ焦んなって三十四人だったか? そんな人数一気にこの世界に召喚するんだ、少しでも感知する能力がある奴だったらどんなバカでも分かる』


ダメだこの世界に来てから知っても何の意味もない。来る前に知らなければ。あいつ等にこの世界の空気を吸わせない。一瞬だ、一瞬であいつ等を殺す。それに(ただ)殺すんじゃない、味わった事がない痛みをあいつらの身体に刻み込んでやる。


「それも明日、それらしい情報がないかあたってみましょう」


『そうだな。兎に角、明日の朝、行動開始だ』


「......そう言えば意識を失うことはありましたが眠ることはありませんでした。これもこの身体に備わった機能なのでしょうか?」


幾ら走っても、幾ら戦っても、幾ら考えても眠気は来ない。何だか不思議な感覚。熟睡してすっきりした状態で起きた時の感じ。その感じがずっと続いているんだ。私自身は睡眠に未練なんてないし、眠たくならないのなら活動できる時間が増えるから良いのだが。


『お前は俺様の護衛の為に造った。造れたのはお前だけ。護衛は一人だ。俺様が寝る時、誰が俺様の事を守る?』


「...成る程。つまりは私は睡眠を取らなくても問題ないのですね?」


『そう言うこった』


理由は分かった。成る程そう言う事か理にかなっているな。ん? 造れたのはお前だけ?


「...私の他に造る予定があったのですか?」


『お前が完成する時。お前を造った奴が『これじゃ護衛として数が足りない』って言い出してな。っま、設計段階で俺様は封印されちまったから完成したかどうかなんて分からないがな。正式名称もあったぞ、確か――』






花嫁(ブライド)の神造人形(マキナ・ドール)


十七歳くらいの少女。ガルバルディアが知識や技術を提供し、■■■■の手によりガルバルディアが人間の形で現世に降りようとした際に護衛兼奉仕要因として運用しようと造り上げた人形。様々な神殿や墓地、祭壇なのに眠っている英雄や化け物達の因子を組み込んでおり、一人で聖騎士全員と渡り合える程の力を有している。尚、ガルバルディアによると最初に造り出した花嫁(ブライド)の神造人形(マキナ・ドール)の他にも数体、造る予定だったらしいが――






起きたルークに外に出てくる旨を伝えると何だかたどたどしい様子で頷いていた。何だったんだろう。もしかして昨日の事を気にしているのか? いや、そんな感じじゃなかった。何と言うか...何か隠している? という感じだ。そんな事を考えつつ私は今、冒険者の集う場所にいる。


『仕方が無いとはいえ、汚ねぇ連中にお前をじろじろ見られるのは気に入らねぇな...』


「...しばらくの辛抱です。どうか、ご容赦ください」


二階建ての大きな建物に窓口が三つとその直ぐ側に掲示板があり、冒険者らしい集団が掲示板の前でたむろしていた。どうやら、掲示板で張り出してる依頼の紙を窓口に持っていくシステムのようだ。二階はどうなっているんだろう。


「...酒場」


『仕事終わりに一杯ってか』


まだ日が昇って間もないと言うのに何人かが酒を飲んでいる。元の世界では有り得ない光景だ。いや、比較しようがないか...。さて、どう情報を集めようか。


「...聞き込みでもしましょうか」


『いや、そんな事をするよりよっぽど効率的なやり方があるぜ』


「...効率的なやり方?」


『簡単な話だ。依頼を出しちまえばいい。そうすれば情報が向うから寄って来る』


「...ではその手で行きましょう」


階段を下りて、近くの窓口に向う。早朝に来たことが幸いし特に並ばずに受け付けに辿り着けた。以前、周りに感じる視線を無視して目の前の受付上に問いかける。


「...此方(こちら)で依頼と言うのは出来るのでしょうか?」


「...は、はい! 確かに此方の窓口で任務(クエスト)の依頼を受注、受付を、お、お、お、お行っておりましゅ!」


短い髪(ショートヘアー)を揺らしながら真面目そうな顔を真っ赤にして受け答えを行う受付嬢。しかし、そんな事は意に介さずそのまま話を続けた。


「...では、依頼に必要な手順をお教え願いますでしょうか?」


「はぁーなんて綺麗な顔なんでしょう...え? はい! ではまず此方の紙に氏名やどういった事を依頼したいのか、成功報酬は幾らかなど、どの国の言語でも構いません。必要事項を明記してください」


「...あ」


軽く目を通すと、自然と声が出てしまった。日本語どころか向うの世界で見たことが無い文字が書き連ねている。話が通じるからてっきり読み書きも出来るものだと思っていた。日本語で書いてもいいが何を書いて良いのか分からない。しかも、向うの世界の痕跡も残ってしまう。


『...オメェ、もしかして......』


「...はい」


『クソ、目的に支障をきたすような事があれば調整(・・)が必要だな。しょうがねぇ、良い機会だからお前に俺様の力の使い方を教えてやる』


「どうかなさいましたか?」


「...いえ、何でもありません」


魔力の源(オド)は持ってきてるだろ?』


「...はい。持ってきています」


『よし、なにやる事は簡単だ。どんな知識が欲しいか思い浮かべながら魔力の源(オド)を喰いな』


「...そんな事で良いのですか?」


魔力の源(オド)ってのは魔力を生成する機関だけじゃなく第二の魂みたいなもんだ。その、一欠けらに生きた人間の記録が詰まっている。それをお前の、いや俺様の権能で文字の読み書きの能力を奪い取るって寸法だ』


そんな事も出来るのか。やっぱり凄いな邪神って奴は。じゃあ、この力を使ってもし剣の達人の魔力の源(オド)を奪い取ればその能力を自分の物に出来るって事だよな。そう思うとつくづく敵じゃなくて助かったと思う。そんな事を考えながらウエストポーチをまさぐると少し大きな魔力の源(オド)を取り出した。前、殺した聖騎士のだ。


『おぉ。珍しく俺様に聞かなくても判断できたじゃねぇか。うん、関心関心』


「...お褒めいただきありがとうございます」


聖騎士の魔力の源(オド)を選んだのは教養の問題があったからだ。普通の人間の物を使っても良かったんだがこの世界の人間を見た所、日本のようにみんながみんな読み書きが出来る程、識字率は高くないと判断した。しかし、騎士の類に属している人間ならどうだ。国の騎士の殆どが貴族出身だと言う事を昔、少し本で読んだ事がある。そして、その貴族は教養の高い人間。いや、正確に言うと、十分な教育を受ける事が出来る身分だ。最低でも読み書き出来る程には...。だから、奪える確率の高い聖騎士の魔力の源(オド)を選んだと言う訳だ。宝石の様にきらきらと輝くそれをひょいと丸呑みにする。


「あのぉー」


筆を執ると再度、紙に書いている文字を見てみる。すると、先程まで全く分からなかった文字が分かるようになっていた。さすがはご主人様の力、後でいろいろ試してみようかと思いつつ必要事項を書いていく。


「――これでよろしいでしょうか?」


「――はい。結構です。この依頼は正式に受理されました。...私が言うのも何なんですけど良いのでしょうか?」


「...と言うと?」


「はっきり申し上げますと冒険者の方の殆どは余り教養の無い人達ばかりですので私共の方でも審査はさせて頂きますが、受けて頂いた冒険者の方が提供出来る情報の質はあまり良いものでは...」


「...結構です。それより、どれくらいで受けてくれる人は来るのでしょうか?」


「ありがとうございます! そうですねぇ...この内容でこの報酬ですから直ぐにでも受けて頂けると思いますよ」


「...では二階で待たせていただきます」


「分かりました。では、受けられたら直ぐにお呼びいたしますね」

























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